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兄は安堵する

 こはが母のいる林にいる。

 本日の業務を終えてGPSを確認してザっと血の気が引いた。


「央太、後は任せた!!」

「え!? ちょ、雪兎さん!? 何を……」


 央太が何か叫んでいたがそれに構っている余裕などない。

 俺は事務所を飛び出して大急ぎでこはの下に向かった。


 GPSを確認しながら林の近くまで着いたところで、ちょうどこはが林の中から出て来た。

 その無事な姿を見て思わず泣きそうになりながら、そのまま駆け寄りこはを思い切り抱きしめた。


「こは!!!!」

「えっ? お兄ちゃん!? 何でここに??」

「GPSがこはが林にいるって言うから」

「えっ」

「無事で良かった……」


 そのまま暫くこはの無事を確認するようにぎゅうぎゅうと抱きしめた。

 こはは何か言いかけたようだったが、心配をかけたことは分かっているようで結局一言「ごめんなさい」と言っただけで後は何も言わずポンポンと背中をたたいて俺を慰めた。



 結果として、大丈夫ではないが最悪な事態は避けられたようだ。

 こはの話によると、帰る途中に行き倒れていた河童を助けたら恩返しがしたいと言うからついてきたらここに連れて来られたのだそうだ。

 知らない人について行っちゃいけませんと苦言を呈すると、助けてくれた綺麗なお姉さんにも同じことを言われたという。それを聞いて、こはは母に会ったのだろうと悟った。しかし母は自らの正体をバラすことなく、俺と父によろしくと言って帰してくれたと言う。


「そういえば、何で『お父さんとお兄ちゃんによろしく』だったんだろう? 普通『お母さんとお父さんによろしく』じゃない?」

「さあ? 鬼だからじゃない?」

「あ、やっぱり鬼だったんだ。そういえばちょっとお兄ちゃんに似てたような??」

「ははは。俺が人間離れした美しさだって? じゃあこはの可愛さはその遥か上だから全てを超越した可愛さってことだな」

「ちょっと何言ってるか分かんないな」


 とりあえずこはの話をヒヤヒヤしながら躱して何とか家へと帰ったのだが、夕食時、クソ親父がその俺の努力を全てを台無しにしてくれた。




「なんだ。小春、母さんに会えたのか」

「え?」


 ポカンとするこはも可愛いなぁと思いつつ、俺は素早く札屋で買った一番強力な札を父に向かって投げつけた。父はそれを反射的に躱した後、飛んで来たものが何だったかを確認して蒼褪めた。


「雪兎? 何してるの? 父さんに殺したいほどの恨みでもあるの??」

「殺したいとは思ってないけど、半殺しにしたいとは今改めて思った」

「殺意じゃなくて良かったけど、改めてって何? 以前から半殺しにしたいって思ってたってこと??」

「母さんの話に関してはな」


 俺が苦々しくそう言うと、父は困った顔で笑った。


「まあそう言うな。もしお前たちが母さんに会うことがあればちゃんと話そうと決めてたんだ。小春にも知る権利がある」


 頭に血が上って忘れていたこはの存在を思い出し、ハッとしてこはを見ると状況についていけていないこはがパチパチと目を瞬かせている。


「小春、雪兎に話した母さんの話、聞きたい?」


 目を輝かせてこくこくと頷くこはに逆らえる筈もなく、俺は深くため息をついて父が話すのを黙って見守った。



「――というわけだ」

「なるほど。大恋愛だ」


 父の話を聞き終えたこはの第一声がそれだった。

 というか、父は俺に話した母の話と言ったが、そんな馴れ初めだとか結婚までの交際の様子など聞いた覚えはない。というか聞きたくなかった。


「なんでお兄ちゃんはこの話を私に隠したがってたの? 両親の恋バナが思春期の娘の教育に悪いと思ったから?」

「恋バナ部分は俺も初耳だったが」

「あ、そうなんだ」

「こはに話さなかったのは……こはが母さんのとこに行きたがると思ったからだ」

「え?」

「だってこんな父さんより母さんの方が良いだろうし、俺もなんだかんだこはに厳しくすることもあるし……」

「お兄ちゃん……」


 困ったような顔をするこはを見ていられずに俯く。きっと優しいこはは俺を傷つけずに母の下へ行くにはどう言うべきか考えているのだろう。父がその後ろで「こんな父さんって何!?」って言ってるがそちらには無視を決め込む。

 こはの望みなら笑って背中を押してやるべきだと分かっているのに、それが出来ないなんて兄失格だ。


「馬鹿だなぁ、お兄ちゃん。私、お母さんのところに行きたいなんて思わないよ?」

「…………え?」


 自分にとって都合の良すぎる言葉が聞こえた気がして思わず顔を上げた。そんな俺を見て、こはが楽しそうに笑っている。


「だってこは、母さんの事気にしてただろう?」

「そりゃあいるなら知りたいって思うでしょ」


 そういえば母のことを知った時、自分も「何故教えてくれなかったのか」と父を責めたことを思い出し今更ながらこはに申し訳なく思った。


「隠しててごめんな」

「結局教えてくれたし、もういいよ」

「こは……大人になったんだなぁ」

「何それ」


 笑顔のこはを見て、俺は今回の騒動が最高の形で終結したことに安堵したのだった。




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