第一話 プロローグ
【迷宮都市の小さな鑑定屋さん。開店中です。】
及び、
【迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。】
に続く第三弾となります。
前作をお読み頂きますと、
本作がご理解頂きやすくなります。
僕は、トキン・ヴェネート(五歳)です。
ここカイン王国において、唯一の公爵家である、ヴェネート公爵家の跡取りです。
趣味は、虫の観察、読書、それとスキルを活かした、幸運アイテム集めです。
昨日、長旅から戻ってきたばかりです。
今は、ヴェネート公爵家の別邸にある、執務室にいます。
応接セットに腰掛け、母さまと向き合っています。
母さまは、ここ別邸の当主であり、アリアンナ・ヴェネートという名前です。
二十代半ばくらいにみえ、明るくて優しい性格です。
母さまがいいます。
「色々伝えたいことはあるけど、まずはトキンが気になる人の動きを伝えるわ」
僕は頷きます。
「まずは、ジーヤね。ジーヤは今、大事な用事があって、モンタルチーノ街へ出掛けてるわ」
別邸の執事長ジーヤは、出張中だといいます。
「それで居なかったんだね」
僕は「ふぉふぉふぉ」と笑う、大好きなジーヤを思い浮かべます。
「ええ、そうよ。次はソフィアさんね。ソフィアさんも、今、モンタルチーノ街に滞在してるわ」
僕の婚約者ソフィこと、ソフィア・トツカーナ伯爵令嬢も、モンタルチーノ街に居ると言います。
「マルティーナさんも、連れて行ってるわ」
サンマルコ大聖堂、大司教の孫娘ティナこと、マルティーナさんの名前まででてきます。
「えっ、ティナまで。モンタルチーノ街で何かあるの?それにマルティーナさんは、まだこっちに居たんだ」
「ふふふ。みんなモンタルチーノ街よ。何があるかはちょっと待って、先にマルティーナさんの説明ね」
「うん」僕は頷きます。
「マルティーナさんは元々、十日程の滞在予定だったの。でも、ご実家から手紙が届いて、このまま、しばらくトツカーナ伯爵のところに、滞在することになったわ」
「そうなんだ」
「トキンが手配したのでしょう。新しい回復術師を、二人も」
「あっ、そういえば。すっかり忘れてたけど、以前、紹介状は書いたよ」
「そのおかげよ。マルティーナさんは凄く喜んでたわ」
「そっか、良かった」
僕はティナの笑顔を、思い浮かべて嬉しくなります。
「お待ちかねのモンタルチーノ街の話よ。祭りよ、トキン。モンタルチーノ街で、大きなお祭りがあるわ。二日後に開催よ、一週間続くわ」
僕はにっこりします。
「お祭りか〜。だから皆んな行ってるんだね」
母さまは、ハーブティーを一口飲んで続けます。
「トキン、ここからは貴族としての話になるわ」
母さまが真面目な顔をします。
僕も真剣に頷きます。
「祭りが表の顔なら、裏の顔もあるわ。この間、秘密裏に、アレンツォ子爵当人が、モンタルチーノ入りするわ」
「えっ、でも、アレンツォ子爵は敵性派閥に所属してるし、子爵本人が本当に来るの?」
母さまは頷きます。
「そこで、こちら側に寝返る旨の、密約を交わすわ。だからジーヤも行ってるの、私の名代としてね。そして、子爵家ご令嬢のアリーチェさんを、人質としてモンタルチーノ子爵に預けるわ」
「・・・うん」
僕にとって、物凄い衝撃なのは事実です。
でも、一番つらいのは、僕じゃないことはわかります。
貴族家同士の決め事です。
裏取引といった方がいいかもしれません。
せめて、友達であるアリスこと、アリーチェ・アレンツォ子爵令嬢の、寂しい想いを紛らわすため、頻繁に逢いに行こうと思います。
コン、コンッ♪
「ニコーレ・ミラノお嬢様をお連れしました」
「どうぞ」
僕の二人目の婚約者であるニコこと、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢が、執務室に入ってきます。
このタイミングでの、ニコの入室。きっと母さまの仕込みです。
この後は、明るい話題になるはずです。
僕も、暗い表情をニコには見せたくないので、母さまの策に乗ることにします。
「ニコーレさん、待ってたわ。そこに座って」
「はい、アリアンナお姉様」
ニコが隣りに座ります。
「お姉様」には突っ込みません。
「まあ、お姉様だなんて。本当ニコーレさんは良い子ね。二人に見てもらいたい物があるの。まずは、こっちよ」
母さまが、三階建てのお屋敷の古い図面と、古い鍵をテーブルの上に置きます。
「母さま、これは?」
「ここシェーナ街と、モンタルチーノ街のちょうど中間にある、廃別荘の図面よ」
「廃別荘?」
「そう、廃墟よ。二百年前くらいの古い別荘らしいの。それで百年くらい使われてないそうよ。建物は大掛かりな手入れが必要らしいわ」
「それを、どうして僕とニコに?」
「決まっているじゃない、気に入ったらトキンとニコーレさんの愛の巣に、改装すれば良いのよ」
「愛の巣って」
僕は、突っ込みます。
「フフッ」
ニコは、笑ってます。
「周囲の環境がいいらしいのよ。ブナの森の中にある、丘の上に建ってるらしいわ。すぐ近くに、小さな温泉も二つ有るらしいの。プライベート温泉よ」
ニコと一緒に、図面を除き込みます。
「ふ〜ん。結構、部屋数あるね」
「えぇ、これならソフィ達や、家人達と使っても、かなり余裕があるわ」
「ふふふ、気に入ったら、周辺の土地付きで、プレゼントすると、モンタルチーノ子爵が言ってたわ」
「ふ〜ん。じゃ、ニコ、見るだけ見てみようか。廃墟だけど」
「そうね、トキン。私もどんな場所か気になるわ」
「もう一つの知らせはこれよ」
母さまが、告知チラシを見せます。
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『噂の美少女達』ミニライブ決定
曲目
「噂の美少女達」「オレがダンジョンボスだ」
「痛くたって泣かない」「やっほ〜でハッピィ」
主催:ブルネッロ・モンタルチーノ
協賛:トツカーナ伯爵家
ヴェネート公爵家
『幻の左ストレート』『尻の雫』
『浮気の境界線』『ポーロ商会』
「結構、力の入ったお祭りだね」
「そうね。楽しそうね、トキン」
「ふふふ、今日でも明日でも、好きな時間に行って大丈夫よ。モンタルチーノ子爵の『離宮』を、ソフィアさんが祭の期間、貸し切りにしてるの。向かう途中で、廃別荘も見れるわ」
「今日は、ニコに街を案内がてら、挨拶回りをしたいと思ってるんだ。だから明日にでも、みんなで廃別荘に行ってみようか」
「わかったわ、トキン。楽しみね」
明日の予定が決まります。
トキンの成長物語、第三弾になります。
読んで頂きまして、ありがとうございます。
不定期更新で、進めさせて頂きます。
よろしくお願い致します。