そして、生まれ変わる
◇◇◇
いつの間にか寝ていたみたいだ。
目がしょぼしょぼする。
ん?
ちょっとだけ、周りが明るくなってる……。細い手がはっきり見える。私の手。ぎゅっと握っていた掌を開いて見ると、握りしめていた分の爪の痕がくっきりついていた。私の癖。いつも我慢ばかりしていたから、自分で手の平に傷をつけてしまう。
ぼんやりしていると、自分が泣いたことを思い出した。
声を出して泣いたのって、いつぶりだろう?
記憶にある限りでは、無い。そもそも泣くと煩いって怒られたから、泣かない子になった…と思う。
泣くって気持ちいいんだな。初めて知った。
そうか、そんな事まで我慢してたんだ、私は。
これからは、我慢し続けるの止めよう。我慢なんて、ほどほどでいいじゃん。誰も私一個人の事なんて気にしないんだし。
泣きたくなったら泣いてもいいじゃん。
気に入らない事は気に入らないでいいじゃん。
なんであんなに我慢しちゃったのかなぁ。私、バカみたい。
『お。ちょっと明るくなった?』
あらカミサマ。ご無沙汰? な気がするわ。
『君、ずっと泣いていたからね』
あはは。そうだね、なんか長い時間泣き続けた気がする。でも気の済むまで泣くって気持ち良いんだね。
『ありがとうね、お陰で助かったよ』
は? 助かったって、何が?
『君のヘイトを聞けたからね。ずっと聞きたかったんだ。人の心の内にある悲しさとか悔しさとか嘆きとか、マイナスな気持ち』
そう言えば、ずっと私の気持ちを聞きたいって言ってたもんね。そんなモノ、知ってどうするのよ? へんなカミサマね。
『ん?それらは呪いとなって、この世界を浸食するんだ』
へ?
『人間の強い気持ち、人を羨んだり妬んだり呪ったり、そんなマイナスの感情が強い呪いになる。それはこの世界に邪気となって溜まり、それらをエサに魔物が生まれた』
は?
『ボクが“星の管理者”だって話は以前したよね? ボクの任された星にはね、魔物とか魔法とかがある世界に設定したんだ。何もない所に邪気はない。邪気を発生させる為に、地球の不運な子の魂を貰い受けた。君はなかなか良い働きをしてくれた。感謝しているよ。こんな哀しみを纏った邪気なんて、凄いや。ぞくぞくするね』
……なに?
『君が長い時間泣き続けてくれたから、君から溢れ出た“呪いの森”も立派に成長したし! なんと魔王サマも誕生した! 魔王サマだよ? 魔物たちの王サマだよ?! 凄いなぁ、ワクワクするね!』
あなたが何を言っているのか、よく解らないのだけど……
『言っただろ? “君は君のままで良い”って。君は君のまま、ボクの管理する星の新たなる礎になったんだよ! 魔物と人間は共存すると思う? どうなるかな? ワクワクするね!』
良い笑顔を残してカミサマは消えた。
…………え? どういうこと?
強いマイナスの感情が呪いになって?
この世界に邪気となって浸食して?
邪気から魔物が生まれて?
私が呪いの森を生んだって言ってた、よ、ね?
…………え? どういうこと?
えーと、つまり、私はあのカミサマに、地球とは違う異次元の世界に連れてこられたってこと、なのよね? 私は私のままだから、“異世界転生”じゃないのね。それを聞いた時、妙に言いづらそうにしてたのも。私は地球で生きていた時に貯めた負の感情を、この世界(どこだか知らないけど)に撒き散らしていたってわけなのね。
……それって、ここの人の迷惑になってない? カミサマは上機嫌だったけど、いいのかな。
私自身は一杯泣いてすっきりしたし、別に構わないんだけど、ヨソサマの迷惑になるのは嫌だなぁ。罪悪感? っていうのかな、それをちょっと感じる。
ねぇ! カミサマ! 私は誰にも迷惑かけたくないのよ?! いいの? だいじょうぶなの?
……こんな時は返事がないのね。私、知らないよ? 知らないからねーーー?
◇◇◇◇◇
なぁーーんにもする事がないっていうのも、いい加減、飽きてきたわ。暇なときって、わたし何してたっけ? よく思い出せないなぁ。何かを見たり、読んだり? してたような……気のせいかなぁ。ヒマを潰せるアイテム? があったと思うんだけど。何か、することがあったと思うんだけどなぁ。なにしてたんだっけ? 思い出せないや
ごろんごろん
ぐるんぐるん
いろんな角度に回ったり転んだり
自分の長い髪の毛を追いかけたり
自分の髪の毛にぐるぐる巻きになるって、妙なマネよね
はははっははは、へんなのぉー
そういえば、ここ、以前はもっと暗かったよね
いつの間にか 明るくなったねぇ
色々見えるよ と言っても 自分しかないんだけどさ
大の字になって 手足伸ばして寝るって 気持ちイイよねー
んー? だいのじ って、なんだっけ?
ドォンっ!
へ? 揺れた?
ガツンっ!
外壁(?)を何かが叩いてる? なに? なんなの?
『あぁ、来たね』
わっ! びっくりした、カミサマじゃない! 随分久しぶりよね? 今までどこにいたの?
『ここもそろそろ攻略されるって事だよ』
こうりゃく? 誰がするの?
『勇者さまご一行が。魔王を倒したんだ。今まで五百年かけて、世代を超えて人を替えながら何度も魔王を倒して来たんだけど……今回の勇者たちは優秀だな。魔王の力の源になる“核”を壊す事に決めたんだ』
核? って、なに?
『君を取り囲むこの繭の事だよ。彼らは“宝玉”って呼んでたけど。これがいつまでもあると、魔王は何度でも復活するからね。
…最後になりそうだから、よくお聞き。君を取り囲むこの“繭”は君の人格そのものだから、これを壊されたら“君は君でなくなる”。新しく人として生まれ変わるよ。
ボクからの感謝を込めて山ほど“神の加護”と“神の祝福”を君のスキルに付与しまくったからね。今度の人生は溺愛されて、ちゃんと寿命を全うするんだよ、いいね?
あぁ、でも賢く振舞わないと逆ハーレムになって余計なヘイトを買うかもしれないから、気を付けるんだよ、わかった? ボクの残り香がするだろうから精霊たちからも守護されるだろうし、今度の人生は、本当に幸せだって思うようになるんだよ? 君の幸せをずっと祈っているからね!』
……カミサマ、なんだか言っていることがおばあちゃんみたいね。私のばぁばもね、そんな事言ってた気が、する……あれ? いろんなこと 忘れちゃったのに 急に思い出したわ
ばぁば……あったかくて、だきしめてくれて、おうたをうたってくれて
しあわせに、なるんだよって、言ってくれ、た、ひと……
『あぁ……おばあ様に抱き締められた記憶が根幹にあって、君は善良だったんだね……』
バキッ! バリンっ!
凄まじい破壊音と共に、“壁”が壊された
強烈な光が溢れて、眩しくて、眩し過ぎて、もう何も、見えない―――