第三話 廃墟別荘2
目の前には想像以上に、大きな廃墟がその姿を現します。
元々の外壁の色は白系だったのでしょうか。
今は灰色、黒色とのまだら模様となっています。
一階部分には、大きな鉄扉だけがみえ、窓の類はありません。
建物三階の窓からの眺めは良さそうです。
屋根は、煤けた灰色に見える三角屋根です。
「トキン様、これが落ちてました」
クワッドが、縦横2センチほどの、錆びた金属片を手渡します。
声は出さず「鑑定」します。
鑑定結果
「鉄の剣」
不良品(欠け、錆び)
『青騎士の剣』
体力+0(0/25)
素早さ+0(0/25)
500ゴルド
かなり強い効果があります。
後で優先して修復します。
「ありがとう」と声をかけ、ポケットにしまいます。
鉄扉の前に進みます。
思ったより傷んでいます。
これではカギを開けても、安全に扉が開くかわかりません。
しばし考えます。
これまで思いもしませんでしたが、もしかしたら廃墟もスキルで修復できるかもしれません。
ただし、今は試す時ではない気がします。
「みんな、この鉄扉だと安全に開けることが出来るかわからない。今日は、この廃墟の近くにあるらしい温泉を、散歩がてら探そうか」
「そうね。そうしましょう」
廃墟右手に移動します。
みんなで広がり、廃墟を左回りで散歩します。
廃墟の裏手に回ってまもなく、ピッピーノが声を上げます。
「ここに、落ち葉が湿っている箇所があります」
ピッピーノの側にかけ寄ります。
縦3メドル、横5メドル位が湿ってます。
「この湿っている箇所か。温泉かもしれないね。少し葉っぱをどかしてみよう」
僕は、マジックバッグから、鉄製熊手を三つ取り出して、ピッピーノとクワッドに渡します。
男性陣三名で、葉っぱを掻き取ります。
白い石が、少し見えてきます。
「この白い石は、石灰岩だと思うから、一つ目の温泉かもしれない」
「こんなに建物の近くにあるなら、気楽に入れそうね」
廃墟裏手から50メドルくらいです。
「うん、近くていいね。掃除は今度にして、もう一つの温泉があるか散歩してみよう」
みんなで広がり、散歩を再開します。
「あれは、リスかしら」
ニコが前方を指さします。
「えっ、どこ」
「木の根本よ。ドングリを食べてるみたい。とっても可愛いわ」
「あっ、本当だ。いる」
小さな声でこたえます。
初めて本物を見ました。シマリスでしょうか。尻尾が薄茶色と焦茶色のストライプ柄です。
「あぁ、行っちゃったわ。残念」
「初めて見たよ。でもここなら、また会えるよ」
「そうね。素敵なドングリの森だもの、他の小動物にも会えそうだわ」
ニコが笑顔で周囲を見渡します。
廃墟裏手から、左に回り込みます。
しばらくしてクワッドが言います。
「トキン様、これは井戸の跡でしょうか」
かけ寄って確認します。
確かに丸くレンガの積み跡が見えます。
「そんな感じかな。ということは、こっちに少し見えるレンガの壁跡は厩舎跡かもね」
等間隔で、レンガ積みの跡があります。
もし厩舎なら十頭分以上です。
「それとトキン様、これが落ちてました」
クワッドから、縦横1センチほどの、錆びた金属片を受取ります。
鑑定結果
「軽鉄のブーツ」
不良品(欠け、錆び)
【斥候の軽足】
素早さ+0(0/10)
200ゴルド
「クワッドありがとう」
こっそり「鑑定」してポケットにしまいます。
〜〜〜
廃墟を一周しました。
もう一つの温泉は見つかりませんでした。
「ニコ。良かったら、ここでティータイムにしてモンタルチーノ街に向かおうか」
「いいわね、トキン。そうしましょう」
エリーゼ達が、ティータイムの準備をします。
ゴザを敷いてピクニックスタイルです。
別邸のサーラ料理長が作った、パンナコッタと紅茶で、会話と景色を楽しみます。
「は〜、素敵なブナの森の中で、美味しいパンナコッタを食べる幸せ。横にちょっと怖い廃墟が無ければ、ここは天国なのです」
ポーラさんが笑いを誘います。
このあとは、モンタルチーノ街へ向かいます。