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妹は帰り道に緑の生き物を助けて、謎の女性に助けられる

 兄の事務所で助手の仕事を始めてから1ヶ月が経った。

 始めこそ何か母のことが分からないか気を張っていたが、1ヶ月も経つと仕事にも慣れたし褒められると嬉しいし、充実した毎日に「まあそのうち分かれば」くらいの気持ちになっていた。我ながら単純である。


「央太さん、これ終わったんでチェックお願いします」

「はーい、ありがとう」


 央太さんには教育係として最初の頃こそ付きっきりで仕事を見てもらっていたが、兄に申し訳なかったので必死に仕事を覚え、今ではこうしてチェックをしてもらうくらいでそれ以外はそれぞれの仕事をしている。私も成長しているのだ。


「うん、完璧。もう今日の仕事はこれで終わりだから雪兎さんに許可とったら帰っても大丈夫だよ」

「はーい!」


 そして最初の頃こそ仕事が遅くて帰りはもう暗いからと兄と一緒に帰っていたが、仕事のスピードが上がった今ではこうしてまだ明るい時間に仕事を終えられることも増え、恋人たちの時間を確保するため邪魔な私は速攻で帰宅するよう心掛けている。


「お兄ちゃーん、今日の分終わったから帰るね」

「もう終わったのか、こははやっぱり優秀だなぁ。暗くなる前に気を付けて帰るんだよ」

「はーい。お疲れ様でした」


 事務所を出ると大きく伸びをして「今日もいい仕事したなぁ」と1人満足しながら1歩踏み出したところで、目の前に奇妙なものが落ちていた。

 全体的に緑色で、バスケットボールくらいのサイズで、亀の甲羅みたいなのがついてて、甲羅から出ている何かはツルっとしていて……これはもしや。


「河童?」


 私の声が聞こえたらしくぴくりと動いた推定河童はボソリと何事か呟いたが、声が小さすぎて何と言ったか聞こえなかった。

 その為横にしゃがみこんで耳を澄ますと、「みず……」というのが辛うじて聞き取れたので、確か河童って乾いたら死ぬんじゃなかったっけ? と思い出した私は慌てて近くの自動販売機へと走った。



「助かりました。貴女は命の恩人です」

「いえいえ。間に合って良かったです」


 ペットボトルの水を買ってきてツルっとした場所を中心にジャバジャバと思い切りよく水をかけると、推定河童はよろよろと起き上がった。うん、やっぱり河童っぽい。


「本当に助かったので、何かお礼をさせてください」

「え!? いや、そんな大したことしてないから大丈夫だよ! ただ水かけただけだし」

「いいえ! 貴女は水をかけただけとおっしゃいますが、もし貴女がいなかったら僕は干からびて死んでいたでしょう。だからお礼をしないと気が済みません! どうか僕の為と思って!」

「そ、そう? じゃあそこまで言うんなら」

「ありがとうございます!」


 着いてきてください! と嬉しそうにちょこちょこ歩くのを「可愛いなぁ子供かなぁ」と思いながら、ゆっくりと着いて行った。




 どうしよう。河童ちゃんがお兄ちゃんが通っちゃいけませんって言ってた道を進もうとしている。


「ねぇ、まだ遠い?」

「すぐそこなのです。この道の先に僕の家があるのです」

「うーん……ごめんなんだけど、私この道は通っちゃいけないって言われてるんだよね」

「そうなんですか? 誰にですか?」

「お兄ちゃんだよ。妖怪た……との揉め事を解決するお仕事をしてるの」


 妖怪相手に妖怪『退治』屋と言うのも気が引けて咄嗟に誤魔化してしまった。

 ま、まあ間違いではないからいいよね。


「なんと! 問答無用で退治してくる人間もいると言うのに立派なお兄様ですね!」

「ははは」


 その人間知ってる。うちの父と兄だね。


「だったら大丈夫ですよ。たぶんお兄様が通っちゃいけないと言ったのは、この道の先に怖い鬼がいるからだと思うのです。僕の家はすぐそこで、僕たちも鬼は怖いから絶対に会わない場所だから大丈夫です!」

「そうなのかなぁ?」

「妖怪に詳しいお兄様なら絶対そうなのです!」

「……そうだね。きっとそうなんだろうね」

「です! さぁ、もうすぐそこですよ。行きましょう」

「うん」



 林の中をちょこちょこ進む河童ちゃんに着いて歩く。木が生い茂ったその道は薄暗くて少し不気味だ。

 林に入って結構歩いたけど、なかなか河童ちゃんの家に着かない。元から薄暗くて分かりにくいけど、だんだん日が暮れてきている気がする。


「ねぇ河童ちゃん、まだ着かない?」

「もうちょっとです! もうすぐそこなのです!」

「暗くなってきたから私そろそろ帰らないと、お父さんもお兄ちゃんも心配しちゃう」

「大丈夫です! もう着きます!」


 もうすぐ、大丈夫、を繰り返す河童ちゃんに少し不安になってくる。

 妖怪と人間でその辺の感覚が全然違うんだったらどうしよう。


『ねぇ貴女、何をしているの?』

「え?」


 突然耳元で女の人の声がして私は驚いて振り返った。

 そこには銀色の綺麗な髪に白い肌、宝石みたいな綺麗な赤い目の女の人が立っていた。なんとなく誰かに似ているような??

 その額には角が2本生えているからたぶん妖怪。


『どこに行くの?』

「えと、ちょっとその河童ちゃんのおうちまで」

『河童ちゃん?』

「はい、そこに……あれ?」


 女の人が首を傾げるので河童ちゃんを紹介しようとしたら、河童ちゃんがいない。どこ行った??


『河童ってね、面倒くさいの。私が言うことじゃないと思うけれど、知らない人について行っちゃ駄目よ?』

「うっ……き、気を付けます」


 やっぱり騙されてたのかな? けどきっといなくなったってことはそういうことなんだろう。


「親切なお姉さん、ありがとうございました」

『うふふ、お父さんとお兄ちゃんによろしくね』

「……はーい」


 やっぱ報告しなきゃ駄目かなぁ? 駄目だよね。嫌だなぁ怒られるだろうなぁ。


 報告するか否か以前に、林を抜けたところに何故か涙目の兄がいてぎゅうぎゅうと抱きしめられた。どうやら私には過保護な兄によりGPSが付けられていたらしい。

 プライバシーの侵害を訴えたいが、今回すごく危険だったのだと泣きながら叱られた為結局何も言えなかった。ちくしょう。


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