プロローグ「黒歴史ノートと、計算違いの過保護」
「人生に必要なのは、スリルでも冒険でもない。完璧な安全と、快適な老後だ」
それが、かつて日本という国で社畜として働き、過労死した僕の結論だった。
だからこそ、この剣と魔法の世界に転生した10年前、僕は一冊のノートに「完璧な人生設計」を書き記したのだ。
その名も――『計画書:チョロい勇者を育成して、俺だけ楽をする完璧な人生設計』。
内容はシンプルかつ合理的だ。
1.才能ありそうな幼馴染を見つける。
2.裏からこっそり手を回して(スライムをけしかけたりして)、彼女を英雄に仕立て上げる。
3.僕は「善良な一般人の友人A」というポジションを確保する。
4.世界平和は彼女に任せ、僕は彼女の名声のおこぼれで安泰なスローライフを送る。
完璧だ。我ながら悪魔的で、素晴らしい寄生計画だったはずだ。
だが――今、僕、モブ・ヴェインは王都の大聖堂の片隅で、頭を抱えていた。
「……どうしてこうなった」
視線の先には、煌びやかなステンドグラスの下、伝説の聖剣を引き抜こうとしている幼馴染、セレスティア・ルミナスの姿がある。
プラチナブロンドの髪、宝石のような碧眼。僕の計画通り、彼女は誰もが憧れる清廉潔白な「勇者」に成長した。
しかし、僕の目には見えてしまっていたのだ。
彼女の華奢な小指に絡みつく、ドス黒く濁った『確定した死』の運命が。
そう。この世界の「脚本」は、勇者が魔王と相打ちになって死ぬバッドエンドがデフォルト設定だったのだ。
そんなの、僕の「快適な老後計画」に含まれていない。
何より――あんなにいい子が、世界のために使い潰されていいわけがない。
(……ふざけるなよ、神様)
僕は懐に隠したボロボロの「計画書」を強く握りしめた。
予定変更だ。
楽をするための「モブ」は廃業する。
これより僕は、彼女の生存ルートを確保するためなら、神ですら騙す「最強の裏方」になる。
魔王? 悪徳貴族? 死亡フラグ?
全部まとめて、僕が事前にへし折ってやる。
彼女には指一本触れさせない。苦労一つさせない。
この過酷な冒険を、至れり尽くせりの「安全快適なヌルゲー・ツアー」に書き換えてやるのだ。
「……見てろよセレス。君のハッピーエンドは、僕が捏造する」
大聖堂に歓声が響く。
今、世界を巻き込んだ、過保護すぎる脚本改変が幕を開ける。
(プロローグ 完)




