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如月和泉の探偵備忘録  作者: 御影イズミ
第1章 王女と探偵、その日常
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第5話 思わぬ繋がり。

 アルムが来て、1日が経った。


 彼女は睦月邸の優夜の部屋を借りて寝ることとなった。

 流石に男性と一緒では寝づらいだろうと言うことで、その部屋主である優夜はその夜勢いよく和馬の部屋に突撃しに行ったという。

 朝起きてすぐの優夜は、とても生き生きした状態で仕事に向かったとかなんとか。


 日が高くなった現在、アルムは和馬と共にリビングでテレビを見ているのだが、彼女は食いつくように見ている。

 物珍しさからなのか、それとも不思議なものを見ている感覚なのか、それは定かではない。だが確実に言えるのは……。



「……目、痛めるからもうちょっとこの辺から見ておこうな」

「あうっ、仕組みを理解したかったのにぃ!」



 テレビとアルムの間が10センチほどしかなかったため、強引にでも引き剥がす。このままでは目を悪くする一方だ。


 しかし彼女は、テレビという『機械文明』に触れることにかなり喜びを覚えているためか、引き離されたとしてもまたジリジリとわかりづらい動きでテレビに近づいていく。その様子はもはや子供と言っても過言ではない。

 和馬はまた引き剥がしてやろうかと彼女を見ていたが、来客を知らせるベルの音が鳴り響いたため、和馬はアルムを横目で見張りつつ応対する。



「ああ、朔おじさん。親父なら今日は夜仕事あるからって……えっ、俺?」



 応対中、チラリとアルムを見る。

 客はどうやら和馬に用があるそうだが、このままアルムを放って置いたら何をやらかすかわからない。

 しかし仕事がもらえるかも知れない……という葛藤があるようだ。


 なお、アルムは和馬の目線を見ても特に気にすることはなく、まだテレビにジリジリとにじり寄っている。



「……ちょいと所用があるんで、リビングでよければ話を聞きますよ」



 アルムのことはなんていうか迷ったが、客を帰すのも忍びないなと思いリビングへ案内する。

 無論、彼女がテレビに夢中なのでダイニングテーブルに客人を座らせる。


 客は和馬の伯父、久遠朔くどおさく長月蓮ながつきれん

 朔は響の父親で、蓮は遼の父親。二人は近所に住んではいるのだが、仕事の関係上ほとんど家を空けていることが多く、嫁たちも賛成してくれたため響と遼を睦月邸に住まわせている。



「や、ごめんなぁカズ君。お仕事やったんやろ?」

「いや、違うんすよ。ちょいといろいろあって、その子の見張りをしなきゃならなくて」



 そう言って和馬はアルムを指差す。

 指差した先ではまたしてもアルムが10センチほどの間になっていたので、ズリズリと引き戻した。



「うーあーあーあー」

「だから、お前は近づきすぎなんだってば」

「だって、板の中に人がいるんですよ!? 未知の技術じゃないですか!」

「いや、うん、お前の感覚ならそうなんだろうけどさぁ……。そのまま見てたら目を悪くするからな?」

「うぐぅ」



 撃沈。アルムはそのまま和馬に指定された場所に座り、今度はおとなしくテレビを見ている。

 そんな様子を見ていた朔と蓮が、それぞれアルムを見て感想を漏らした。



「なあ、朔君。あの子って昔会った奴に似てないか?」

「んー、確かに。えーと、誰やったっけ……オル……オル……」

「オルドレイ・マルス・アルファード」

「そう、そんな名前」

「えっ!?」



 その名前を聞いた途端、アルムが2人の方を見る。朔も蓮も彼女の反応に驚いてしまい、振り返る。

 どうやらアルムはオルドレイという人物の名に心当たりがあるようで。



「あの、今、オルドレイって言いましたか!?」

「え? うん、オルドレイ・マルス・アルファードって」

「お嬢さん、知り合い?」

「あの、知り合いも何も……()()()()()()()()です!!」

「なにぃ!?」



 こんなところで繋がりがあるとは。と、和馬は急いで和泉や優夜達にも情報を共有する。


 寝耳に水のこの情報は、息子の遼や響も知らなかった情報。

 彼らは仕事の休憩中だったので、帰ってきてから詳しい話を聞きたいと反応が返ってきた。

 和泉もまた、詳しい話を聞くためにすぐに睦月邸へと向かうとの連絡が入った。



「あの、おじさん。その話、和泉が来たら教えて欲しいんですけど」

「構わないけど……。え、なに? この子ってオルドレイの子孫ってことは、異世界人?」

「まあ……その、隠すわけではなかったんですけど、流石にバレたらまずいと思って」

「まあ、確かになぁ。俺や蓮君が知らんかったら黙っとく方がええもんねぇ」



 小さく笑った朔は、ひとまず、と自己紹介をする。蓮も同様に自己紹介をするのだが、朔と蓮が双子なのでアルムは見分けがついていない。

 少しでもわかりやすいようにと説明されたのが、朔は眼鏡をかけている訛りの入った方、とのこと。



「……あれ?? 確か、響さんも……」

「あ、ひーくんにも会っとるんやね? そうそう、ひーくん……響の父親が朔で覚えると早いかもしれんね」

「でも流石にパッと見て1発で見分けるのは大変だから、まあそこは勘で何とかするといいかなぁ。俺も朔君も、入れ替わったらわかんないって言われるし」

「確かに……名前を覚えても間違える気がします」



 うん、とアルムが1人で納得。それほどまでに朔と蓮は見分けがつかない。

 時々息子である響と遼でさえ、朔と蓮を間違うことはある。嫁たちも、極稀に。


 そうして喋っていると、和泉が到着。休業前に受けていた別件の依頼を終わらせて直接やってきたようで、いくつかの諸荷物を手に持ってリビングへやってきた。



「遅くなった。朔さんと蓮さんがアルムに関係してるって?」

「あ、えっと、あたしと言うよりはあたしの御先祖様に会ってたみたいでして」

「……詳しい話を聞かせてもらいますよ」

「ええよん。ただ、俺と蓮君、ちょっと記憶違いな部分があるっぽいから、そこはちょっと堪忍な。なんせもう50年前の話やから」

「50年?? あれ、オルドレイ様は2万年前の人ですけど……」

「それだけ、こっちとアルムの世界の時間の流れが違うってことか。とりあえず、最初から話して貰います」

「ん。えーと、あれは俺と朔君が九重市にいる間だからー……」



 朔と蓮の話は、まず彼らが小学生の頃だと言う話から始まった。


 その頃は九重市もまだ発展しておらず、ビルもほとんど無くて空き地が多かった時代。

 双子は『七星組』という組織の総長の子であり、幼い頃から付き人に見守られつつ育っていた。

 だが、その日は遊びにまでついてこられるのは嫌だ! と反発して付き人を撒いて空き地で遊んでいた。別の空き地だと怒られるので、父の所有する土地で、だが。


 ここまで話して、蓮が注釈を加える。



「ここらがちょっとあやふやで、俺と朔君で言い分が違うんだ」

「というと?」

「俺は『投げたボールが無くなったから探してる最中に別の世界に飛んだ』ってのが主張なんやけど、蓮君は『2人で秘密基地で遊んでる時に別の世界に飛んだ』ってのが主張」

「……主張の違いになにか問題があるんですか?」

「カズ君の言い分はわかる。でもこう言う主張の違いがいくつかあるんで、どっちが正しいかはわからないんだけど、一応聞いておいてもらえると嬉しいかな」

「探偵さんが2人もおるからね。なんかの材料になるかもしれんし」



 続けるで、と朔が続きを話し始めた。

 双子は──初動に大きな違いがあれど──別世界へと移動し、驚いたままそこでオルドレイに出会った。

 姿は髪の色が若干濃いのと、長髪だったことを除けばほぼアルムそっくりだったという。


 幸運なことに彼らが移動した先がレヴァナムルという国の城下町だったこともあり、また異世界から呼ばれた人が幾人かいたのもあって、帰る方法もオルドレイが用意してくれたとのこと。


 なお、この部分でも双子の記憶に差が出ており、朔は『オルドレイ、マール、ジェンロという人物に会った』と言い、蓮は『オルドレイ、マール、ジェンロ、アリスという人物に会った』と言う。



「うーん、オルドレイ様、マール、ジェンロは共通してる……。アリス様がいるかいないかの違いとなると、もしかしたら……」

「アルムちゃん、結構考え込んでしもたわ。俺らの話の違いが気になるんやろか??」

「俺たちでさえあれは夢だから違いがあるのか? で済ませたこともあったのにな」

「その後は普通に帰れたんですか?」

「ああ、まあね。戻った時はほとんど時間が進んでいなかったから、夢かどうかで2人で言ってたんだ」

「けど、俺らも色々あったんでなぁ。オルドレイに会ったことは現実ってのがよーくわかってん」



 そこまで言って、ふと、朔と蓮はアルムがどうやって来たのか疑問に思い口にする。

 当然の疑問なので、和泉も和馬も包み隠さずに『遼がやった』と言い切った。これには父親の蓮も思わずツッコミ。



「遼ちゃんーー!! 確かにちっさい頃にいつか召喚士になるって言ってたけど大人になってそれをやり遂げるのは如何なものかとーーー!!!」

(小さい頃からそれが目標ってどういうことなんだよ)



 和泉もツッコミを入れたかったが、流石に場の雰囲気を壊す訳には行かないので心の中でツッコミを入れた。隣にいる和馬も同じだろうと、考えながら。


 その後十分にツッコミを終えた蓮は、遼へのメールをぽちぽちと入力してスマホをポケットへ。

 もちろんスマホという未知の文明を見つけたアルムが目を輝かせていたが、後で、と和馬にたしなめられたためここでは何も言わずにいた。



「んで、その子を帰してあげる方法はあるん?」

「それが……手がかりがゼロで。俺たちもどこから手をつけたものかと」

「そうかぁ……。俺らもなんかお手伝い出来たらええんやけどねぇ……、流石にその手の情報とかは難しいなぁ……」



 どうしたものか、と全員が押し黙ってしまう。

 しかし和泉は、今までの朔と蓮の話を思い返してあることに気づいた。『朔と蓮はゲートを通ったのではないか?』と。


 そこで和泉はある事を確立させるため、アルムに質問を投げた。



「アルム、ゲートってのは一回作られたらそこに定着する、みたいなのはあるのか?」

「え?」

「いや、朔さんと蓮さんの話を聞いてたら、ふと考えてしまってな。もし固定されるのであれば、2人が遊んでいた空き地へ行けばアルムを帰せるなと思って」

「なるほど。……でも、ごめんなさい。定着するかどうかも、あたしにはわかりません。ですが、もしかしたら……2人が飛ばされたっていう場所に行ったら、何かわかるかもしれませんね」



 2人が遊んだ場所──すなわち、七星組の所持する土地の空き地。

 現在ではどうなっているかは分からないが、場所については帳簿管理をしているとのこと。なので朔と蓮がこのあとすぐに本家へと向かい、帳簿を確認してくれると言う。


 しかし元々2人は和馬に依頼を届けてすぐに帰宅を予定していた。

 そのため、双子は揃って、それぞれの嫁に連絡を入れる。和馬への依頼を届けるために外出する、としか伝えてなかったので帰れなくなるのは予想外のこと。

 夕飯の支度等もあるだろうからとちゃんと連絡を入れた。



「お二人はとてもお優しいんですねえ。あたしのお父さんも、見習って欲しいところだなぁ」

「そういやアルム、お前がこっちに来たってことは、親御さんも心配してるんじゃないのか?」

「あたしがいなくなったことはおそらく、守護騎士のガルヴァスとベルディさんが既に気づいてると思いますし……捜索隊も組まれるんじゃないんでしょうか」

「捜索隊組まれるって……えっ、アルムって何者?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ。あたしはガルムレイという世界の、ロウンという国の王女です」

「……はい??」



 王女とはすなわち、その国の王の娘。いわゆる国の頂点の次に偉い人物。


 そんな人物が、和泉と和馬の目の前にいる。王女とはいえ、こんなにもラフな人間だったのかと驚きもする。

 とにかく、和泉と和馬の頭の中では混乱が広がっているのが目に見えてわかるのだ。


 しかし逆に、朔と蓮は物珍しさからアルムを見ていた。それもこれも、オルドレイという人物と出会っていることが理由なのだろう。



「へ~、オルドレイは国王じゃなくて、公爵って言ってたけど……」

「あ、オルドレイ様はとある事件以降、放浪の旅に出てロウンの国を造られたんですよ。事件は時が経たなければ解決できないということで、あたしたち子孫に託したとかなんとか」

「事件?」

「はい。……あっ、それはもうあたしたちが解決しちゃったんですけどね!」



 えっへん、と胸を張るアルム。自分でも、先祖の心残りを解決できたことに誇りを持っているようだ。

 その事件はいわば、闇の種族の王と称される者がオルドレイと一番親しい人物の肉体を奪い、世界を掌握しようとしていた事件。

 オルドレイの隠された力を利用して彼を封じ込め、長い時を経てアルムたちが解決した。


「……でも、まさか、今度はあたしが巻き込まれるとはなぁ……」


 ──ポツリと呟いたその言葉に、和泉も和馬も彼女に声をかけることが出来なかったという。

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