第二話 廃墟別荘1
僕は今、シェーナ街とモンタルチーノ街を繋ぐ、フレンチーナ街道にいます。
朝食後、すぐに別邸を出発して、廃墟の別荘を目指しました。
現場付近に到着しましたが、別荘へと通じる小道がわからずにいます。
皆で馬車を降り、現地と地図を見比べ相談しています。
迷子の仲間は、ニコことニコーレ・ミラノ侯爵令嬢。ニコのメイド狐獣人のポーラさん。
それに僕のメイドのエリーゼ、騎士ピッピーノ、御者で狸獣人のクワッドです。
「う〜ん、地図には、この辺りに別荘へ通じる小道がある、とだけ書かれてるけど」
街道の横には、糸杉の森が広がるばかりです。
皆で、地図を覗き込みます。
やはり、この辺りで間違いないようですが、わかりません。
「トキン様、この場所だけ馬車が通れそうなスペースがあります。オイラ、見てきてもいいですか」
「う〜ん、いいけど」
皆で、クワッドが言う場所を眺めます。
確かに、木と木の間隔が、そこだけ3メドルほどあります。
ですが、その奥10メドル程先には、やはり木がはえています。
道が続いているようにはみえません。
「は〜、なるほどなのです。おそらく真っ直ぐな小道ではなく、S字にカーブしたクネクネ道なのです。ニコ様、クワッドくんと見てきてもいいですか?」
ポーラさんがいいます。
「ええ、いいけれど、気をつけて行ってね。クワッドくん、ポーラをお願いね」
「はい、ニコーレお嬢様。ポーラさんは、オイラが必ずお守りします」
クワッドが、かっこいいセリフを言います。
クワッドとポーラさんが、高さ50センチ程もある、雑草の茂みに突入します。
二人を見送り、馬車へ戻ります。
ピッピーノは御者席で見張りします。
バタークッキーを頬張りながら、地図とにらめっこです。
〜〜〜
茂みに突入した、クワッドとポーラさんの存在をすっかり忘れ、飲み物まで出して、会話を楽しんでいた時です。
コン、コンッ♪
馬車のドアをノックする音が響きます。
葉っぱを頭に刺した、二人が現れます。
クワッドとポーラさんです。
困難をともに乗り越え、生還した二人の手はキツく握られています。
慌てて馬車から降ります。
「クワッド、ポーラさん。お疲れ様、どうだった」
「ポーラ、クワッドくん。お疲れ様、ケガはないわね」
僕とニコが、声をかけます。
「トキン様、おくつろぎのところ、申し訳ありません。オイラ、小道が通じているのを確認しました」
「ニコ様、は〜、ご歓談のところ、報告するのです。雑草ボウボウですが、小道にはレンガ舗装されていた形跡もあって、馬車で通れそうなのです」
クワッドとポーラさんが報告します。
「そ、そうか。クワッド、ポーラさん。よくやってくれた、ご苦労様」
僕は労をねぎらいます。
「ポーラお疲れ様。クワッドくん、ポーラを守ってくれてありがとう」
ニコも二人に声をかけます。
二人は頷き、馬車に乗り込みます。
手綱を握るクワッドが、二頭立て四人乗りの馬車を、茂みの中に誘います。
陽があまりあたらない、糸杉の森の中、曲がりくねった道なき道を、低速馬車フォルトゥーナ号が、ゆっくり進みます。
「なんか、凄いところを移動してるよね」
僕がいいます。
「ええ、薄暗いし、道は見えないし、少し不安になるわ」
ニコがこたえます。
十分以上進んだころ、糸杉の森を抜けます。
これまでの景色と一変します。
ブナの森に入ったようです。
広葉樹である、ブナやコナラの木は、葉の隙間から木漏れ陽を通し、辺りを明るく照らします。
下草の高さも10センチ程になります。
「凄いわ、トキン。急に別世界よ」
ニコが少し興奮気味にいいます。
「本当だね。なんだか暖かくて、優しい感じの森だね」
薄暗い糸杉の森を越えた先にあるため、明るいブナの森に好印象をいだきます。
しばらく、ブナの森を進みます。
緩やかな登り坂になります。
十分以上ブナの森を進み、フォルトゥーナ号が停まります。
皆、馬車から降ります。
小高い丘の上にも、ブナの森は広がっています。
心地よい風が通りすぎます。
鳥たちが、楽しそうに鳴き声を響かせます。
そして、目の前には想像以上に大きな、廃墟がその姿を現します。