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その1

気がつくと湖を眺めていた。

視界一杯に群青をたたえた、美しい湖だ。

ゆらゆらと揺れる湖面には、帯のような一筋の光。

光を辿って目線を上げると、息を呑むほど巨大な月が湖を覗き込んでいる。

月光の眩しさに長く見ていることが叶わず、顔を俯けると、光の帯の反対側の端はマナの立っている足元に真っ直ぐに伸びていた。

頬に感じる風は、夜風にしては温かい。

しかし湖面を渡ってくるそれは澄んだ清涼感もありながら湿気がほとんど含まれず、ひどく気持ちがいい。

未だかつてこんな風を感じたことがあっただろうか。

全く知らない大気の様子に、やっと頭が動きはじめた。

「ここ、どこ…?」

たしか自分は、こことは180度異なる世界にいたはずだ。

狭い空間を広く見せるために、壁のほとんどに鏡が埋め込まれ、それ以外の場所は床も含め黒一色に塗り潰されていた。

頭上にはミラーボールが回り、天井に向かってのぼる煙草の煙がスモークの役割を果たしていた。

むせ返るような香水と芳香剤の匂い。

絶え間なく上がる嬌声と、調子っぱずれなハスキー声で繰り返されるシャンパンコール。

今日は自分の人生最良の日だったはずだ。

いや、自分とハルカの。

主役のハルカは『キング』、隣に座る私は『クイーン』。

いつもお店に来ると、入口にいる年若いホストが店内に向かって叫ぶ。

「ハルカのプリンセスのご来店です!」

来店する女性客はもれなくプリンセスと呼ばれる。

でも今日だけはプリンセスじゃない。

ハルカの『クイーン』として隣に座るチケットは、1枚だけ。

ハルカの20歳の誕生日を隣で祝う権利があるのは、私だけ。

目の前にあったのは湖じゃなく、天井に届くかと思われるシャンパングラスタワーだったはず。

「わたし、なんで…?」


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