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如月和泉の探偵備忘録  作者: 御影イズミ
第1章 王女と探偵、その日常
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第7話 いろんなお話。

 御影家でのバーベキュー前日の夜。


 朔と蓮から、彼らが遊んでいた空き地についての話がしたいと連絡があり、バーベキュー最中に話すよりも今話した方がいいと判断が下されたため、和泉も呼んで話が行われた。

 和泉を呼んだのは朔であり、朔と蓮の遊んでいた空き地には和泉にかなり関わりがあったとの事。



「なんで俺に関わりが?」

「いやぁ、その……な? 和泉君の事務所ビル、御影家所有やろ?」

「ええ、はい。伯父の俊一さんに使っていいって空けてくれて……って、ちょっと待って下さい。なんで朔さんがその事を」



 和泉の事務所ビルは御影家所有のもの。それは間違いないのだが、所有者の事は本来であれば知る由もない。

 では、朔はどうやって知ったのか?


 ──答えは単純明快なもの。『和泉の事務所ビルのあった場所が、朔と蓮の遊んでいた元空き地』だからだ。

 どうやら七星組が資金難か何かで、御影家に売り渡したようで。



「ってことは、つまり和泉んちは」

「ランダム発動なゲートがあって」

「アルムさんを返すことが出来て」

「下手したらどっかに飛ばされてまう」

「連続して言うなァ!! ただでさえあの辺こえーのに余計恐怖煽ってんじゃねぇか!!」

「っていうかにゃんであそこに住んでるの? 他にもあったんじゃにゃいの??」

「……和葉が、その……修理したいから住む、って……」

「ホントお前、和葉ちゃんには弱いよな」

「うるせぇ!!」



 昔から付き合いのある和馬達はこれでもかと和泉にちょっかいをかける。

 その姿はさながら、彼女のいない男子高校生が彼女のいる男子高校生をからかう図だ。彼らはそうやって、今までを共に過ごしてきたのだろう。


 そこから、話は『アルムを探偵事務所に連れて行くかどうか』になった。

 実際のゲートの発動が40年前という昔なのもあって、アルムを連れて行ったところで反応があるとは思えない、というのが朔と蓮の考察。

 しかし逆に和泉と和馬の考察では、2人の何かしらの行動が引き金になったのではないかという仮説を作り出した。



「お父ちゃんと蓮おじちゃんが移動したんは、ゲートが勝手に開いたんやのうて……」

「父さん達が何かをしたから開いた、ってことか?」

「ああ。現に俺や上の階の住人達が巻き込まれていないのは、何もしていないから巻き込まれていないと考えることも出来る」

「だから和泉の家、あるいは事務所で行動を起こせばあるいは、って感じだな。……そうなってくると、今度は朔おじさんと蓮おじさんの記憶のどちらが正しいか、を考えなきゃならんが」

「アルムさんは2人の話で、何かわかったことはあるかい?」

「うーん……もう少し判断材料が欲しいところですね。特に移動した時の瞬間とか……」



 2人にもう一度尋ねてみるも、移動する瞬間についてはところどころが黒い霧がかかったように思い出せないと言う。

 しかしそれでも何かの手がかりになるのなら、と2人に今一度黒い霧のかかっていない部分を思い出してもらう。


 朔が思い出せる部分は、『ボールの転がった先に草むらがあって』、『綺麗な石の隣にボールが転がっていて』『ボールを持って帰ろうとしていた』という部分。

 ボールの転がる前や、何をしていて遊んでいたかなどは思い出せないそうで、いつ移動したかまでは覚えていないとのこと。


 蓮が思い出せる部分は、『秘密基地に行って』、『綺麗な石が基地内に置かれていて』『外に出ようとしていた』という部分。

 秘密基地に行く以前と基地内部にいる間については思い出せないそうで、移動したのはおそらく外に出ようとしていたときだと彼は言う。


 2人の話を聞いて、和泉はふと朔の話に違和感を覚えた。

 なぜ遊んだ内容を忘れているのに対し、綺麗な石を覚えているのだろうかと。

 普通ならばそのような石があったとしても、気にかけて覚える部分でもないような気がする、と。



「ん……確かに……そやね? でも、俺の記憶にはっきりと残ってんよなぁ……」

「それなら朔君、石の色って覚えてる?」

「ん? うん、覚えとる。綺麗な緑の石やったねぇ、アレ」

「緑色の石……? 朔おじさん、間違いなくその石の隣にボールが転がったって言うんですか?」

「ん? うん、せやね。なんやカズ君、今のでなんか気になったん?」

「ああ、ええと……ボールを拾う状況があるとして、それを蓮おじさんが覚えてないっていうのが引っかかります。2人は何をするにもだいたい一緒だって母さんが言ってたので、その部分だけ記憶違いだというのはちょっと……不自然だな、と」

「ん~……でも、どっちもどっちなんやない? 40年前の記憶やし、バラバラな部分はあると思うんやけど……」

「……いえ、これは記憶違いとかそういう問題じゃないと思います」

「アルム、どういうことだ?」



 和泉の問い掛けに、アルムは1つずつ説明をする。


 彼ら2人の記憶にある黒い霧が掛かっているような部分というのは、本当に霧が掛かっているわけではなく、『継ぎ接ぎ用に切り取られた部分』ではないかと。

 そのため、朔の記憶はもしかしたら蓮の記憶から移植されている部分の可能性が高い、と。


 そしてもっとも気になるのは、2人の記憶に残っている人物の差。

 オルドレイ、マール、ジェンロは共通しているのに対し、アリスという人物は蓮の記憶にしか残されていない。

 これはアリスという人物が2人に何らかの関与を行ったのではないかと推察される、とアルムは言う。



「アリス様は当時、あたしたちが使うような魔術の研究をしていて……おそらくお2人がその研究成果に近しい事象を利用していたから、記憶を操作した……とも考えられます」

「ってことはアリスって人の記憶が残っている、蓮おじちゃんの記憶が正しいものになる?」

「……あるいは、アリス様と会っていた部分以外は2人の記憶を継ぎ接ぎした、とか。朔さんがボールを拾いに行ったら緑の石を見つけて、石を秘密基地に持っていった後に移動した……と考えれば自然だと思いません?」

「ああ、なるほど。それなら朔さんと蓮さんの記憶の違いも修正できるね。……そうなると、ゲートが開いた原因はその緑の石に何かをしたってことかな?」

「そうですね……。ただその石が必要となると……40年も前の話だったら、地中に埋められたかも……」



 重い静寂が辺りに流れる。必要不可欠なアイテムが無いとなると、和泉の家にあるであろうゲートを開けず、アルムも帰ることが出来ないからだ。


 どうにかしてアルムを帰してあげたいと考える優夜は、1度この空気をスッキリさせるために話題を変えよう、と提案する。



「話題ねぇ。っつっても、思いつくもんがねーぞ」

「うーん、そうだなぁ。今度は朔さんと蓮さんのお話に関連して、アルムさんが知ってる歴史の話を聞いてみない?」

「歴史のお話ですか? それなら、あたしが覚えている範囲で良ければ。朔さんと蓮さんが会った、オルドレイ様のお話も聞いてみたいですしね」

「おー、ええよん。当時のことはさっきの通り、あやふやな部分あるけど」

「にゃ、じゃあ僕アルムに聞きたいんだけど、朔おじさんと蓮おじさんが行った国って、今はどーなってるの?」

「今、ですか……。あたしが生まれる前に滅んじゃって、国としての機能はないんですよね。だから和泉さんのお宅のゲートを使う場合、危険性も考慮しなくちゃいけなくて」



 アルム曰く、朔と蓮が使ったゲートの先が今もそのままなのであれば、毒沼と瘴気の溢れる滅びた国に降り立つことになると言う。

 猫助たちはそれを恐ろしいと口にするのだが、逆にアルムはゲートの行き先がランダムになっていても恐ろしいと答えた。

 海上に出ることはなくても、今の衣装で降り立つと危険な国が幾つかある。


 彼女の世界は大陸の魔力の量によって暑さや寒さが決まるようで、極端に多かったりすれば暑さが固定され、極端に少なければ寒さが固定されているのだそうだ。

 それ故に、変動のある国で過ごしてきた彼女にとっては固定された気温というのは、真夏の格好で豪雪の中を突き進む、あるいは真冬の格好で砂漠の中を進むようなものなのだ。



「なるほどぉ。それじゃあ、帰したとしてもその先で何が起きるかわかんにゃいんだぁ……」

「そうですねぇ。安全な国であれば、その国の領主や国王に話を通せばいいんですけど……」

「そうもいかねぇもんなぁ、実際。父さんや朔おじさんが人に見つけて貰えたってのも、奇跡に近いだろ」

「もっと言えば、帰す方法があったからすぐに帰ってこれた。下手すりゃおじさん達は帰って来れないままだった可能性もあるんだよな」

「うう、カズ君の言う通りやなぁ。お父ちゃんが無事でホンマによかったわぁ」

「せやねぇ。ホンマ、あの時が一番運を使ってしもうたかもしれんねぇ……」



 肩を竦める朔に、苦笑いを浮かべる蓮。運がなかったのなら、今頃ここには双子だけではなく息子の響と遼もいないのだから。


 そのまま話は、アルムの国の話になった。朔と蓮が出会ったオルドレイが創った国とだけあって、双子も興味津々だ。



「えっと、本当に何も無いですよ? 闇の種族も襲ってこなくて、国土も1番小さいですし……」

「でも、さっき言ったように気温の変動はあるんだよな? それを活かした風土ならではの特産品とかは?」

「うーん、うーん……。なんだろ、思い浮かばないなぁ」

「にゃー、アレだよ。僕らが九重市の土産品って言われて思い浮かばないのと同じアレ」

「あー、じゃあもし俺らが迷い込んだ時に実際に見た方が早ぇな」

「かもしれないですねぇ。色々ありますし」

「え、いや、なんで迷い込む前提で話を進めてんの!?」



 和泉の的確なツッコミが入ると、そういえばそうだ!という顔を浮かべるのがチラホラといた。和馬も優夜も遼も猫助も響も、いずれアルムの世界に迷い込むと思いこんで話をしていたようで。



「なんで俺以外が皆迷い込む気満々なの?? 怖ぇよ」

「でも、行ってみたくない? 実際に別の世界に行って帰ってきた人の話を聞いたし、僕達も行ける!って思えるし」

「優夜、落ち着け。1番の常識人。お前が陥落したらツッコミが不足する」

「?? 僕、落ち着いてるよ」

「お前が一番ウキウキしてるのが目に見えてわかるんだよなぁ!?」

「えー、そうかなぁ。逆にイズ君はワクワクしないの? こういうの」



 優夜に問われて、言葉を詰まらせた和泉。

 しないと言えば嘘になるが、するとは言いづらい。異世界への渡航は、幼い頃に冒険を夢見た男性なら誰でも心が弾むものだろう。

 だが、実際は命の危険さえもあるもので、自分の命と夢を天秤にかけてしまうとなると、答えが難しいものだ。



「ああ、でもイズ君は僕らと違ってゲートのありそうな場所にいるし、気づいたら巻き込まれるんじゃないかなぁ」

「……巻き込まれたら、その時はその時だ。お前らより先に堪能してやるさ」

「やっぱりキミも楽しみにしてるんじゃないか」

「うるせぇ」



 クスクスと小さく笑う優夜に、少し恥ずかしさを顔に出した和泉。

 見たことの無い和泉の表情に、アルムはポツリと『やっぱり似ているなぁ』と呟く。その声は、和馬や響に聞こえていたようで。



「……そういえば、アルムの知り合いが和泉そっくりだって言っていたな。それって、俺らにも当てはまるんだろうか」

「例えばカズ君と同じ顔がおったり、俺と同じ顔がおったり?」

「そんな感じ。和泉だけが例外って感じじゃないと思う」

「ああ、でしたら和馬さんや響さんにちょっと似てるなぁって人、あたしの知り合いにいますね」

「えっ、ホンマに?」

「はい。ギルドの人ですから」



 会うことも多くて、と彼女は言う。しかし、彼女がギルドの人間に会うという状況は、王女という身分ならほとんど無い。

 ならば何故ギルドの人間と知り合いなのか?と和馬は彼女に問うた。


 アルムはただ、『あたし自身が逃走中でした!』のハキハキとした返答を返す。

 その返答を聞いて苦笑を漏らしつつも、和馬も響も納得がいったようだ。


 そうして和馬はある答えが浮かんでしまった。

 ───こんな話を聞いた後で聞くべきでは無いのだろうが、何故か今聞かなければならないと思ったそうで、そのまま彼女に質問した。



「なあ、アルム。お前、もしかしてこっちに来る前も逃走中だったとか言わない?」

「あれ、よくわかりましたね? そうなんですよー、今回はガルヴァスとベルディさんとヴィレンさんが追いかけて来ちゃってですねー」

「……。」



 ぺちゃくちゃと自分が来る前の話をするアルムを横目に、菩薩顔になった和馬はある事を誓う。


『この王女さっさと返さねぇと後がめんどくさい……』と……。

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