第九・五話 SS 騎士と聖女
私は今、想い人の許可を得てダンジョンにいます。
ダンジョンの中だというのに、どうしてここまで、気分が晴れやかなのでしょう。
私自身、ホラー好きなのは知っています。
でもそれは、地上でのこと、そして物語の中での事だと思っていました。
ですが、今日。人生で初めてダンジョン入口を目の前にして、心より先に身体が動いてしまいました。
その時、私の本心に気付きました。
私は冒険したかった、のだと。
薄暗い洞窟内に散らばる、羽毛と鶏肉を拾うだけなのに、私の心は高鳴ります。
ドロップアイテムを拾い終えたころ、先行していた騎士様が、駆け足で戻られます。
「聖女様、この先に一匹だけ、魔物を生かしております。もしよろしければ、手討ちになさいますか」
「お任せ下さい。ピッピーノ様」
一切の躊躇なく、心が返事をします。
騎士様の後ろ姿を追いながら、自分自身に驚きます。
いつの間にか、長棒を手にしていることに、また驚きます。
前方に体長2メドルは有ろうかという、雄鶏の魔物が見えます。
「聖女様、こやつはコッコ、コッコ言うだけで、羽根で撃つしか攻撃手段がありません。距離を保ち、突き攻撃で屠れます」
騎士様のアドバイスに頷き、長棒を正中に構えます。
腰を落とし「はっ」と一突き入れます。
「そ、そこは・・」と騎士様の呟きが聴こえた気がします。
前屈みになった雄鶏が、黒煙に変わります。
ドロップアイテムはありません。
ですが私の心は満たされました。
満足して、冷静さを取り戻しました。
もう、充分だと。
「お見事です。聖女様」
騎士様の言葉に、笑顔で頭を下げます。
「ありがとうございます。騎士ピッピーノ様、充分満足することが出来ました」
「それは良かった。ではすぐ先にある三階層の魔物を確認して帰りましょう」
騎士様の言葉に頷き、後に続きます。
三階層の魔物は、人型の豚のようです。
騎士様の一薙ぎで、ひしめき合う魔物が黒煙に変わります。
豚肉と丸まった尻尾を、騎士様と拾い終え帰還します。
冷静さを取り戻した今、思います。
衝動にかられ行動してしまった私を、はしたない女だと想い人に思われただろうかと。




