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如月和泉の探偵備忘録  作者: 御影イズミ
第2章 探偵、大仕事開始
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第?話 騎士、迷子。らぁめんを食べる。

 レイが如月探偵事務所へと訪れる1時間前。


 九重市に今現在、不思議な髪色を持った男が歩いている。

 その男は顔の整った秀麗な男性で、女性が見れば好みだという人が多く出る。

 しかし、近寄り難いのもまた事実。紅桔梗色の髪色に赤い瞳は、どのような人物であれ若干引いてしまう。


 男の名はベルディ・ウォール。レイと別行動を取ったものの、この世界の勝手がわからず迷子になりつつある騎士だ。



「……何処だ、ここは?」



 キョロキョロと辺りを見渡す。彼は現在ショッピングモールに来ているようだが、そこが店であるとは理解が追いついていない状態だ。

 あらゆる店の名を見てもよくわからず、そもそも自分が何処に行けばいいのかもわからないのが現状だ。


 なお、事前にレイから『今日はホテルを出たら夕方まで迎えに行けないから、お昼ご飯はこのお金で買ってね』とメモと資金を渡されているのだが、それさえも忘れきっている。



「……何処へ行けば……」



 辺りを見渡しては、何処に行けばいいのかと悩み続けるベルディ。そんな困り気味の彼に、声をかける人物がいた。

 久遠朔と久遠綾くどおあやの夫婦だ。最初に声をかけたのは、綾の方。朔は綾の後ろからゆっくりと近づいてきた。



「もしもし、そこのおにーはん?」

「? 私でしょうか?」

「あら、日本語通じはるのねぇ。よかったわぁ。何かお困り事でもあったん?」

「ああ、いえ。大したことでは」

「でも、さっきからずぅっとぐるぐる回ってはったから、あたしも気になって気になって」

「うぐっ。……すみません、不慣れな土地でして」



 ほんの些細な事とはいえ、騎士としての恥を晒してしまったと恥じるベルディ。

 くすくすと小さく笑う綾は、ベルディに何をしたいのかと尋ね、食事場所を探していることを聞いた。



「あら、お食事でしたらうちの朔さんの実家で作ってはるラーメンがええんとちゃいます?」

「らぁめん??」

「おん? にーちゃん、ラーメン知らへんの? めっずらしいお人やなぁ。アルムちゃんみたいやねぇ」

「? アルム様をご存知なのですか?」

「ん? 知っとるで。竜馬君ちで預かってる子やろ?」



 アルムの名を聞いて、朔がアルムの知り合いであることを知ったベルディは、自分の素性を小声で明かした。

 周囲に人が多く、あまり自分が異世界の人間であることは大きくは喋れないので、小声だ。



「あらぁ……朔さん、前に言うてたアレ、まだ続いてはったんやねぇ」

「せやなぁ。あ、込み入った話はうちでやった方がええな。ベル君来る?」

「そう……ですね。らぁめんとやらも頂きたいですし」

「ほんなら、ちょっとお迎え呼ぶわ。荷物は後で舎弟に持って行かせたろ」

「あらまあ、ええの? 舎弟さん達、忙しやろに」

「抗争あらへんから暇しとるし、大丈夫大丈夫」



 どこかに電話を入れると、すぐに店の駐車場を出て目立つところに向かう。朔の言う舎弟らしき男たちがやってきては荷物を持って帰ってもらった。

 その後、朔と綾はベルディを車に乗せようとするのだが、彼は車という異文化に首をかしげている。

 丁寧に綾が教えてあげては、乗り方を完全に理解するベルディ。機械文明というものに理解が追いつかない状態だが、ただなんとなく、漠然と便利だなと感想は述べられたようだ。



「あっはっは、アルムちゃんがテレビ見てた時と大違いやねぇ」

「アルム様は何か粗相を……?」

「近づいたらアカン言うてるのに、ジリジリ近づいてたんよねぇ。『人が中にいるんですよ!』って言うてなぁ」

「あぁ、確かにテレビは何も知らんかったら、板の中に人がおるって思わすねぇ。その子もその子で、こっちの世界を堪能してはるようで、なによりやわぁ」

「うぅ……アルム様、何をなさっているんですか……」



 主であるアルムの話を聞いて小っ恥ずかしくなってしまった。

 普段からアルムの行動に関する話は、城下町の人々からよく聞かされているため慣れてはいる。しかし、異世界の人から聞くとまた恥ずかしさが違うようだ。


 車内での話は盛り上がった。

 朔が見たガルムレイという世界と、アルムから聞いたガルムレイという世界と、ベルディから聞くガルムレイという世界は、どれもまた見方が違ったもので。

 話を聞いただけの綾も、どんな世界なのかはわからないがとても楽しそうに聞いてくれている。



「へぇ、ほんならベル君はアルムちゃんの保父さんみたいな感じなんやねぇ」

「そう……ですね。言い換えるなら、そうなります」

「でもほら、ベルディ君は若いんやし、保父さんいうよりはお兄さんやと思うなぁ」

「あ、すみません。若く……はないです。おそらく、私は貴方達よりも年上です」

「えっ」

「うそ」



 聞けばベルディは―――基準はガルムレイのものになるが―――1000歳を既に超えているとのこと。そんな年齢だというのに、ベルディの見た目は青年の姿そのままだ。

 曰く、父親が人ではない種族のため人とのハーフとなってしまい、15歳の頃には身体年齢の成長が止まってしまったのだという。


 そんな身体で不便ではないのかと朔が尋ねるも、ベルディは全く問題ないと返答する。

 ……が、過去に幼いアルムに突撃されて腰を痛めているのでそれだけはどうにかしたいと嘆いている。



「あぁ、あの子、やんちゃそうな子やもんねぇ……」

「子供って変な勢いで突撃しはるから、身体がもたんのよねぇ……ひーくんは大人しかったから、今の方が活発なんよねぇ」

「アルム様は……『おしとやか』という言葉が頭からすっぽ抜けてしまっているんです……。どんなに私と上司が頑張っても、城から逃げ出しては街を満喫するような……」

「なんか……女子高生な感じがしはるねぇ……」

「それも制限が全てなくなった後ぐらいの……そんな感じ……」



 そんな話をしていると、七星ラーメンと暖簾の下がった店へ到着。

 店内にはまばらではあるが客がおり、店主の方も仕込みで忙しいようだ。


 朔は店主に声を軽くかけると、座敷の方へとベルディを案内する。彼は促されるままに座布団に正座し、メニューを見せてもらう。

 様々なラーメンが載っており、どれもベルディには新鮮なモノに見えるようだ。



「これが……らぁめん……」

「そ。気になるモンがあったら言ってね」

「は、はい。ありがとうございます」



 メニューのどれもこれも気になるものばかりで、目が滑ってしまう。

 そのためベルディは、朔と綾の2人にどんなラーメンがオススメなのかを尋ねてみた。


 綾は『鳥塩ラーメン』がオススメだという。

 極細ちぢれ麺の塩ラーメンの中に鳥団子が浮いているだけなのだが、その鳥団子の出汁がラーメンの中にも染み込んでいて、スープを更に美味しくするのだという。

 アクセントに散らされた白ごまもプチッと弾けるので、食感も最高なのだという。


 対する朔は『チャーシューメン』がオススメだという。

 醤油ラーメンの中に自家製チャーシューを厚めに切って何枚も盛り付けており、せん切りされた白髪ネギがピリッとしたアクセントになって、食が進むのだという。


 ここまで聞かされたベルディは悩みに悩んで、チャーシューメンを頼むこととした。綾がオススメしてくれた鳥塩ラーメンは、今度アルムと来た時に頼んでみるとのこと。



「そやねぇ、食べたい時に食べるのが一番やさかい、次でもええんよ」

「すみません。アルム様が好きそうですし、また次回に」

「せやね、今度アルムちゃんと一緒においで。……迷子にならんかったら、やけど」



 朔はふと、ベルディは迷子になっていたんだよな、ということを思い出してしまった。彼がショッピングモールに迷い込んでいなければ、彼は今頃別のところで迷子になっていたのだろう。



 次回、きっと、迷子にならないと信じて……。

 そう思いながらベルディは届いたラーメンをスルスルとすすり、食べた。

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