表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

1、アバランチェ−4

 身体を動かす脳が壊れれば。心臓がぴたりと止まってしまえば。首が切り落とされればひとたまりもないし、くいや刃物で心臓をひとつきにされ、治癒が間に合わなければそれで最後。人間よりすこし頑丈なだけで、致命傷は他ととくにかわらない。

 十字架やにんにく、それから聖水。残念ながらそれらは効かない。だから町でみなが自分を寄せ付けないようにと飾っているものは、すべて無意味であるのだ。

 唯一、だめなものは太陽だった。日の光を浴びれば、浴びたところは傷を負い、それはそう簡単に癒えてくれない。だからフェリは、なによりも日の光に注意を払って生きてきた。

 ぼんやりと星を見上げながら、フェリはゆっくりとした動作で、薔薇を枯らしてゆく。けれど決して、例の薔薇には手をつけない。あの味は今も覚えているし魅力的ではあるけれど、エルの悲しむ顔だけは見たくなかった。

 エルの寝顔が、自然と頭に浮かぶ。幸せそうなあの寝顔。心なしか微笑んでいる唇。薔薇色の頬。閉ざされた瞳は、吸い込まれそうなほどに深い、漆黒。

 ほんのすこし前まで、ただの赤ん坊だったのに。四六時中泣いてはフェリを起こし、歩き回るようになれば洋館で迷子になりフェリを困らせ、ひとりで町に出れば道の途中で力尽きて泣き出して。

 いつの間にか、たくさんの薔薇とともに、大人という心を腕いっぱいに抱えるようになり。

 その成長のほとんどを、フェリはこの目で見てきた。きっとこれから先も、見守ることができる。あの寝顔だって、毎日でも眺めることができる。

 町に行くとき、たまに窓からその姿を見送ることがある。光にあたらないように気をつけるフェリに、エルは太陽の下で笑いながら、大きく手を振ってくれる。

 その豊かな黒髪が風にあおられる。唇からのぞく白い歯。ブラウスの襟からかすかにのぞくなだらかな首筋。

 それを見ていると、いつもフェリは苦しくなる。

 息も、心臓も、いつもとかわらない。けれど、胸がざわめき、かすかに痛みを覚える。

 その痛みは、エルが成長を続ければ続けるほど、増すばかりだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ