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マノアと最優の魔法  作者: ひぷ
一章 Re:Birthday
1/5

死に際の道

この度は手に取って下さり、誠にありがとうございます。


魔法とは


全ての生命が器に宿りし時

唯一神より授かりし天啓である。


魔法とは


全ての天人(てんじん)が地に(かえ)りし時

邪神王より与えられし(くさび)である。


この世に産まれる誰もがどちらかを耳にし

物心つく頃には、与えられた魔法を認識する事だろう。


幼少期、家族の顔や声と共に知覚する自身の運命。


決して選び取る事が出来ない一人一つの奇跡に

先人は『魔法』という名を付けた。


優れた魔法を持つ者は出生の身分に関係なく

世に名を馳せる。


逆もまた然り。


ある者はスラムに産まれながら一国の王となり

またある者は一国の王子として産まれ農村で麦を育てる。


魔法とは人の価値。


その一つ。


或いは、その全て。


魔法のみに価値を見る歪んだ思想故に

自身が優秀な魔法を持っていなくても


強大な魔法を持て余した者達を隷属させ使役する事で

地位を得る者も少なくない。


個人も……


組織も……


国でさえも、そうだ。



優秀な魔法を、探し出し……奪い取る。


どんな犠牲を払おうとも、屈服させる。


そして皆、口を揃えてこう宣うのだ。



「我が手に最優の魔法を」



と。


これは私、マノア・ライラテリア・ヴァランドールが生きた時代の……


魔法と、戦いの物語。







日差しに熱せられ、乾いた大地を

足の裏に感じ初めてから


一体……何ヶ月が過ぎただろう。


辺りを漂う悪臭を、鼻腔に感じなくなってから


何日が過ぎたのだろう。


飲水も無く


食料も無く


着る服も無い。


ただ歩き続けて、いったい何時間が過ぎたのだろう。


足の甲に乗った砂粒を数える様に


視線は地に奪われ


私の両足を繋ぐ、重く熱い……漆黒の鎖を


引き()る音だけが……鼓膜を揺らして


足音は砂が喰らい……

日差しが皮膚を(ついば)む。


長い年月、手入れをされていない白髪


歪んで生えた分厚い爪


空腹に(しぼ)みきった体躯。


夕陽と同じ色の、この瞳に映る……私の一部。


拷問で爪を剥がされる痛みも……


調教で鞭に打たれる痛みも……


破瓜の痛みも……


全て忘れた。



醜い、醜い……私の全て。



右目も


両手の小指も


内蔵の幾つかも奪われ


家族も地位も何もかも穢され……


侵された。


私は、私達は……。


ただ、生きていただけなのに。


最早……涙を流すための水分も


私の中には残ってない。


何も……残ってなんか、ない。


(ならば、何故歩く?)


「……(うるさ)い」


(逃げる為?)


「……知らない」


(助けてくれる人を探す為?)


「……有り得ない」


(非力な自分に力を貸して貰う為?)


「もう黙って!!」


今、私の鼓膜ではなく


心臓を……心室を揺らす

その言葉が、誰のものなのかは解らない。


けれど、きっと

私の一番弱い気持ちが

唯一残る、か細い願いが


燻り揺れる心根が……


泣き言を言っているだけ。


胸の内にに渦巻く憎しみを晴らすには……


胸の内に安寧を取り戻すには……


胸の内に抱く望みを叶えるには……


やはりただの弱音だ。


この世界、その仕組みの全てを無に出来る程の力を……


私は今、心から望んでいるんだ。



全てを壊す事こそ、私の生きる意味。

この一生の……唯一残った、意義。


私は……此処から始めなくてはならない。


歴史の破壊と、世界の再生を……。


今の私に、その力は無い。


だからこそ……


曲芸の様な小さな魔法ではなく。

脅威でしかない無秩序な力ではなく。

幻の様に消えゆく意思でもない。


一国を単身で優に落とせる程の

誠実な心と最優の魔法を操る者を。


同じ痛みを持つ、人間を。


「……探さないと」


またいつか、どこかで。

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