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そしてお弁当は食べられた

作者: 石神観遥

 動機をまずは聞こうか。飢え死にしそうなくらい腹が減っていたか。ほう、かくれんぼだからと弁当のほうが口に飛び込んできて、つい顎を動かしてしまったのか。なるほどね。だから何を食べたか自覚がない、と。

 さて、どこから行こうか。蓋を開けるところか。箸の準備もしよう。割り箸じゃないよ。手に馴染む柔らかさがあるんだから。

 キャベツのコールスローからか、ニンジンのラペにあるレーズンから入ろうか。おっ、マヨネーズをまとったマカロニまである。カリッとした刻みベーコンにスイートバジル、ほんのり粉チーズが振られているなんて小憎たらしい演出だ。だからか、伸び切ったケチャップ味のスパゲティがないよな。

 濃い色の海苔にくるまれた玉子焼きはふわふわだ。豆腐かハンペンを入れてあるみたいだ。

 ふむ、一口サイズの唐揚げが三つだ。揚げ色が淡い……塩唐揚げだ。最初はレモンは控えて、そのままで。あとは軽く絞ろう……うう、油っぽさなんてみじんもない。フレッシュだ。もう一口、あと一口、ああ、一個物足りない、なんて不憫なんだ。

 仕方ない。気を取り直して、エビフライだ……くっ、ソースが衣の中程までに染み込むように計算されているな。細いのに歯応えの弾力が強いぞ。香ばしい味わいだが、タルタルソースでないのはなぜだろうかと疑問に思ったりする。それよりカニクリームコロッケか一口カツでもいいな。

 サツマイモの甘煮を忘れていた。大学芋みたいにゆるい蜜がかかって、黒ゴマが嬉しいのに、砂糖煮みたいなのが残念だが贅沢は言うまい。

 このご飯、粒一つ一つが自己主張してこっちを見ているのに、頬張ればみんな仲良しだ。冷めても美味しいこの炊き方はなんだ。いや、品種……銘柄は、つやお嬢様か、マジぴりか、米太郎か。絶妙に何種類か、ブレンドしてあるのか。一粒たりと残すと罰が当たるぞ、こりゃ。よい具合に寝かされてとろりとした食感の梅干しが泣かせる。おまけにカレーでもないのに付け合わされた場違いみたいな福神漬が、妙に愛おしくて、奥歯でキュウリとハスがパリパリよく鳴るなあ。

 デザート、これがないと締まらない。指先を当てただけで火傷してしまいそうな、寒天でやわく固めたオレンジ果汁の香りが鼻から抜けるんだ。

 ああ、美味かったあ……満足だ。これだけ堪能できたんだ、午後の人生も張りが出たっていうのに。

 それをきみは食べたんだよね。

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