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妹は母の情報を得ようと頭を悩ませる

「はぁぁ~~~……」


 朝から自分の席に座った途端大きなため息をついた私を見て、既に来ていたクラスメイトであり親友である浜辺(はまべ)奈緒(なお)ちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「どしたの? 昨日はおじさんと雪兎さんに盛大に祝ってもらったんでしょ?」

「いやそれがさぁ、私、母いるらしいんだよね」


 ついでに悩み相談にでも乗ってもらおうと、私は目の前の親友に昨日の出来事を話すことにした。



「じゃあ私も会いたい!」

「駄目だ」


 間髪入れず返された兄の返事に驚いて目を丸くしていると、兄も自分で思った以上に強い声が出てしまったらしくハッとした後気まずそうに視線を泳がせた。


「なんで?」

「まだ駄目だ」

「お兄ちゃんは16歳の時にはもうお母さんのこと知ってたよね?」

「俺とこはは違う」

「なんでよ? 違わないでしょ?」

「違う。無理だ」

「だから何でよ??」


 理由を尋ねる私に、兄は「駄目だ」「無理だ」の一点張りだ。基本私に甘い兄がここまで頑ななのは珍しい。

 膠着状態の兄との会話に困ってしまって父に助けを求めようと視線を向けると、父は兄の態度の理由もわかっているようで苦笑していた。


「小春、すまないが僕もまだ小春は母さんに会わない方がいいと思う」

「だから何でよ」

「それは」

「父さん」

「ごめんちょっと雪兎が怖いから言えないかな」

「あれ? 力関係おかしくない??」



 結局その後いくら聞いても兄は理由を教えてくれなかったし、母に会う許可ももらえなかった。


「と、いうわけなのよ」

「へー、基本あんたの奴隷な雪兎さんが珍しい」

「言い方」


 顔を顰めて抗議すると、奈緒ちゃんは「ごめんごめん」と口先だけで謝った。

 何が嫌って、ちょっと納得しそうになってしまった自分が嫌だ。


「まあ雪兎さんは意味もなく小春を傷つけたりしないだろうし、おじさんも反対してたんでしょ? なら何か小春に言えないような理由があるんでしょ」

「まあ、それはそうなんだけど」

「それに『まだ駄目』ってことは、そのうち会わせてくれる気はあるんじゃない? じゃあ大人しくその時まで待てばいいんじゃないの?」

「その時っていつよ?」

「私に聞かれても知らんがな」


 薄情な親友の言葉に項垂れる。

 確かに彼女の言うことは正しい。この上ない正論だ。それは私も分かってる。分かってるのだが――


「理解るのと気になるのは別なのよー……」


 机にぺったりと張り付いて愚痴をこぼす私の様子に苦笑した後、何か思いついたらしい彼女はにんまりといたずらっ子のような顔をした。


「雪兎さんに聞けないんならさ……」




「お邪魔しまーす」


私はワクワクしながらその自宅兼お店に足を踏み入れた。


「わ。すごい」

「いらっしゃい。久しぶりだね、小春ちゃん」

「わー、貴臣(たかおみ)くん変わらない! かっこいい!」

「ほんと? ありがとう。いやー、けど哲哉と同じ歳なんだからもうオジサンよ。身体のあちこちが痛くて痛くて」


 原田(はらだ)貴臣というこの人は、父の幼馴染で札屋をやっている。父と兄は職業柄お世話になっているようでしょっちゅう会っているらしいが、妖怪退治とは無縁の私は小学生の頃家に貴臣くんが遊びに来たときに会って以来だ。


「今日はどうしたの? お札が欲しいわけじゃないよね?」

「うん、あのね、貴臣くんは私のお母さんのこと知ってる?」


 私の質問に、貴臣くんは「へぇ」と面白がっている顔になった。



 奈緒ちゃんのアドバイスは、「雪兎さんが教えてくれないなら教えてくれそうな人に聞いてみれば良いじゃない」と言う何とも単純なものだったが、どうやって兄の口を割ろうかとばかり考えていた私からしたら目からうろこの提案だった。

 流石子供の頃屁理屈で大人たちを翻弄していた悪ガキ。持つべきものは頭のいい親友である。



 私は再び昨日の出来事を話した。

 話を聞いて貴臣くんは「へぇ」と今度は感心したような顔をした。


「よくあの雪兎がいるのにそれだけ情報が引き出せたね」

「お父さんはわりとペラペラと話してくれたよ?」

「あー、哲哉は仕事以外はポンコツだからねぇ」

「それで貴臣くんなら知ってるだろうから教えてもらおうと思って」


 期待を込めた目で見つめると、貴臣くんはちょっと考えた後、にっこりと笑った。あ、これ教えてもらえないやつ。


「じつは午前中に雪兎が来てね。既に『話すな』って釘さされちゃってるんだ。雪兎って今や結構な太客だから揉めたくはないんだよねー」

「えぇ~~……」


 私は心の底からガッカリした。

 恐らく兄は私が奈緒ちゃんの入れ知恵でここに来ることまで読んだ上で先手を打っている。

 兄が優秀過ぎてツライ。


「まあまあ。お母さんのことは教えられないけど、わざわざ来てくれたからね。おじさんがいいことを教えてあげよう」


 その言葉に項垂れていた顔を勢いよく上げると、貴臣くんはそれを見て楽しそうに笑って教えてくれた。


「雪兎が母親について知ったのは哲哉の仕事を手伝ってる時だったよ。だから小春ちゃんも、哲哉の仕事を手伝ってみたら何か分かるんじゃない?」


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