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如月和泉の探偵備忘録  作者: 御影イズミ
第1章 王女と探偵、その日常
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第8話 バーベキューにて。

 九重市には大きな屋敷が2つある。


 1つ、久遠朔と長月蓮と睦月雪乃が育った『七星家』の屋敷。

 大昔から近辺を取り仕切っている、一般的に言う暴力団のお屋敷でもある。

 七星組の組長・七星蒼馬しちせいそうまの考えに基づき、現在はカタギには手を出さないようにしている。


 もう1つは、和泉が探偵事務所を開くために土地を提供してくれた『御影家』の屋敷。

 彼の嫁である和葉の実家でもあり、七星家とは盃を交わした間柄でもある。

 御影会の現会長・御影俊一みかげしゅんいちが暴力を好まないため、七星家とは良い関係になったのだとか。


 今回はそんな御影家で七星家も交えたバーベキュー&ゲーム大会が開催されるそうで、七星家の参加やゲーム大会について何も聞いていない和泉と優夜がツッコミを入れざるを得ない状況だった。



「……いや、なんでゲーム大会も!?」

「っつーか、七星家の人が来るの聞いてないんですけど!?」

「言ってませーん。ジンにも和葉にも言ってませーん」



 俊一は和泉の声を遮るように、軽く耳を手で塞ぐ。和泉はあまりのお茶目さにキレつつも、外そうと両手を掴んだ。

 お茶目たっぷりなこの男が、大掛かりな組織・御影家の会長というのだからアルムもびっくりしているようだ。



「……なんか、あの、失礼ですけど……うちのお父さんみたいな人だなぁ、って」

「アルムさんのお父さんも、あたしの父のようにお茶目なんです?」

「そうですねえ……。突然旅に出ては、『取ってきたよ~』って言って魚を騎士に振舞うぐらい……」

「……どこの父親も、茶目っ気って抜けないんですかねぇ……」

「娘の前ではゆるゆるしたいんですよ、きっと」



 俊一と和泉の様子を微笑ましそうに眺めていると、和葉と自分の空いた皿に気づいた。

 アルムはまだ食べ足りない様子の和葉と自分の腹具合を確認し、焼けた肉を取りに行こうと鉄板へと近づく。

 猫助が分けてくれているようで、アルムが来ると彼女にも分けてくれた。



「ありがとうございます、猫助さん。猫助さんは食べないんですか?」

「僕は後で食べるよー。ここの人達、みーんなお肉食べるの早いからねー、焼いて分ける人が1人はいないと大変なんだー」

「なるほど、たくさんの人がいらっしゃるならそっちがいいですよねぇ」

「にゃ、だからアルムもいっぱい食べてってね。お肉はいっぱいあるから」

「はい、ありがとうございます」



 女性が食べるには少し多めの量を盛り付けてもらい、アルムは再び和葉の元へと戻る。

 和葉の傍には、前髪が一部金髪な黒髪の男性がいた。どうやら彼女の専属執事のようだ。



「あ、アルムさん。ありがとうございます」

「いえいえ、あたし1人は寂しいんで。……えっと、こちらの方は?」

「あたしの専属執事さんです。水無月玲二みなづきれいじさん」

「初めまして。和泉君から、お話はかねがね」

「あ、ど、どうも。アルム・アルファードです。よろしくお願いします」



 ぺこりとお辞儀をしたアルムは、何故だか和葉と玲二から目を離せなかった。というのも、和葉の境遇が自分と似ていると思ったからだ。


 アルムとガルヴァスという、王女と騎士。

 和葉と玲二という、お屋敷の娘とその執事。


 先日和馬と響が言っていたように、彼らに似た人物がいるのならば自分に似た人物がいてもおかしくはないのだが……。



(あたしと和葉さんが似てるはないかなぁ。逃走犯なあたしと違って、和葉さんは誠実そうな人だし)



 流石に失礼に値するなと考えつつ、アルムは焼肉を野菜と一緒にレタスで巻いてかぶりつく。

 こんな豪快な食べ方ができるなんて、バーベキューというものは聞いた通り最高だ、とアルムは口には出さずに脳内で呟いた。


 そんな様子を和泉が見ていたのだが、あまりの豪快っぷりに苦笑いを浮かべていた。

 思わず『お前本当に王女なの?』という失礼な発言を口にして。



「もぐもぐ。王女です。もぐ」

「そうは言うが、やけに豪快じゃねぇか。王女ならテーブルマナーとかそういうのが厳しいと思うけど」

「マナーなんて覚えても、腹ぺこな状態ではそんなの気にしていられませんからね!」

「豪快だなぁ……」



 えっへん、と胸を張ったアルム。この堂々たる佇まいに、和泉もどうしてこうなったと呟いてしまう。


 そんな彼らのやり取りに、和馬と遼がやってくる。2人はある程度食べ終わった後なのか、和泉とアルムに飲み物を持ってきてくれた。



「わ、ありがとうございます」

「どういたしまして。炭酸系は大丈夫か?」

「たんさん……? ええと、よくわからないけどアルコール以外なら大丈夫ですよ」

「ああ、未成年だったらまずいから持ってこなかったよ。はい、サイダー」

「さ……??」



 サイダーを手渡され、なんか変なよくわからない液体だなぁと眺めている。

 シュワシュワと音を立てている透明な液体に、首をかしげつつ。


 しかし和泉が何の疑いもなく飲んでる様子を見て、これは飲み物だとわかったようだ。

 一口だけと口に含んでみると弾ける炭酸にびっくりしたのか、すぐにコップから口を離した。



「な、な、なんですかこれぇ……! 口の中がパチパチする……」

「それが炭酸だよ。あ、ダメだったか?」

「うぅ……実は初めてなんです、こういう飲み物……。他の国に行けばあるんですけど、あたしの国には無い代物で……」

「え、マジか。ごめん、オレンジジュース持って来ればよかったかな……」

「いえ……大丈夫です。慣れると美味しいみたいですし」



 そう言ってもう一口。今度は炭酸の弾ける感じが気に入ったのか、すんなりと飲めるようになった。

 流石に一気飲みはつらいので、ちまちまと飲みつつ。でも美味しいので2杯目をおかわりしてしまう。


 サイダーをゆっくり飲んでいると、ある一帯が騒がしくなる。

 どうやらゲーム大会が始まるようで、朔と蓮が参加者の募集をかけている様子が見て取れた。

 ゲームというものがよくわからないが、何やら面白い機械文明の気配を察知したので、和泉に付き添われつつアルムもそちらに向かうことに。


 ゲーム本体と大画面テレビが繋がれた特設会場には、既に7人揃っていた。

 参加者は睦月和馬、文月優夜、長月遼、久遠響、長月蓮、久遠朔、そしてテレビ画面に向き合ったままの黒と白の髪の男性。

 和馬たちはその男性を『サライ』と呼んでいるのが聞こえる。


 しかしゲーム大会にはあと1人足りないようで、響が和泉とアルムを見つけて声をかけてきた。



「和泉君、どや?」

「猫助はどうした、猫助は」

「ネコ君は『ゆーやがいるにゃら無理! 肉食べるし!』って言って棄権~」

「……ゲーム内容は?」

「いつもの」

「……猫助の言うとおり、優夜が1人勝ちしねぇか? それ」

「んー、8人で乱闘やったら勝てると思わん? サライ君もおるし、この大会わからんよ~?」

「……。」



 響が誘ってくれたのを横目に、和泉はアルムを見る。

 当然のことながらゲーム機という未知の機械文明を目の当たりにした彼女の目はキラキラと輝いており、なんなら和泉に『今から触らせてくれますよね!?』と言わんばかりの目線を向けている。

 その目線は響にもしっかりと見えているので、アルムを押さえ込む意味で和泉を誘ったようだ。


 流石に会の持ち物を壊すわけにはいかない……。

 そう思った和泉は、ある男性に声をかけてアルムを預けた。その男性は少しだけ和泉に顔つきが似ており、胸元に緑色の石のついたペンダントをつけていた。和泉はその男を『砕牙』と呼ぶ。



「お、いいぜ~。サライが参戦したから暇だったんだよね、俺」

「お前も参戦すりゃいいだろうに」

「いやぁ、優夜っちがいるなら無理っすわ。優夜っち、アレ強いじゃん」

「まあ……俺も生半可な覚悟では挑めないんだけどな……。ともかく、アルムに変な知識入れるんじゃねぇぞ」

「ほいほーい」



 砕牙にアルムを預け、ゲーム大会に参戦する和泉。今回使用するゲームは格闘ゲーム…に似ているが、システムが独自のタイプのもの。

 残機制が使え、8人同時に戦いができるのである意味今回の大会にはオススメされるものだ。


 ……が、七星組と御影会という、とてもガラの悪い人々の集まりの中でのゲーム大会。それも格闘ゲーム。

 周囲のギャラリーがそれぞれの選手たちをガッツリと応援し始めた。



「和馬坊ちゃん! 御影会の連中、やっちまってください!」

「いーや、優夜坊ちゃんの勝利は確実だ! このゲームは優夜坊ちゃんに勝てる者がいねぇからな!」

「遼アニキーー!! やっちまえーー!」

「響さん! 御影会の連中に負けないでくだせぇ!」

「蓮の旦那ァ! 負けたら鈴さんにチクりますぜ!」

「朔アニキ! 負けたら綾姐さんにチクりますぜ!」

「サライ!! 七星組に負けんじゃねえぞ!!」

「次期会長候補ぉ! 七星組に御影会のスゴさを見せてやってください!!」



 沸き立つギャラリーの様子に、アルムも少しびっくりしていた。七星組、御影会、という言葉に首をかしげながらも彼女は周りを見回している。

 そんな彼女の様子に、砕牙は優しく声をかけてくれた。



「あはは、ビックリした? ここの人たち、ゲーム大会が始まるといつもこうなんだよねぇ」

「い、いつも?」

「うん、いつも。だいたい大会に参加するメンバーってのは決まっててさ、和馬っち、優夜っち、遼っち、ネコっち、響っち、和泉、サライはだいたい参加するんだ。で、和馬っちと遼っちと響っちは七星組の総長の孫、和泉とサライは御影会に世話になってて、優夜っちはお父さんが御影会の人だから、自然と別れちゃうんだよね~」

「…あれっ、猫助さんは???」

「ネコっちはねー、どっちもって感じ。なんていうかここの人たちからは、マスコット的な扱いを受けてるんだよねぇ」

「ああ……猫助さんって、ちょっとゆったりしてますもんねぇ……」



 チラリと猫助を見てみると、彼は肉を串焼きにした状態で齧り付いていた。

 誰も肉を食べなくなったからということで、豪快に食べようとした結果がこの姿らしい。

 アルムと砕牙にも串焼きを持ってきてくれたので、一緒に食べることに。



「それにしても、ゆーやが1人勝ちになるの目に見えてるのに、みんな張り切るねぇ」

「なんか、今回優勝したら景品があるらしいよ。和泉もサライもそれ知らないけど」

「景品かぁ、にゃんだろー。和葉ちゃんのおじちゃんなら気前よく金券くれそうな気がするー」

「んー、今回景品用意したのは七星組側って聞いてるぜ? 和馬っちのじいちゃん」

「にゃー、かじゅのおじいちゃんなら旅行券くれそう」



 そんな3人の様子は、ゲームをしている8人からは見えることはない。真剣にゲーム画面に向かい合い、コントローラーを叩く。

 なお和馬、遼、朔、蓮、サライは機体付属のコントローラーに対し、優夜、和泉、響は自前の接続型コントローラーを利用している。


 優夜も和泉も響も、ほかの5人よりも指さばきが尋常ではなく、砕牙も猫助も感心している。アルムは『なんだか指が凄い分裂してる』としか思えないようだ。


 和馬が脱落し、蓮が脱落し、朔が脱落……したところを見たあたりで、ふと、アルムの耳に何かが聞こえてきた。

 それは、画面に向かい合っている8人からではなく、隣にいる砕牙から聞こえてくる。



『……を、……に……』



 微かな声。男性か女性かはわからない声質。何かを訴えるかのような声なのだが、何を訴えているのかはよくわからない。

 ハッキリとしないためか、アルムは砕牙に問う。



「……? 砕牙さん、今なにかおっしゃいました……?」

「え、何? 俺ずっとサライ応援してたから、何も言ってないよ」

「あれ……? 気のせいかなぁ……」



 アルムが声の出処に首をかしげたその瞬間、ギャラリーがわっと沸き立つ。どうやら優勝者が決まった様子。


 最後の最後まで画面を見続けていたのは、優夜と遼と響とサライの4人。

 だが、同時に決まったのか最後に残っていたのはサライのキャラクターたった1人。

 優勝者は、木々きぎみずサライという男性に決まったようだ。



「あー! ちくしょう、和泉は倒せたのになぁー! サライという強豪が残ってたかーー!」

「優夜のコンボに巻き込ませりゃこっちのもんだよ。……さて、優勝賞品は、と」



 そう言って立ち上がったサライの顔が、ついにアルムにも見えた。

 ──額に大きな傷はあるものの、その顔はまさしく如月和泉や自分の従兄弟にそっくりだった。

 サライの顔を目の当たりにした彼女は、思わず息を詰まらせる。



「ん? 大丈夫?」

「にゃ、アルム、大丈夫?」

「え、ええ。……あの、猫助さん。あの人……」

「にゃ? ああ、サライ? 不思議だよねー、いじゅみそっくりなんだもん。でも双子じゃにゃいんだよねぇ……」

「……。」



 不思議という言葉で片付けられるようなものではない。

 アルムにはそれがよくわかっていた。というのも、従兄弟を始めとした『同じ顔の男性』が例となっているのだ。


 人間、同じ顔が3人いると言われている。

 しかしアルムの知る『同じ顔の男性』というのは、今日出会ったサライと砕牙を含め……、




()()()()()()()()……。

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