初めて見た人、初めて見た精霊、新しいわたし
「な、……んと、こんな乙女が現れようとは……」
眩い光が治まったと思ったら、目の前には男の人たちが居た。えぇと、壁を壊した人たち?
わたしの前に、男の人。長い剣を持っている。
その隣にも男の人。長い髪をしている。
反対側の隣にいるのも男の人。黒いローブを着ている。
「まさか、妖? この美しさは、人のものではないだろう……」
4人目の男の人も、そんなことを言った。この美しさって、何をいっているのだろう。そう思ったけど、ふと視線に入った自分の長い髪の毛に驚いた。わたし、銀髪になってる。凄い、光り輝いてるよ? わたしって、こんな髪色してたっけ? 違うよね? いつの間に? うん、少なくともこれだけは“美しい”の部類にいれてもいいかもしれない。
「どうしたらいい? 宝玉を壊すよう命令は受けていたが、こんな、人が、それも女性がいるなんて……これは聞いてないぞ?!」
「これは、魔物?」
「いや、だが……」
4人がわたしを睨むように見詰める。
怖い。
『大バカ野郎どもが!!』
突風が吹いた。
わたしの側にフワリと人の形をした者が降り立った。人の形をしていたけど、人の気配がない、彼(彼女?)は誰?
『可哀想に、怯えているではないか』
そう言いながら、人の形をした2人目の彼(彼女?)がわたしに白くて大きな布をかけた。……温かい、わ。
『怯えるな、神の愛し子よ。我らがそなたを護ろうぞ』
3人目の彼(彼女?)がわたしの肩を抱いた。
『この神気に気が付かないとは、まこと、人の子とは鈍い生き物よのぅ』
4人目の彼(彼女?)がわたしの前に立って、男の人たちに文句を言った。揶揄う様な響きに、彼らと男の人たちは、仲が良いのかな? と思った。
誰?
『……おぉ、可哀想に。神の愛し子よ。言葉が話せないのか?』
言葉……、声……どうやって出すんだっけ?
「っ……あ、……あ……」
『無理をするな。そなたは長い期間、封印されていたようだ』
封印?
『魔の森の宝玉を壊したら、そなたが現れた。そなた、神の愛し子だろう? 神の強い残り香がするぞ』
「シルフの王よ、どういう事でしょうか? この乙女は、魔物ではないのですか?」
剣の人が問う。
『この世に災厄を撒き散らす、魔物どもの力の源だった魔の森の宝玉。これは元々神の宝だったのだろう。それを魔王が盗んだ。自分たちの力の源泉にする為に』
シルフの王と呼ばれた彼(彼女? 綺麗で線が細いからどっちかわからないな)が答えた。
『人の子よ。力その物には善も悪もない。その力をどのように使うか、が問題なのだよ。神の愛し子は我らが守護しよう。そなたらは疾く国へ帰れ』
髪が燃えているみたいに見える彼(彼女?)が続けてそう言うと、わたしの手を取って立たせてくれた。
「「「「えぇ?!」」」」
なぜか不満げな声を出す男の人たち。一斉に同じように声を出すって、気が合っているんだね。
『おぉ、そうだな。愛し子は我らが妖精郷へ連れ帰ろうぞ』
シルフの王、が嬉しそうに言うと、わたしに向き直った。4人(って数えていいのかな?)に囲まれてしまう。みんな、背が高い……じゃないのね、浮いてるんだ。
『我は風を操る精霊の王、シルフィードと人の子は呼ぶ』
『我は火を司る精霊の王。人の子はフレイヤと呼ぶ』
『我は水の精霊の王。好きに呼んでよいが、こいつらがヒュドールと呼ぶから、それに慣れてしまったな』
『我は大地の精霊の王。エザフォスと呼ばれているが、愛し子が呼びやすいならノームで良い』
『よし、では共に参ろうか!』
「お待ちください! シルフィード!」
「フレイヤ! 待って!」
「エザフォスさま! お待ちください!」
「ヒュドール! 話を聞いて!」
一斉に男の人たちが怒鳴って、なに? なんなの?
『なんだ? うるさいぞ』
「その乙女は、我々が保護します! 人なのでしょう? 常日頃、人の世の事は人だけでなんとかしろと言っていたのはシルフィード、あなたではありませんか!」
それからが、なんというか、凄く五月蠅くなった。
みんなが一斉に話しだして、もう、何がなんやら。この精霊の王? さんたちと仲が良さげな男の人たちが、一対一でそれぞれ話をしているのだけど、みなさん声が大きいなぁ。
人の話し声って、随分久しぶりだ。
昔、聞いたこともあったような……なかったような。
あれ?
わたし、ってなに?
わたしって、誰? 思い出せない……
わたし、さっきは精霊の王たちに“神の愛し子”なんて呼ばれたけど、本当にそうなの? 神? ……カミサマ? ……カミサマ、さっきまで一緒にいた、よね? あれ? 眩しい光に驚いて目を瞑ったら、なんだか前の事、忘れちゃった……
最後になんだっけ、何か言ってたよね……
……善良……って言ってたよう、な……
『誰が? 言ったのだ?』
カミサマが、私に、そう言ったの……
シルフの王が私の側に立った……って、やっぱり浮いてるんだね、へぇ……さすが、精霊っていうべきかなぁ。
『それがそなたの名か。神がつけたのか。アレティ、か。よい名だ。』
アレティ?
『そう、善良。神がつけた、そなたの本質なのだろう。良い名を頂いたな』
「乙女はなんと言っているのですか?! 二人だけで会話して! ずるいですぞ!」
剣の人がシルフの王に話しかける。
『念話が出来ぬそちが悪い』
「そんな高等技術、俺は出来ませんが仕方ないではありませんか! 人には不要ですから!」
『神の愛し子は名を名乗ったのだよ。“アレティ”というそうだ』
「アレティ……」
わたし、本当にそんな名前なのかな。
違ったような気もするけど……長い間、名前なんて呼ばれてなかったから、もうなんでもいいよね。せっかくカミサマが新しい名前をくれたなら、それがいい。
ちゃんと自己紹介、したいな。上手く声が出るかなぁ。
「あ……あっれ、てぃ……」
初めての場所、初めて見た人、初めて見た精霊。
「あ……ア レ ティ……」
新しい名前、新しいわたし、……新しい、人生?
「……アレティ、です……よ ろしく、です」
そう言って頭を下げた。
やっと言葉っぽいものを発声する事ができてほっとした。
顔を上げると、ぽかんとする男の人たちと、精霊の王たち。
なんだかその顔が可笑しくて。
楽しくなった。
笑った。
4人の男の人たちは、魔王を倒す為に旅をしていた『勇者さまご一行』なんだって。カミサマがなんか言ってた気がするなぁ。今回の勇者たちは優秀だとかなんとか。
4柱の精霊王たちは、勇者さんたちそれぞれと契約して与力してたんだって。人と精霊の連合軍で魔王を倒したって事かな? でも、たった8人(?)で魔王を倒すって、無謀じゃないの? 戦争とは違うのかな? 大軍で戦うものじゃないの? よく分からないけど。
わたしはこの勇者さんたちと一緒に人の国に行くことにした。
いろいろ忘れている事が多いけど、なんとなく判る事もあるし、精霊だけの国へ行くよりも、人と関わりたいなって、思ったから。
大きな声が怖かったけど、話してみたら男の人たちも気の良い人たちだったし、なにより精霊の王さまたちがわたしを守ってくれるって言ってるし。
どうしてそう思ったのかわからないけど、今度はきっと幸せになれる。
だから、カミサマ。
見守っててね! わたし、今度は諦めないで頑張るからね!
【Endless END】
主人公アレティは、この後、普通に、幸せに成り上がると思って頂ければ。
Q.何故、ここまでなのか。
A.その後の出来事はテンプレ()なので、他の作家さんが書いてる方が面白いからかな!(身も蓋もないないしました)
私が思う所のカミサマは、等価交換でないと動きません。アレティはカミサマが興した世界の負の部分を創るお手伝いを(意図せず)した → そのお礼(加護付き転生)を貰えた。そんな図式。ま、ちょっと同情したので加護はてんこ盛りしましたが。
あと ◇ ←これ。
作中では、これ1個で100年くらい経過してます。
こんなネタばらししないで済む執筆力が欲しい(切実)




