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如月和泉の探偵備忘録  作者: 御影イズミ
第3章 探偵、異世界へ
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第?話 優しい夜はもういない

 場所は変わって、ロウンの領主官邸・大部屋。

 和泉達が帰ってからの、和馬達の状況から始まる。



 彼らは再び検査を受けることになり、魔力調査とはまた別の検査を行う。体内魔力をどのように形成しているかという調査なのだが、普通の人では反応は見られないとアルムは言う。

 この検査で引っかかるようであれば、異質な存在として拘束されることとなり、更に追加の調査を行うことになるのだそうで。



「そうなった場合は帰れるのか?」

「……ごめんなさい、なんとも言えません。反応が出ないことを、祈るばかりなんですけど……」

「まあ……そこはわっかんねぇよなぁ……」



 遼の一言共に沈黙が訪れる。雰囲気が重くなる中で、優夜はいつもと変わらぬ笑顔でアルムに検査の詳細を尋ねる。その様子は和馬にとっても、遼にとっても、猫助にとっても、少し恐ろしい。

 彼がここまで積極的になるのはよくあることだ。だが、彼だけが検査に異常が出ているという話があるせいで、余計におぞましさが際立ってしまう。


 無理をして話しているのか、それとも別の意図があってその笑顔を縫い付けているのか。どちらにせよ、長年の付き合いである和馬達はその状態に恐ろしさを感じながらも心配していた。



「あの、優夜。お前、何か無理してないか?」

「? 和馬、どうしたの? 僕、なにか変かな?」



 ――自分の状態なんて、自分がよく知っているよ。

 そう言いたげな瞳が和馬の眼に突き刺さる。


 和馬は思わず、その瞳から、その視線から目を背けてしまった。本当なら自分が彼の手を取るべきだとわかっているのに、その視線に答えなければいけないというのに、それでも恐ろしさが勝ってしまったのだ。


 そんな和馬に対して何も言わずに、そっと微笑みを残す優夜。

 ――なぁんだ。やっぱり、そうしちゃうんだ。

 その言葉を飲み込んで、ただただ、()()()()()()に向けて笑みを向けていた。



 検査は前々日に行われた魔力調査と同じ形式で行われる。利き手に印紙を持ち、魔法陣の上に立つ……というだけの、簡単な調査。ただ、今回は使う魔法陣が変更されるため、少々長めの時間は魔法陣の上に立っていて貰う必要があるそうだ。

 なんだかだるそうだなぁ、と遼が呟くが、人の身体を隅々まで調べるには時間がかかるものだと、和馬が無理矢理納得させた。



「じゃあ、ええと……少し準備に時間がかかるので、その間は……」

「あ、じゃあ、お夕飯の準備する? 今日、ガルヴァスさんいない~って言ってたし、僕らで準備しなきゃって」

「ああ、そういえば。っつっても、何作るよ?」

「んー……こっちに来る前の料理当番って誰だったっけ?」

「えーと、前日が優夜だったからひーくん……だけどいないんで、猫助か?」

「僕かぁ」



 どんな材料があるんだろう、と一度キッチンへ向かってみる猫助。手伝いとして遼が一緒に出向いたため、和馬と優夜はそれまで何してようか? と考え始めた。結果、盤上遊戯で遊ぼうという結論に至ったが。


 正直、和馬は優夜に勝てる気がしないと思っている。が、いつもの優夜ならばきっと楽しませるために手加減を多少なりとも入れてくれるんじゃないかと、淡い期待を持っていた。

 部屋に戻り、盤上遊戯の準備を整えていざ、プレイ開始。



「じゃあ……僕はモンスター側を取るね」

「俺がギルド側か。ええと、装備については……」

「この駒達がどういう装備を付けれるかを確認した上で、この表の中から選ぶんだよ」

「お、おお。さんきゅ」

「で、僕はこっちの表から選ぶね。耐性とかはちゃんと確認しなきゃダメだよ?」

「わかってる、わかってるから……」



 こんこんと説明する優夜。新しいゲームとなると毎回こうやって説明されるので、和馬は否が応でも内容を覚えてしまう。

 それは、和馬と一緒に遊べるのが嬉しいからか、あるいは……。


 少し遊ぶだけで、和馬は違和感を覚えた。

 普段なら手加減をする優夜が、今日に限って本気を出している。イサムとやりあった時のコマの配置で突き進んでいるのだ。

 事前にその動きを読んでいたから、対処は簡単だった。だが相手が和馬なのに対して、優夜が本気で勝ちを取りに来るというのはどうにも違和感が大きいようで。


 勝者は……僅かに、和馬が勝った。それは優夜に手引されたからではなく、己の実力のみで。



「……やっぱり、お前」



 そこまでいい切って、和馬は言葉を飲み込んだ。この先を言うことは優夜の心に影響するような気がして、彼を無意味に傷つけたくはないという和馬の思いが口を動かすことを堰き止めてしまった。


 一旦首を傾げる優夜だが、猫助の手伝いがあるからと部屋を出ていく。

 その時に和馬に映った彼の顔は……とても、人の顔をしているようには見えなかった。


 ぞくりと、背筋が凍る思いをした。なぜならその顔は、まるで今相手にした盤上遊戯のモンスターそのものにも見えたからだ。



「……優夜……」



 この先、どうしたら良いのだろうか。

 和馬はただただ、悩み続ける――。

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