第六話 廃墟別荘5
チュン、チュン♪
僕は今、早朝のアンティーク通りにいます。
美少女達を侍らせ歩いています。
美少女達の顔ぶれは、
ソフィこと、ソフィア・トツカーナ伯爵令嬢。
ニコこと、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢。
ティナこと、マルティーナさん。
アリスこと、アリーチェ・アレンツォ子爵令嬢です。
周囲も羨む美少女達は、僕の婚約者達でもあります。
正直、ウハウハです。
ティナとは、まだちゃんと婚約の話は出来てませんが、そのことは今は忘れます。
「ここが、一軒目のお店『心』だよ」
今日からモンタルチーノ街で、ワイン祭が始まります。
アンナ伯母様から、お店の鍵を借りて混み合う前にまわります。
それは婚約者達に、お祭りの思い出となる品を贈るためです。
「これが全て【古代の逸品】なの」
ニコが驚きます。
「凄いですね。全て鑑定書付きです」
ティナも驚いてます。
「あっ、この首飾り可愛いわ」
アリスも楽しそうです。
「良い品揃えよね。シェーナ街にも欲しいわ」
ソフィも感心しています。
美少女達が、わやわやしてる後ろ姿を、入口付近から見守ります。
先日、事故でニコのお尻を、しっかり触ってしまった後に気付きました。
お尻もありだな、と。
男としての成長を感じます。
やはり旅は、男を大きくするようです。
美少女達の後ろ姿を、しっかり堪能して声をかけます。
「麗しのお嬢様方、もう二軒ほどご案内させて頂きます。どうかそちらもご覧いただき、思い出のお品物を、お決め下さいますようお願い致します」
このあと『身体』『自然空間』を案内します。
それぞれ、お気に入りの品がみつかります。
朝食前に、プリオーリ宮殿に戻ります。
〜〜〜
食事をすませ、みんなに伝えます。
「夕食前には戻るけど、今日だけ用事があって出掛けるね」
せっかく婚約者達が揃っているのに、この場を離れるのは残念ですが、後ろ姿を胸に出発します。
旅のお供は、
美人メイドのエリーゼ。
御者で狸獣人のクワッド。
騎士のピッピーノです。
二頭立て四人乗りの高速馬車、フォルトゥーナ号で廃墟別荘に向かいます。
四十分ほどで、別荘入口の小道に着きます。
かなり速いペースです。
薄暗い糸杉の森の小道を、ゆっくりクネクネ進みます。
十分ほどで、糸杉の森を越えます。
木漏れ日がさしこむブナの森を、ゆっくりクネクネ進みます。
十分ほどで、廃墟前に到着です。
フォルトゥーナ号の手綱を、シラカシの木にかけて停めます。
シラカシは、どんぐりの木の一種です。
帽子がシマシマで実が黒いどんぐりです。
廃墟を観て思い出します。
上着のポケットに手を入れます。
昨日、クワッドが見つけてくれた、錆びた金属片を取り出します。
「なおしてなかったな『修復』、「鑑定」」
鑑定結果
「鉄の剣」
良品
【青騎士の剣】
体力+25
素早さ+25
5,000,000ゴルド
「軽鉄のブーツ」
良品
【斥候の軽足】
素早さ+10
200,000ゴルド
「クワッド、昨日クワッドが見つけてくれたブーツ。よかったら使ってみない」
クワッドに声をかけます。
「はい、トキン様。軽いブーツみたいなのでオイラ使いたいです」
クワッドに渡します。
「オイラ、有難き幸せです」
クスっと笑ってしまいます。
「ピッピーノ。この刃が少し青みがかった剣は銘を【青騎士の剣】という。効果は体力+25、素早さ+25の逸品だ。この剣で僕達を守ってくれ」
ピッピーノが、片膝をつき両手で剣を受取ります。
「ハッ、我が主とその愛する者たちを、必ずお守りすると誓います」
どうもピッピーノは、こうゆうのが好きなようです。
ニコのお母さん、レベッカ・ミラノ夫人が目覚めさせてしまったようです。
「うん、頼むよ。エリーゼには、似合う物をみつけたら渡すからね」
「はい、トキン様」
エリーゼがニコリをくれます。
これは「忘れるなよ」のニコリだと肝に銘じます。
「じゃあ修復しながら、廃墟探検しよう」
大きな鉄扉の前に立ちます。
縦横3メドル位の大きさです。
僕は、鉄扉だけでなく建物全体を、修復するつもりでスキルを発動します。
「『修復』」
僕の両手から、優しい光が溢れ、鉄扉を越えて、建物に広がります。
僕はフォルトゥーナの位置まで下がって建物全体を見渡します。
鉄扉を中心に、半径10メドルほどが綺麗になっています。
「お〜、かなり広範囲でスキルが効いてる」
みんなも、僕の横に立って確認します。
「やはり凄い力ですね、トキン様」
「さすが、我が主」
「トキン様。オイラ、凄すぎて、さすがにやり過ぎのような気がします」
「はははっ、そうかもね。さあ廃墟の中に突入しよう」
また鉄扉の前に立ちます。
古い鍵を取り出します。
念のため、鍵にも『修復』して鍵穴に挿し込みます。
90度をこえて、180度回してカチャンと鳴ります。
観音開きの引き扉です。
壁に金具をかけ、開けっ放しにします。
まず、玄関ホールと呼ばれる大きな空間があります。
その先の正面に、幅広い大きな階段が見えます。
「お〜」と声がもれます。
玄関ホールに進み、皆で図面を確認します。
一階は右手に大ホール。左手に食堂。これがメインの間取りです。
「少し薄暗いけど、大ホールから見てみようか」
移動しながら『修復』も忘れません。
大ホールに続く扉を開けます。
「かなり広いね。ダンスホールとしても充分。楽器の演奏者も欲しくなるね」
話しながら壁に沿って、大ホールを一周します。
スキルで綺麗にするためです。
黒く見えていたカーペットも、朱色の輝きを取り戻します。
あれ?このスキル、掃除や洗濯にも使えるかも。と思いましたが言うのは辞めておきます。
玄関ホールに戻ります。
次は食堂と厨房がメインのエリアです。
まずは食堂です。
細長い造りの大食堂です。
だいぶ汚れていますが、長いテーブルや沢山のイスも残ってます。
一部、朽ちてはいますが、椅子の背もたれに施された、透かし彫りのブドウの蔦も見事です。
ここも『修復』しながら一周します。
つぎは厨房です。
魔導具のコンロや竈門、ピザ窯に屋内の井戸、壁一面の食器棚には食器も残されています。
極めつけは、これです。
鑑定結果
「鉄の食品庫」
不良品(傷み)
【冷鉄の隠箱】
保冷+0(0/50%)
空間+0(0/500%)
10,000ゴルド
大型冷蔵庫です。
どんどん『修復』して有難く使わせてもらいます。
「エリーゼ、結構凄い設備じゃない?」
「そうですね、トキン様。別荘とはいいますが、これは宮殿と同じ規模の設備です」
「そうだよね。一時期は宮殿として使ってたのかもね」
この廃墟別荘の元々の所有者は、トツカーナ伯爵家です。
以前、モンタルチーノ男爵が、子爵になりました。
その時に加増された領地に元々あった廃墟です。
だからかモンタルチーノ子爵家のプリオーリ宮殿よりも大きい建物です。
でもトツカーナ伯爵家のプッブリコ宮殿よりは小さいです。
そんな規模になります。
他にも一階には、来客用のスペースがいくつか有ります。
全て『修復』でどんどん綺麗にします。
「二階に行ってみよう」
四人で階段を上ります。
『ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴォーゴォォォ』
玄関ホールに異音が響き渡ります。
「え、なに?」
「魔物の声か?」
「オイラ、お化け無理です」
「トキン様、これは一度、建物を出た方がよろしいかと」
即座に判断します。
「みんな、一度出よう」
抜剣したピッピーノを殿に、走って建物の外に出ます。
念のため、鉄扉も閉めます。
馬車フォルトゥーナ号まで走ります。
振り返ります。
「何だったんだろう」
「魔物なのか、それとも幽霊でしょうか」
「オ、オイラ、お化けが出るから廃棄したと思うでありんす」
「トキン様。一度ここを離れて、情報収集と対策を練ってから、どうするか決められるのが良いかと」
「そうだね。みんな、一度ここを離れよう」
急いで馬車に乗り込みます。
廃墟別荘を後にします。
トキンのメモ
「お尻もありだな」