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如月和泉の探偵備忘録  作者: 御影イズミ
第1章 王女と探偵、その日常
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第9話 同じ顔の男性。

 バーベキューが終わり、今日は御影会の屋敷に泊まらせてもらうことになった和泉たち。

 アルムは和葉の部屋にお邪魔し、和泉たちはもともと和泉が使用する予定だった部屋を借りて寝ることになった。


 そんな中、アルムが『木々水サライ』と『霧水砕牙きりみずさいが』の2人について聞きたいということで、和馬、和泉、優夜、遼、猫助、響の6人は和葉の部屋へとお邪魔する。

 和葉は眠れないから、ということで部屋を出て別のことをしてくれるそうだ。


 部屋に来て開口一番、和泉がサライと砕牙の顔が自分とそっくりである点について質問したいんだろう、とアルムに問いかけた。



「は、はい。……あの、その、あたしなんか特にほら、従兄弟のイズミ兄ちゃんにもそっくりなわけですし……」

「ふむ……といってもアイツらは和葉の家で世話になってる奴らで、俺も知り合ってそこまで年数経ってない。俺に似てるなー、ぐらいにしか思わなかったが……」

「……ん? そうなると、アルムちゃん視点からやと……和泉君のそっくりさんが4人もおることにならんか?」

「にゃ? 確かに。人生では同じ顔は3人はいるっていうけど、4人は多いよねぇ」

「オカルトマニアの遼と響、この現象に心当たりは?」

「まあ、一般的に言われるのはドッペルゲンガーよな。顔を合わせたら死ぬって言われてるアレ。……でもドッペルゲンガーで片付くような代物じゃない気がするんだよな、和泉たちの場合……」



 ふむ、と軽く考え込む探偵の和馬と和泉。遼の言うとおり、ドッペルゲンガーをはじめとしたオカルト系列で語るにはあまりにも不自然な部分が多いためだ。

 しかしアルムは顔が同じ男性について別の情報を共有しておきたかったらしく、こんなことを口にした。



「実は、あの、あたし…イズミ兄ちゃんと同じ顔の人を、あと2人知ってるんです……。今回出会った和泉さん、サライさん、砕牙さん以外にも……」

「えっ、イズ君並の強面が3人でもヤバいのに更に2人いるの?? 怖い。砕牙君は怖くないのに」

「おい、本人いる目の前でそれを言うか? ……っつか、待て、俺と同じ顔が、えーと……俺含め6人??」

「これはいよいよ、オカルトを超えた別の何かがあるやろなぁ」



 ニヤリと口元を緩ませる響に、猫助はピンと来た。

 彼がここまで自信たっぷりに笑う時は、和泉たちでは気づかない事象に気づいているからだ。探偵業を営む和馬と和泉も、彼の頭脳に何度助けられたことか。



「さっすがひーくん、頭脳派~」

「それで、響君は何に気づいたの?」

「『別世界の同じ顔説』や。アルムちゃん、確か元の世界とこの世界以外にも、他に色んな世界があるって言うてたよね?」

「は、はい。あたしも2度程、別の世界にお邪魔したことがあります」

「そんで、アルムちゃんの世界には俺やカズ君と似た顔の人もおるよーって言ってた。せやからそれぞれの世界に1人ずつ和泉君と同じ顔の人がおるんやないかなぁ、って」

「それなら納得が行くが……そうなると、集まった方法は?」

「カズ君、俺らの目の前におるやろ。異世界から来た子が」



 そう言ってアルムの肩をポンポンと軽く叩いた響。

 彼女が別の世界から九重市に来ていることから、彼は和泉、サライ、砕牙のうち2人がゲートによってこの世界に飛んできたのではないかと推察を立てる。

 その推察に対して和泉は反論することはない。むしろ和泉は、響の推察はほぼ確立された結論と捉えることが出来ていた。



「1度アイツらに話を聞いた事がある。サライも砕牙も親の記憶が全く無くて、気づいた時には既に施設にいたそうだ。もし、世界を移動しているなら、この世界に親がいないのは当然の事だろう」

「でも、彼らはどうやってこの世界に来たんだろうね? 今までの情報を考えると、彼らが移動するためのゲートが開けないと思うんだけど……」

「事象としては父さんと朔おじさんの事象に近くないか? 巻き込まれた先で帰る手段が見つからなくてそのままになった、とか」

「や、でもそれやと『気づいた時には~』って言うのはおかしいで。お父ちゃんたちは記憶がそのままやん?」

「あ、そっか。気づいたときには、って言い方だと記憶が全部吹っ飛んでる様子だよなぁ」



 響と遼のやり取りを聞いて首を傾げる猫助は、もう一度アルムにゲートについて尋ねてみる。

 以前と同じ話しか浮かばなかったが、サライと砕牙の話を聞いて1つ思い出したことをアルムは口にした。



「あ、でも、『突発的なゲートでは記憶や時間は消える』みたいな話を聞いたことがあります。朔さんと蓮さんの場合は、突発的なゲートって感じじゃなかったので言わなかったんですが……」

「その突発的なゲートに巻き込まれたのなら、サライと砕牙が和泉と同じ顔なのは別世界の人間説が成り立つな。……っつっても、こんなこと立証したところで何になるかはわかんねぇけど」



 あふ、と大きな欠伸をしては眠そうな顔をする和馬。それを優夜はよしよしと頭を撫でて宥める。

 同じように和泉も眠そうな顔をしているが、なにか見落としている気がしてならないという顔で眉間にシワを寄せており、傍から見ると怒っているようにも見えてしまう。



「イズ君、強面がさらに強面になってるよ」

「やかましい。……何かを見落としている気がするんだよな」

「にゃうー、夜中に考えても眠れなくなるだけだよぅ」

「でも和泉だからなぁ。寝る寸前まではぜってぇこの顔だぞ」

「うーん、和馬もそうだけど職業病だねぇ。僕や響君を見習ってほしいよ」



 優夜の小言には反応せず、脳内で情報精査を行う和泉。見落としている部分が何処なのかを気づくまでは、おそらくこのままなのだろう。


 ふとアルムは、砕牙と隣にいた時に聞こえた声を思い出した。

 男とも女ともはっきりわからないが、今の和泉のようなブツブツと呟く声だったことで思い出したようで、それを皆に伝えた。



「……声、か。砕牙のどの辺から聞こえたとかあるか?」

「……そういえば、御本人の口じゃなくて、胸元から聞こえたような……」

「胸元?」

「……にゃ? 砕牙って確かペンダント付けてたような」

「ペンダント……あれ、砕牙君のペンダントの石ってなんだっけ?」

「……そういや、誰も知らへんな??」

「緑色の石であるのは覚えてる、んだ……けど……」



 そこまで口にした和馬は、眠そうな顔から一気に覚醒した。

 『緑色の石』。朔と蓮の話にも出てきた、和泉の事務所ビルのある土地のゲートを開くかもしれない石の色。

 実際にそれだとは確信は持てないが、全員が何かしらの光明を見出した。



「砕牙さんがあの石を持っていた時期によっては、もしかしたらもしかします!」

「そんなら明日、アイツが俳優仕事行く前にとっ捕まえて話を聞くぞ! 和馬んちで!」

「なんで俺んち!? お前んちでもいいだろうがよ!」

「俺んちでの会話なら、もし砕牙のペンダントの石が発動用アイテムだった場合はゲートの誤爆で全員吹っ飛び確定だぞ! いいのか!俺んちで!」

「この野郎脅しやがって! くそぅ、仕方ねぇな俺んちで聞くぞ!」



 そうと決まれば、と男たち6人は明日に備えて就寝することになった。


 騒がしさがなくなり、アルムは1人就寝……出来なかった。

 先程までのバーベキューの興奮がまだ残っているようだ。


 アルムは横になったまま、窓から空を見上げては自分の世界と似たような月を眺めている。

 1つしかない月に、ぼんやりと「この世界の月は1つなんだなぁ」と呟く。そんなところを、丁度帰ってきた和葉に聞かれていた。



「アルムさんの世界は、月がたくさんあるんですか?」

「たくさん……というほどじゃないですよ。蒼と白の月が2つあります。でも、月は闇の種族や別の人種の住処だと言われていて、恐れられているんです」

「へぇ~。あたしたちは月にはうさぎさんが住んでるって言われてたけど、そっか、そっちは物々しいんだなぁ……」

「皆さんの言う【魔物】の存在があるわけですし、あたしたちの世界は些細なことでも全て闇の種族と結びついちゃうんです。機械文明が失われた原因も、闇の種族が原因だ~って騒がれてた時期もあったし……」

「う~ん、スマホもパソコンもない世界というのが想像出来ないなぁ。明かりとかガスコンロとかどうなってるんだろ……」



 抱き枕を抱いては、ごろりとベッドに横たわる和葉。現代社会に慣れきった世界では、機械の無い生活という状態が全く想像できない。

 それほどまでに自分が使っている機械たちには救われている、ということなのだろう。


 逆にアルムも、魔法の無い生活という状態は非常に困惑をしているのだが。

 それでも実際に触れてみて、自分たちと違う文明でも使い方によっては生きていけるのだと実感している。


 そうしてアルムの脳裏に思い浮かぶのは、別の世界から飛んできてしまったと推測されるサライと砕牙の2人。

 彼らは記憶が全て無くなっているとはいえ、文明の違いというものをすんなりと受け入れることができていたのだろうか?

 そもそも文明が違うと認識出来ていたのだろうか?

 そういう点を考えると、もしかしたら彼らは記憶を失うことは良かったことなのかもしれない、と思い浮かべてしまう。


 あれやこれやと思い浮かべていると、逆に眠れなくなってしまう。

 ごろん、ごろん、と何度も寝返りを打つところを心配し、和葉はベッドからひょっこりと顔を出してくれた。



「アルムさん、大丈夫ですか? 今日はいっぱいはしゃいだし、ゆっくり寝たほうがいいですよ」

「そう……なんですけど。でも、なんだか眠れなくて……」

「……じゃあ、ちょっとお散歩行ってみます?」

「えっ」



 和葉の方から小さく、にしし、と笑ったような声がした。


 動きやすい服に着替えると、和葉はこっそりとアルムを連れ出して部屋を出る。

 流石に誰にも何も言わないで行くと、何かあった時が困るので玲二に声を掛けようとしていたのだが……。



「ありゃ……玲二さん寝ちゃってる……」

「ありゃ……」



 玲二の部屋の前に行くと、就寝中の札がかけられていた。流石に0時近い時間なので眠るのは当然なのだが。

 どうしたものかと悩ませていると、また別の執事……文月神夜が声をかけてくれた。



「和葉お嬢様、どうなさいましたか?」

「あっ、神夜さん。……あれ、寝ないんですか?」

「ああ、僕はついさっき帰ってきたばかりでして。これから運動した後に寝ようと思っていたところなんです。お2人は外出ですか?」

「そうなんです。アルムさんもあたしも眠れないので、少しだけお散歩しようと思って」



 ね、とアルムに小さく声をかける和葉。同調するように、アルムは声を出さずに首を縦に振る。

 その様子を見て神夜は納得したように頷き、彼女たちに遠くに行かないようにということと、和泉たちには伝えておくということで了承してくれた。

 また、数時間経っても戻ってこない場合には捜索隊を出すと言われたので、アルムも和葉も早いうちに帰ってくると誓った。


 御影邸の中を歩くだけでも充分散歩にはなるので、アルムと手を繋いではぐれないように辺りを歩く。

 今日は風もそこまで強くは吹いておらず、ひんやりとした空気が辺りを漂っている。


 そんな中、池の近くに設置されているベンチに誰かが座っていた。

 月明かりがそこまで明るくないので顔は見えないが、道路側の灯りで照らされる黒と白の髪を確認する。


 不思議な髪色を持つ男、木々水サライ。どうやら彼も眠れずに散歩に出ていたようだ。アルムと和葉が近づくと、ぼうっとしていた状態から覚醒して振り向いた。



「よう、和葉。……そいつは?」

「あれ、和泉兄ちゃんや砕牙さんから聞いてませんか? 和泉兄ちゃんの、えーと、依頼人さんです」



 和葉は事情を説明していない相手に対し、いきなりアルムが異世界人だという話はするなと和泉に念を押されていたのだろう。

 和葉の咄嗟に出てきた依頼人という言葉に、サライは何の疑問も持たずに納得してくれたようだ。



「ああ、大会で砕牙と猫助と一緒に応援してた嬢ちゃんか」

「あ、は、はい。アルムと申します。よろしくお願いします」

「俺は木々水サライ。普通にサライと呼んでもらって構わない」



 握手のために、サライはアルムの前に立って右手を差し出した。

 差し出された右手には細やかな傷があり、新しい傷から古い傷まで様々な傷がある。

 アルムはそんな彼の右手に関心を寄せながらも握手した。彼の手は、触れてみると普通の人に比べてザラザラしている右手だ。



「……たくさん怪我されてますね?」

「ん、ああ。和葉と同じ仕事だからな。傷が絶えないんだ」

「同じ仕事?」

「あたしとサライさん、修理屋やってるんだー」

「しゅうりや??」



 修理屋とはなんなのだろうと首を傾げるアルム。ハッとなった和葉が小声で「機械を直す人のことだよ」と補足を入れ、納得させる。

 サライにはその様子は見られていないので、ほんの少し安心。


 しかしサライの疑問はそんなことよりも、女性2人で夜に出歩いていることに向けられてたようで。心配するように尋ねてきた。



「というか和葉、女2人だけの散歩なんて危ねぇだろ。誰も止めなかったのか?」

「敷地内だし、神夜さんの目の届く範囲だからいいかなあと思って。先輩がいるとは思わなかったんですけど……」

「あー、俺は各部屋の扇風機修理をしてたんだよ。それで逆に寝れなくなっちまって、砕牙も寝てるしこっそり抜け出してきた」



 ピース、とブイサインを作って2人に向けたサライ。軽くお茶目なところもあるのか、和葉は小さく笑った。

 アルムも小さく笑ったのだが、こんな時間まで起きて仕事という状況には驚かざるを得ないようで。



「夜までお仕事だなんて大変ですね……?」

「まあ……趣味で始めたようなもんだし、世話んなってるからいいんだけどな」

「お世話に……?」

「俺、砕牙の仕事の関係上俊一さんとも知り合いでさ。和葉ともその関係で知り合って、今じゃ修理屋の先輩後輩関係だ」

「和泉兄ちゃんもびっくりしてましたよ。まさか修理屋になってるなんて思わなかったって」

「アイツらや砕牙と違って、俺は夢がねぇからなあ。機械弄ってる方が楽しくてしょうがねぇや」



 その後空を見上げては、和泉たちのことや砕牙のことを褒めちぎるサライ。その表情は寂しそうにも見えず、むしろ彼らのことを友人に持ててよかったと誇りに思っている様子。

 とても仲睦まじくやっているのだなと、彼らのことをまだよく知らないアルムでもそれはよくわかる。



「……と、あんまり俺のことを喋ってても楽しくないだろう。和葉、なんか面白い話ないか」

「うーん、砕牙さんだったら出来る話はありますけど、先輩にはちょっと難しいですねー」

「……それ、砕牙がいたとしてもアルムの前で話したらまずいだろ」

「ですかねぇ」



 2人の会話の意味を理解出来ないアルムは首を傾げた。きっと砕牙と和葉の会話は、専門的な言葉が出てくるぐらい高度な会話なのだろうと1人で納得する。

 実際はそうでもないのだが、きっと彼女には理解し難い内容だ。


 あれやこれやとサライと共に話していると、アルムと和葉に眠気がやってきた。

 ふわ、と小さな欠伸を見せると、サライが戻るように促してくれる。



「ほら、俺も一緒に戻ってやるから。明日に疲れを残さないようにな」

「はぁい。ありがとうございます、先輩」

「ったく……」



 サライに付き添われて部屋に戻った2人。そのまま布団に入って眠るまで、彼は優しく見守ってくれていた。

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