第一話
僕、ウィリアム・トミーの成績は優秀なほうだった。友人もそこそこいたし、両親とも仲が良かった。でも、少し退屈だった。
戦争がはじまって、あのキッチナー将軍が兵隊を募集していると聞いたとき、あるいは、友達がみんな募集すると言ったとき、はたまた、街の人から若い者は戦争に行くべきだと言われたとき。
・・・そのどれもが僕が戦争に行く決心をさせたのだと思う。両親は反対したけれど、あの時はイギリス全体がお祭り騒ぎのようになっていたんだと思う。まもなく了承してくれた。
数十人の友人とともに入隊志願書を役所に出しに行ったとき、軍人に年齢を聞かれた。16歳だと答えたが、
「それでは若すぎる。せめて19歳にしなさい」と言われた。
僕が「じゃあ、19歳です」と答えると、
「今日から君は大英帝国軍人だ。誇りに思いたまえ」と軍人さんはニッコリ微笑んで、書類を受け取ってくれた。
翌日、両親に軽い別れの挨拶を伝えると、友人とともに指定された陸軍の兵舎へ向かった。
僕が一番驚いたのは、仲が良いものと大隊を組むことを許されたことだ。
親友のジャックやスミスとまた一緒に生活することができたのだ。
だから、寂しさのようなものはほとんど感じなかったし、軍隊というよりは寮制の学校に入った感覚だった。
そんなこんなで、僕にとって軍隊生活はとても楽しいものだった。訓練は厳しかったけれど、辞めたいとは一度も思わなかった。
半年ほどの訓練を終えて、僕らは戦争の前線であるフランスに行くことになった。親友のジャックは初めての海外旅行だと興奮していた。誰も自分が死ぬなんて考えてなかった。
誰もが、英雄になって帰ってくるつもりだった。
フランスに着き、前線に向かうことになった。はじめは鉄道で、近くまで着いたら行進して移動した。前線に近づくにつれて、砲声が聞こえてきた。次第に会話が少なくなり、みんな緊張しはじめていた。
前線は塹壕が張り巡らされていて、まるで迷路のようだった。そんな有様だから、僕らは案内係に誘導されて配置についた。
ヘルメットに、水筒、小銃、スコップ。そして歯ブラシ、着替え、軍隊手帳などが入った背嚢。コレだけが今の僕を守ってくれるものだった。
塹壕での前線勤務は四日間。その後一週間は後方勤務という決まりだった。
前線勤務は地獄だった。さっきまで雑談していた者の死体を埋めて埋葬するなど日常茶飯事。戦況が落ち着いている日でも、雨が降ると塹壕に水が溜まり、凍傷の患者が続出した。酷い者は、足を切除された。
後方勤務では、遊んだり、砲弾を運んだり、突撃の訓練をしたりした。命の危険がずっと少ない後方勤務は、気が楽だった。
一緒に入隊した友人は残念ながら二人死んでしまったが、僕は幸運にも一か月生き残った。
そんなある日、大隊長から三日後ドイツ軍の陣地に突撃すると言われた。
僕らはもうこの日までに突撃して怪我をした人間、死んでいった人間を大量に見てきたから、いよいよ自分たちの番かと思った。
ここまでくると旅行気分の者は一人もいなくなっていた。
それから三日間は親友のジャックとスミスと一緒に行動した。突撃も一緒だと誓った。
とうとうその日がやってきた。僕は親友の二人とともに息をひそめて突撃の合図を待った。大隊長が笛を吹く。それが突撃の合図だ。
待っている間、気を紛らわすために僕はジャックとスミスと雑談をした。他愛もないことを話したが、彼らとの会話で一番楽しかったかもしれない。
ピィ――――――――――――――――ッ!!!!
大隊長が笛を鳴らし、僕らは敵の塹壕陣地に向かって進み始めた―――
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「ハズだったんだけどなぁ・・・」
やっぱり知らない森。僕は一人、森の中で途方に暮れた。