口裂け女
「ねぇ?わたし達の誰が一番きれい?」
真冬の雪の降る夕暮れ時。
薄暗いトンネルの中にいたのは大きなマスクをした3人の女性とランドセルを背負った男の子だった。
「誰が一番きれいかしら?」
「わたしよねぇ?」「あたしでしょ?」
少年は噂話の内容を思い出し、顔を真っ青にしてどう答えようか考えていた……
「うぅ……やっぱ寒い」
彼、健太はもうすぐ5年生になろうとしている男の子だった。
「僕の前世はネコだったかなぁ……身体は小さいし、寒いの苦手だし」
独り言を呟いている彼の横に活発そうな女の子がやってきた。
「ケーンタっ。雪が降ってるんだから遊ぼうよ~」
「ん~パス。寒いのはやだ。詩織は寒いのに元気だよなぁ……」
「健太が寒がりなだけだって。いまどきの小学生は雪が降ったら遊ぶのは普通っ」
そんなことを言いながら詩織と呼ばれた女の子は親指を立ててきた。
「……絶対前世はイヌだな。もしくはキツネ」
ボソッと聞こえないようにいったつもりだったが詩織にははっきり聞こえてたようだった。
「むぅ~雪を駆け回るからイヌってひどいなぁ」
「まぁ僕はこれから図書委員も仕事があるから他の人と遊んできなよ」
「むむぅ~……しょうがないなぁ……暇になったら来てよ?」
「はいはい」
こうして詩織と別れた健太は委員会活動場所である図書室に向かった。
図書室でカウンターに座りながら文庫本を読んでいた。
「やっぱ暖房が効いていて誰も来なくて静かでいいなぁ……」
独り言を呟くがそれを聞く人は全くいなかった。
「おっ、もうすぐ読み終わるな……次は何を読むかなぁ…」
本を読みながら考えていると不意に後ろから声をかけられた。
「ちょっといいかな、健太君?」
「はい?……あ、先生」
健太に声をかけたのは先生だった。
「用事を頼まれてくれないかな?」
「ん~いいですよ。いつもこの場所に居させてもらってますから」
「ありがとう♪奥のほうに本が積んであるからそれを種類ごとに本棚に入れておいてね」
「了解です」
頼まれた仕事をこなすために支持された奥の部屋に入っていった。
「ん~これがここで……これはこっちで……」
黙々と作業を進めている健太。
「あともう少し……この山で終わりだ」
あと一山で終わる本を見て、そのついでに図書室の時計を見た。
「ってもう5時を回ってるじゃんっ」
あたりは薄暗くなり始め、外に人の気配が全くしていなかった。
「あっちゃ~……流石に詩織のヤツ帰っちゃっただろうなぁ…」
ブツブツと独り言を言いつつも、せっせと仕事を終わらせた。
「ふぅ~……よしっ、鍵を閉めて」
いつも通り施錠をして図書室をあとにし、職員室を後にして下駄箱に向かった。
健太の靴が入っている下駄箱には詩織が書いたと思われる手紙が入っていた。
『今日は用事があるから先に帰ってるね。詩織』
「やっぱり……」
予想通りだったので手紙をランドセルの中に入れて、靴に履き替え岐路につくことにした。
「うっわ~……流石に暗いや」
健太の帰る道の途中には長いトンネルがあり、夕方になると明かりが点くのだがあまり明るくない。
「うぅ……怖いのは苦手だよ……」
最近、学校では怪談話が流行っていてあることないことを話していて、怖い話が嫌いな健太は少し恐怖を感じていた。
「たっ確か……雪の降る夕暮れ時って……口裂け女が……」
話を思い出しただけで身震いがして、思わずトンネルを走り抜けようとした。
少し走って、もうすぐトンネルの出口に出そうな時に一目散に走っていた健太は前を見ていなかったために誰かとぶつかってしまった。
「あっ……ごっごめんなさい」
「大丈夫よ」
そこには顔が覆い隠されるほど大きなマスクをした3人の女性達がいた。
「ところでボウヤ、わたし達の中で一番きれいなのは誰かしら?」
不意にそんな質問をされてきょとんとした健太だったが、怪談の話を思い出し、背筋から血の気が引いていくのを感じた。
(こっこれって、口裂け女ッ!?でっでも口裂け女って1人じゃ……)
「誰が一番かしら?」
「あたしよね?」
「わたしでしょ?」
「えっと…………」
どうすればいいかを考えたが、全く対処法など思いつかずに唖然としていたが、女達が痺れを切らしてきた。
「早く答えてよ」
「早くしなさいよ」
「誰が一番なのよ」
「ええっと…………おっお姉さん達は皆きれいだと思いますっ」
ついに答えを出した健太だったがその答えに女達はさらに質問をしてきた。
「「「これでもぉ?」」」
「ひぃっ……」
女達は顔を覆っていたマスクを外してきた。
マスクの下にあったのは口の端が頭まで届くのではないかと思われるほどの大きな口だった。
「わたし達で一番きれいなのは誰かしら?」
「はっきり答えてよ」
「そうよ」
よく見てみると背の低い女の口が一番小さく、背の高い女の口が一番大きかった。
それで健太は思わず
「じゃっじゃあ一番右の人っ!」
「うぅ……」
「うぅ……」
「やっぱり」
左の2人はうつむき、満足げに笑っているのは右の女性だけだった。
「「……わたしが一番よ……」」
左の2人がフラフラと健太によってきて肩を掴んだ。
「「私が一番よっっ!!」」
「ひっっ……」
2人の女性は懐に持っていた鉈を取り出し健太に向かって振り下ろした。
そして真っ白い雪は真っ赤な血に染まっていった。
~次の日の朝~
「やっぱ1人で帰っちゃったのはまずかったかなぁ~学校であったら謝っとこ」
詩織はそんなことを考えながらいつものようにトンネルを抜けようとしたら倒れている人影のようなものがあった。
「えっ……どうしたのかな……」
おそるおそる近づいてみると……
「ひっ」
倒れている人には首がなかった。
「きゃぁぁぁぁぁーー」
詩織の悲鳴を聞きつけ、近隣の大人たちが集まってきた。
「うわっ……」
「とりあえず警察を呼べっ」
「身元がわかるものは……」
大人たちが死体の隣に落ちているランドセルを探ってみた。
「あったあった……えっと……4年3組大塚健太君か……」
「えっ……」
詩織は聞き覚えのある名前に反応してしまった。よく死体を見てみると昨日健太が着ていた服と同じような気がする。
「もしかして……健太……なの……?うそ……」
呆然とたたずんでる詩織をよそに大人たちはてきぱきと対処して、警察も死体を回収し、そして皆帰っていった。
そこに残されたのは探られた拍子に落ちてしまった紙切れと詩織だけだった。
その紙切れに書いてあったのは
『今日は用事があるから先に帰ってるね。詩織』
その文字を見た瞬間に、涙が溢れ出してきたが、それを見ているのは誰もいなかった。
口裂け女の豆知識です。
質問されたらポマードと言えば助かるらしいですね。ベッコウ飴も効果的らしいです。
ちなみに今回の口裂け女は韓国の口裂け女を元に話を作ってみました。
口裂け女が出るようになった理由はたくさんあります。
「二人の姉妹がいて、姉は美人で妹はとても不細工でした。それをみて不憫に思った母親は姉の口を包丁で裂きました」「三姉妹がいて事故が起きてしまった。二人の姉は死んでしまったが、末っ子は何とか生き残りました。しかし口が裂けてしまいました」etc……
口裂け女の最後を皆さん知っているでしょうか?
いつものように一人で歩いている少年に口裂け女は声をかけました。「私、きれい?」と。すると少年はこう答えました。「お姉さん?僕、目が見えないんだ。だけど声がきれいだからきれいじゃないかな?」と。その答えを聞くと口裂け女はごめんなさいといいながら消えてしまいました。次の日から口裂け女が出るという話は聞かなくなしました。
こんな終わり方です。
では、また次の話まで。