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プロローグ

「──とにかく、退院おめでとう。気をつけて帰るんだよ」


「はい。ありがとうございました」




 この俺、霧崎(きりさき)響冴(きょうご)は、長きに及ぶ入院生活を終えて退院した。





「いやぁ、退院直後にこの雨の中を一人で帰るってのは辛いものがあるな……」



 3月に入院してから、いまや梅雨の真っ盛り。


 激しい雨の降る病院の玄関先。

 呟いた言葉は、自分の耳にすら届かなかった。




 ん、自己紹介?


 いーよいーよ、別に大したやつじゃないし。

 もう名前だけでよくね。



 ……うん。やったほうが良さそうだけど、面倒だからまた今度ね。


 俺ぁアレだ、ストーリーが進むにつれて過去編に突入するキャラみたいな感じで。






 しまった、傘がない。


 タクシーは……だめだ。マンションまで、となると金が足りない。


 こんなことで両親に迷惑かけるわけにはいかないし、しゃーねえ、歩くか。




 院内の売店には置いていなかったし、この時期なら近くのコンビニなどにあるだろうか。




 ともあれそれまでは辛抱だな。



 退院したての、よりにもよって義足の俺には、6月の雨は厳しそうだ。


 ……まぁ、義足コレにはもう2年もお世話になっているがね。慣れたモンよ。





 ……しかし、雨で足を滑らせて逆戻りとかなったらシャレにならんぞ。



 友達呼んでみるか?



「ダメだ、ぼっちには荷が重すぎる」



 あいにく友人なんて二人しかいないんだわ。いや、今じゃそれも一人か。


 ……もし目を開けたときに病室だったら、ただいまーって言おう。




「一人じゃないよ」



 翌日の再入院を覚悟した俺に、女の人の声がかけられた。



 言葉と同時に、俺の周りだけ雨が止んだ。


 傘だ。思わず振り返る。




「つ、月宮?」




 そこには雨で濡れ透けな制服姿の美少女がいた。


 一口に美少女と言っても、世の中には多種多様な美少女がいるから、とりあえず紹介しよう。




 ミス人類程度には整った、端正な顔立ち。濡れ羽色の長い髪と、形の整った大きな美乳。そして引き締まった美脚。




 彼女は俺のお隣さんにして、俺のたった一人の大切な友人兼クラスメイトの、月宮(つきみや)鏡華(きょうか)だ。




 ふむふむ、なるほど。


 ピンクね。ごちそうさまでした!




 ちなみに一緒に登校したことがない。というか入試以来高校に行ってない。



 現在高一で、しかも三月に入院しちまったもんだから、甘酸っぱいラブコメは中途半端に進んでいたりする。




 じゃあ入学手続きはどうしたのかって?



 ……今日から俺のことは「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」とでも呼んでくれ。


 ちなみにリリィじゃないぞ。あれはペインブレイカーであって、俺はもっと色っぽいほうだ。好みも、やり方も。



 ちなみに推しは虞美人と刑部姫です。



 って、そんなことはどうでもいい。今はこのスケスケなYシャツを舐め回すように鑑賞する時間だ。


 俺はめちゃくちゃ大きすぎるよりも、形とバランスがいい女の子が好きなのだ。よって当然ロリもいけるクチである。




 みんなちがってみんないい。俺はおっぱいマイスターである。





 ……自分で逸らしておいてなんだが、話を戻そう。





「ん? そっちに何かあるの?」



 そんな俺の熱い視線には気づかず、辺りを見まわす月宮。




「それはそうと、手続きが長いとは聞いてたけど……もう少し早く来てほしかったよ」




 彼女の姿を見れば分かる。


 昨今の感染症予防もあり、病院としては退院する患者に用があるひとを入れるわけにはいけないらしい。


 別にエントランスで待つくらい許されるだろうが、月宮のことだ、きっと迷惑をかけるとでも思ったのだろう。




「ほんとに、ほんとにすまん。悪かった」


「霧崎さんに頼めばよかったのに」


「いやいや、こんなことで呼べないよ」




 霧崎さん、とは俺たちの住むマンションのオーナーで、俺の養父でもある。


 養父について? まあ、人に歴史ありって言うだろう。



 俺にも色々あるのだよ。まぁ、あった、というのが適切かもな。






「私まで風邪引いちゃったら、霧崎じゃ責任取れないでしょ。お互い一人暮らしなんだし」



「大丈夫だいじょーぶ。もし月宮が風邪引いても、俺が昼夜を問わず看病するから」



「大義名分を得た俺は弱ったレア月宮を間近で拝めるわけだ……って離れるなよ、傘ないんだって!」



 月宮はまるで産業廃棄物でも見るような目で、そそくさと離れていった。


 行動で示さんでおくれ。六月で蒸し暑いとはいっても雨なんだから、冷たかろう?




「ごめんごめん、反射的に」

「なら許す」

「どうもどうも」



「なあ月宮」

「どうしたの?」

「帰ったら、一緒にゲームしようぜ」

「いいね、採用」




 そうそう。これだよこれ。



 俺の日常が、かえってきた。




 ◆◆◆




 歩き出す彼女の傍らに入りこむ。


「なあ月宮」

「ん、どうかした? コンビニ寄ってく?」



 今言わないといい忘れる気がするので、感謝の意を述べようと思う。



「いやコンビニではない。ただの話だ。その……本当ありがとな。ありがとう」




 本当にありがたい。


 俺が入院してからの三ヶ月間、彼女は毎日面会に来てくれた。平日も休日も、そう毎日だ。



 時には友達からの誘いすら断り、学校の帰りに面会時間ギリギリまで居てくれた。


俺が痛みで(うな)されているときには、安心できるように手を握ってくれた。


一人だけ勉強が遅れないように、いつも俺に教えてくれた。おかげで先日の期末はなんとか過去最低の点数を免れた。



 今日だってそうだ。


 マンションまでは徒歩20分、しかも俺は一人暮らし。リハビリはやっていたものの、正直雨に打たれながら帰路につける自信がなかった。




 たかが入院しただけなのに、こんなに心配されたのは初めて……いや、三度目くらいか。




 まあ、おつかいを頼んで余計なモノを発見されたり、ノーパソの検索履歴を漁られたりと、ちょっとしたトラブルはあったりしたが。


 ……アレだよ。健全な男子諸君なら分かるよね。




 …………福音書だよ。「エ」のつく福音書がバレたんだよ!


 くそぅ、その場で譲り受けたからって聖域(公園)から持ち出したのが悪かったのか……失敗したぜ。



 検索履歴は消したものの、ファイルというファイルを漁られつくしたおかげで、俺のフェチは完全にバレている。





 そう、黒髪美巨乳メイド少女である。






 ……しかし月宮は俺の想定とは違う反応を示した。



「え、急にどうしたの?」


「自分を抱いて距離をとるな、俺を何だと思ってるんだ」


「遺書とか連帯保証人とかが浮かんだもので」



 そういって再び近づいた。

 自害と借金。俺は本当に何だと思われているんだ。



「なら仕方ないな。でも今のところ死ぬ予定はないし、ハンコを押してもらう必要もない」


「というかそれ以前に、これ以上迷惑はかけられない」



「迷惑っていうか、嬉しいっていうか…………」



 ん? 小娘の小言はジジイには耳が遠くて聞こえんかったわい。


 下をうつむきながらボソっと言われても、そういうのは聞き取れない主人公のせいになるんだぞ。


 悪いのはヒロインの声量なのだ。美少女に惚れられても気づかない鈍感な男がいてたまるか。



 テンプレだが仕方ない。



「今なんて? ……まあいいや。入院中ずっと支えてくれたお礼だよ。本当に、ありがとう」



 すると彼女は戸惑うような表情を浮かべた。



「でも私のはただの恩返しだし、それに感謝されちゃったらいたちごっこだよ?」




 ただの恩返しだったの? あたしたち、うわべだけの関係だったの? なんてこと……



 ……大丈夫だ、俺の脳には問題ない。

 そもそも人生の基本を固定パーティーはおろか臨時パーティーにも属せないソロでやってきたしな。




「恩は厚着だけして売らない主義なんだが。それに、もう月宮があのことで恩返しする必要はないよ」



 恩に着つづけた結果がコチラです。

 厚着するって、けっこうなクズ発言だったりする?


 まあいいや。恩義なんて、売ろうとしても気付かれることすらない売れ残りに違いない。ソースは俺。




 ……存在感薄くて悪かったな!



「大体、あれもう一年ちかく経つだろ。まだ覚えてたのか」


「いやいやいや、あんなこと忘れられないよ。いろいろ衝撃的すぎて」


「少なくとも、一番辛いときに俺の心を支えてくれたのは、両親でも兄弟でも他の友達でもない、全部月宮なんだ」




「改めて。本当にありがとう」


 理由は無いが、なんとなく笑いかける。







 ……いやいやいや、無言はまずいっしょ。



「ありがとうにはどう応えるのが模範回答だと思う?」

「……どう、いたし……まして…………」

「大正解」



 とっさに顔を背ける彼女から可愛いお返事が返ってきた。


「それ、顔背ける必要ある?」

「…………」

「そっぽ向いてても分かるくらい、可愛いお耳が真っ赤ですよ。お嬢さん」



 アニメだったら今ごろ「ぷしゅうう」というSEがついていることだろう。


 お礼を言っただけなのに、可愛いやつめ。




 折角だから煽ってやろう!



「あれ、ひょっとしてデレた? 今デレたよね絶対」

「むうぅ……とうっ!」



 今度はローファーの奇襲が返ってきた!

 ガンッ!! という音がした。なんつー威力だよ、まったく。


 しかし、彼女のローファーが捉えたのは……



「っ!? いったぁ……」



 つま先を押さえ、うずくまるように下から睨みつける月宮。

 おお、このアングルは最高だ。写真撮って今すぐバックアップしたいね。


「馬鹿め、そいつは偽物だ! あれ、ひょっとして痛かった? 今痛かったよねゼッタイ」



 煽りすぎた罰だろうか、今度は笑えない右ストレートが胴に返ってきた。



「てやっ!」


「うぐっ!?」



 ご、ごはぁ……!


 人生初ごはぁを月宮から貰うとは、思ってもみなかった。



 てかどこで覚えたんだこんな技。少年院でボクシングの素質でも見込まれたか?



「退院直後にこれは辛い……」



 とはいえ流石に自業自得すぎた。


 結構イイのが入った。

 きっと彼女なら、髭が印象的なあのおっさん相手でも燃え尽きることなく勝てるだろう。



「あっ!? ご、ごめん霧崎!」



 大丈夫? タクシー呼ぶ? と俺を気にかけ、心配そうに見上げてくる矢ぶ……じゃねえ、月宮だった。



 殴ったのは誰だよ、と言いたくなる気もするが、透けブラをベストポジションから合法的に、しかも上目づかいとセットで拝められるシチュエーションに免じて、今回だけは許してやろう。



 いやぁ、絶景かな絶景かな!




「冗談じょーだん。心配してくれてありがとな」


「よかったぁ。また何ヵ月も入院しちゃったらどうしようかと思ったよ……」



 胸を撫で下ろす月宮。


「グヘヘヘ、最高のチョロインだぜ」

「……もうっ」

「あー、拗ねないでくれよ、悪かったって」






 二人で帰路につきながら、俺は感慨に耽っていた。


 月宮と出会ったのは去年の七月だから、おおよそ1年。


 最初の頃など看守と囚人のように警戒されていたものの、それに比べて最近はデレを見る機会が多い。



 クーデレというわけではないがデレる頻度が高い上、クリティカルが入ったときは可愛いすぎて反応に困る。入院中は毎日来てくれたから良かったものの、月宮欠乏症に頭を抱える日は近い。


 たまに毒舌なのがキツいけど。



 毒舌クーデレ。ふか田さめたろうばんざい。


 ……まあアレは単行本しか買ってないけどね。



 あれ、さっきより顔、赤くなってる。なんでだろう。


 まあいいか。



 しかも月宮はこれでなかなか優秀なのだ。


 成績優秀、容姿端麗。誰が見ても模範的な優等生。



 要するに才色兼備の語源である。

 くそう、あからさまな完璧美少女め。




 するとその完璧美少女は、下を向きながら小さく呟いた。今度はしっかり聞こえたぞ!



「め、面と向かって言われたら、さすがに私でも恥ずかしいよ……」


 ん?

 ……ふぁっ!?


「へ、声に出てた? どこから!?」

「…………ばか。」

「ぐ、ぐはぁ……!」



 これがパソコンの前にいるときの俺ならいまの「…………ばか。」は最高の甘味なのだが、いざロールプレイとなると大ダメージだ。



 誰か俺を殺してくれ! 穴があったら入りたい。てか死にたい!


 まあ恥ずかしくて死にたいときほど死ぬことはおろか、逃げ場所もなく追い討ちをかけられるのがこの世の理というものなのだが。



 人生は時としてそんな理が通用しないものだ。


 それは、本当に一瞬の出来事だった。



 横断歩道を渡る際、彼女は謎の段差に足をかけて転倒しそうになった。


 迫るトラックにフラグ的なナニカを感じた俺は、反射的に彼女の手を掴み、なんとか道に飛び出ることの阻止に成功した。



 いや、成功してしまった。



 トラックの運転手は外からでも分かるくらい挙動がおかしかった。

 突然道の真ん中で右往左往しはじめ、俺たちのいる場所にくるあたりで──



 ──運転手は、ハンドルを思い切り左にきった。



 とっさに彼女の前にでる。


 トラックの前方範囲攻撃から彼女が逃れられるよう、その華奢な体を強く突き飛ばした。



 しかし、運転手はハンドルを戻すことなくアクセルを踏み続けた。トラックは会心の一撃を俺の背中に命中させ、勢いそのまま彼女のもとへ突っ込んだ。


 結果的に彼女を守ることは出来なかった。




 2()0()2()0()()6()()2()8()()、午後3時47分。


 閑静な住宅街の一角で、二人の高校生がトラックに轢かれる事件が発生。


 運転手は軽傷、二人の高校生はともに即死。




 日本から、若い二つの命が失われた。





 ◆◆◆



 ん?

 んん??



 ・・・・・・。


「んんん!?」


 死んだだと!? 死ぬまでの展開あっさりすぎん!?



 体はあるのだろうか、とりあえず目を開けてみる。


 目を開けたら異世界でした! みたいなのは……なさそうだ。


 女癖の悪い親父も俺の信仰する水の女神様も、リンガを売る気前の良いおっちゃんもいない。


……って、最後のは転移だったか。



 よく分からないが、なんとも言えない心地よさのある部屋だ。

 さっきまでの雨の寒さは全く感じないし、なんならけっこう暖かい。



 一面まっしろな部屋に、アパートのドアらしきものがぽつん。


 そして二つの椅子と大きなソファ。

 向かい合うように設置されたそれら、木材製で学校の椅子っぽいが、こっちのソファーは日本のそれより大きいので、ソファーベッドというのが適している。



 ひょっとして、俺はこれから異世界に飛ばしてもらう予定で、本来ならポテチ片手に女神様が俺を待っていたはずなのだろうか。


 だとすると多分このソファーはその女神的なアレが座るためのものだろう。



 学校の椅子は嫌だし、俺もこのソファに座っておこう。



 自分の座る場所だと言わんばかりに堂々と腰掛けて女神の到着を待つ。



「きゃあっ!!」


 ソファーと背中が合体した瞬間、俺の股間部分から両腿にかけてそれなりの衝撃が走る!



「うぉっ、なんだ!?……って、なんだ月宮か」



 女神と言われても普通に納得できそうな月宮が突然俺の上に落ちてきた。

 落ちてきた、といっても一メートル頭上からすとん、とだが。


 具体的な数字を明記するとアレなので、429N(ニュートン)くらいを感じたとだけ言っておこう。健康的だね。



「近い近い近い近い近い」


 体はほぼ密着状態。これ高校のやつらに見られたら集団リンチでもされそうだ。


 鼻が高いぜ! ……入試以来、高校行ってないけど。



「私、死んじゃった……響冴くん……! こわかったよぉ…………」

「うほっ!?」


 未だに自分の死について混乱しているのか、あるいはトラックが怖かったのか、ともかく目に涙を浮かべ息を荒くして俺に抱きついてくる。


 ──おまえは何をそう気持ち悪そうな顔をしているのだ。立派な脊髄反射じゃないか。

 誤解しないでくれたまえ、奇声を上げたわけじゃないんだ。


 美少女に正面から抱きつかれたらどんな男でもゴリラになってしまうだろう?


 なに、私とて例外ではないということさ。



 それにしても、常識的にまずくないか?

 彼女は死んだのに濡れたワイシャツ姿でここにいる。


 そう、透けブラ(色は薄いピンク)で涙目な美少女が股の上で息をハァハァして抱きついているのだ。


 傍から見れば、いやどこからどう見ても営んでいる真っ最中だ。



「ああそうだな、とりあえず降りようか。うん降りよう、さあ降りよう!」



 この体勢は本当にまずい。


 月宮と会えるのもこれが最期かもしれないという建前のもと、俺のビーストⅣが顕現しそうだ。



 落ち着けフォウくん。


 目の前にラプチャーもかくやというヘブンズホールがあるといえど、お前のソレは人類悪じゃなくて獣のビーストだろうに。



「う、うん」


 凄まじい圧の催促に、しぶしぶうなずいてくれた。



 早急に降りてくれ。本音を言えばしばらくこのままでいてくれ!



 すると股間に感じる心地よい物体が初期微動を開始した。ちょっとまって! 月宮のお尻がダイレクトに……!



 俺のクララが、クララが慢性痛から快復してしまう!



「……む、無理、かも」



 無理? 無理ってどういう──


「……腰、抜けちゃった…………」



 魅惑の言葉とともに、再び股間に生々しい柔らかさとちょうどいい重さがのしかかる。

 こんな誘惑には、理性だけでは耐えれない!



 ……クララが、立った。



 わーいわーいなんて喜べる状況じゃねえ!



 とはいえ本気モードではなく臨戦態勢。

 何も起こらなければ時間経過で撤退命令が出されるはずだったが、月宮はゲリラ作戦でこの親子を翻弄した。


 彼女が再び体を離そうとしたとき力が入らずにバランスを崩してしまい、結局俺の胸に飛び込んできたのだ!



「おっとっと」


「うわあああ! い、今すぐ体勢を立て直せ月宮! はやく!!」


「え、どうしたの? 急に」


「声を荒げずにいられるかっ! じゃないと俺の株価が大暴落しちゃうから!」




 鼻腔に広がる甘い香り、豊かで艶かしい膨らみの感触! 少し屈めばキスしちまいそうだ。


 そして、事件は起こった!



「えぇ……そんなに怒らなくても、ん?」



 彼女は体勢を戻そうとするとき、お尻にあるナゾの違和感を覚えた!



「なに、これ……ぷにぷにしてて……あったかい?」


「へ……?」




 ……そうか、俺の人生は終わったのだ。


 死んだあと、それもこんな状況になって痛いくらいに実感した。



 しかししかし、しかーしッ! それだけではなかったのだ!


 月宮は、いいや、奴はっ!

 事もあろうに、その熱をもった棒状のブツに手を近づけ、ズボン越しにその細い指でなぞったのだ!



「うわあああ!?」


「え、なに!? っていうかこれ何?」



 その正体を突き止めるため、今度は肉の棒をズボン越しとはいえしっかりと握り、そのままニギニギとし続けた。

 着ている素材が比較的薄いこともあり、絵面の衝撃と相まって効果は抜群だった。



「はううっ!? お、おい貴様! イットがザットと知っての狼藉か!?」


「き、急にヘンな声出さないでよっ! ええと、それがあれ?」



 それがあれ……それがアレ……と、俺の言葉を数回繰り返したあと──



「ってことは、これ……もしかして……」



 対する俺は、背中に冷たい水滴が流れる感覚を覚えた。


 数分前に浴びた雨のしずくではない、これは────そう、冷や汗だ。




「これはちがっ……いや、何でもない」



 もうだめだ。認めよう。


 俺の息子はスタンディングオベーション、全身の毛すら逆方向に総立ちで、握られた彼女の手へと拍手を送らんとしている。


 それまでがそれまでだったため、完全に戦闘体勢に入ってしまったのだ。



「わ、わたし……響冴くんの、響冴くんの、さわっ……ちゃっ……!!」



 彼女はやっとその違和感の正体を看破したと見える。綺麗なグラデーションのように赤く染まっていったからだ。


 思考が止まっているらしく、しばらくそのまま俺の息子に触れていた。



 ん、どうした息子よ。なぜ毛が逆立っているか、だって?


 それはね……お父さんの目の前に、ドのつく変態を見る目をした女子高生がいるからだよ。



 案の定、月宮は問いただしてきた。

 しかも触ったままの状態で。




「……ねえ、なんでこんなに硬くなってるの? 知らなかっただけで、あなた変態さん?」


「あなたってなぁに!? というかそれ、自分が何やってるか分かってて言ってんの? 知っちゃいたけどおたく鈍感系?」



 大丈夫。俺は悪くない。

 顔にクエスチョンマークが浮かんでいる。月宮は自分の体がSSSの激レアボディであることをよく分かっていないらしい。




「これは生理現象だ!」


「へえ? 言いたいことは聞いてあげる」



 やっと人質(我が子)が解放された。

 てか月宮の人格変わってね?



 まあ、ここからは俺のターン。

 なんとしても、なんとしてでもだ。


 誤解を……解く!!




「言っておくけど、これは健全な男子高校生のごくごく一般的な現象だ」


「ほほう」


「自分の好きな人が、それも美少女が男の股の上で、理由はともあれ涙目で息をハァハァしているんだぞ?」


「……へ?」


「ワイシャツ濡れててブラ見えてるし、抱きつかれてて至るところに艶かしい感触あるし」



 少しずつ、でも確かに顔が赤くなっていった。


「挙げ句それを、ズボン越しとはいえ握られたんだぞ!? 理性で耐えられるわけがない!」



 むしろそんな堅物モンスターがいたら連れてこい。月宮の魅力を滔々(とうとう)と語ってやろう。



 あれ、今しれっと告白しなかったか?


 ……いやいやいや。死んだんだし、ノーカンノーカン。



 ついに月宮の顔が完全に赤くなる。



「と、いうわけで。俺は無罪を主張します!」


「……ぁ……うぅ……あうぅ……(ぷしゅうう)」




 本日二度目のぷしゅうう。自分のよろしくない行いをきちんと分かってくれたらしい。



 さて、このあと月宮はどうする?



「こ、ここ、これは違うの! 気づいたらあなたの上にいて……それで……」



 あわてて弁明するのか。

 やっべえ超かわいー。これはエロ同人ルートも捨てがたいぞ。



「分かってるから大丈夫。とりあえず手を離して座ろっか」

「う、うん。ごめんなさい」



 今度はちゃんと腰に力が入ったようだ。


 たとえ生まれ変わってとしても、あの感触を決して忘れない!



「それって、その。私にその……えっちな気分になっちゃった、ってこと?」



 月宮は俺に顔が見えないように背けながら聞いてきた。



「その、なんと詫びればいいか……」

「いいよ。確かにちょっとびっくりしちゃったけど……」



 なんと、貴女はやはり女神であらせられたか!



「……私に興奮してくれたのは……嬉しかった、から…………」





 そこには終わったばかりの人生で一番元気な我が子がいた。





 ◆◆◆






 なおも懲りずに俺のすぐ側に座り直す月宮。

 俺の息子は相変わらず存在感を主張し続けんとしていたので、着ていたレインコートを膝掛けのように被せておいた。



「なんか、近すぎないか?」



 やっぱり気になるしなんだか落ち着かない。



「いいじゃん。どうせ死んじゃったんだし」



 そう言ってさらに距離を縮めてきた。これ降りた意味なくね?

 まあ死んじゃったしな。


「そうだな……そう、だよな…………」



 運転手の野郎、気が向いたら呪い殺してやる!


 なにも彼女まで巻き込まなくていいだろう。やり残したことも多かったはずだ。



「まだ生娘なのに……」



 真っ白な部屋の隅を見ながら呟く月宮。




「後悔ポイントそこ?」


「へぁっ!? いまの、口に出てた?」


「うん、結構しっかりと」


「うう……あぅぅ……」




 やはり彼女も年頃の乙女なのだ。きっと自分好みのイケメンと熱い夜を過ごしたかったに違いない。



「分からなくもないえどな。未だに童貞だし、彼女すらいたことないし。……ちくしょう…………」

「あはは……でもさ」



「霧崎はさ、後悔とかないの?」



 月宮の言葉は淡々としているが、そこには様々な感情が渋滞しているように聞こえた。





 後悔、後悔ねぇ。



「後悔って言ったら、そうだな」



「……正直なところ思いつかん」



 決して満足していたわけではない。きっと、俺は自分の人生をさえ達観していた。



 家族はいない。いたにはいたが、クズだし虐待系ペアレントだし、


 友人は……今や二人しかいない。あいつの分まで俺が生きるって決めたんだが……死んでからじゃもう遅いしな。



 要するに、これといった未練はない。まあ童貞くらいは捨てたかったが。



 俺は今の養親に頼んであのマンションで生活させてもらっているが、いずれにしろまっとうな人生を送ることなど出来なかったはずだ。


 正直、自分の手で一生を終える必要がなくなって嬉しくもある。




「ああ、でも一つだけ」



 もし俺の人生に後悔があるとすれば、それは──



「月宮ともっと一緒にいたかった」




 うん。それだけだ。


 月宮が俺と話してくれるようになっただけで、俺の人生は潤い始めた。



 月宮とは俺が一番辛かったときに出会ったのだ。彼女はそれを知らないが。


 彼女は俺に、綺麗な人の在り方を教えてくれた恩人だ。




 どのような形であっても、一生をかけて恩返しをしたかったのだ。




 月宮に一瞥すると彼女も残念そうに頷いた。


「それは、私も同感だよ」




 嬉しいことを言ってくれる。本心だと分かってるからなお嬉しい。



 数秒間の沈黙が俺たちを包む。今この瞬間、二人を邪魔する存在はなにもない。


 強いて言えば、いつ来るとも知れない、しかし確かに迫ってきている別れの時間。


 本当にそれだけが恨めしくて仕方がなかった。





 彼女はどこかに向けていた視線を俺に移した。



 すると今度はレインコート越しに主張する息子を一瞥し、何かと思えば再び視線を俺に戻し、何かを考えていたように見えた。



 なんだろう、やましいことは考えた覚えはないぞ?



 いろいろと考えがまとまったのか、彼女が口を開く。




「ここって……私たち以外いないんだよね」


「ん? まあそうだろうな。ラノベやゲームなら神様っぽいのがいるはずだけど、この調子だとしばらく来ることもない気がする」



 でもなぜ急にそんなことを?



「このソファー、結構大きいよね」


「そうだな。外国のものっぽいからソファーベッドに近いんじゃないかな」



 ん?

 この文脈、このシチュエーション、彼女の視線&たまに吹っ切れる性格などから察するに……



 …………………………!?



 …………いやいやいや、まさかまさか。



 頬を紅潮させている。

 なんか、もう、視線が訴えてきてる。




 ……ないないない!! そんなわけない……よね?




「ねえ、()()()()。」


「な、ななな何でしょう……?」





 確信した。






 俺は知っている。



 彼女は非常に動揺しているとき、あるいは()()()()()()()()、必ず下の名前で呼ぶのだ。




 嘘だろ、オイ。





 嘘だといってよ、バニヤン!!





 ……なんか混ざった。


 ポケットではなく、チャックの中で戦争が起きている。


 月宮の顔がこちらに近づいてきて──



「ちゅっ」という音が頬の辺りから聞こえてきた。



 もしアニメだったら、きっと今ごろ俺の顔から例のSE音が軽快なbgmとともに鳴っていることだろう。




 彼女はそのまま俺の耳元に顔を近づけ、甘い声でこう囁いた。




「響冴くんのはじめてをください。私のはじめて、もらってください。」









 気がついたときには、すでに月宮の薄く綺麗な唇を塞いでおり、そのまま人生最後で最高の思い出作りに励んだ。



 ときどきドアが開いたような音がしたものの、月宮の甘い嬌声しか俺の頭には入っていなかった。





 ◆◆◆





 身につけていた腕時計によると俺の卒業から約四十五分が経過したらしい。



 最初こそやられっぱなしだったものの、反撃に出ると急にしおらしくなった鏡華を見たらセーフティがオート解除されてしまった。



 彼女がすがるように音をあげるまで相手のキル数稼ぎをしてしまった。




 ちなみに行為までして苗字呼びというのも変だと思ったので、これからは鏡華で定着させようと思う。……まあ彼女は甘えるとき以外に名前で呼ばないスタイルを貫くらしいけど。



 神聖な行為を終えて衣服を整え、隣に座りなおす彼女。


 少し休ませてあげたので落ち着きを払っているが、これがさっきまで上と下のお口をトロトロにしていた美少女と同一人物とは思えない。



 あれがホントのヘブンズホール。


 こんな幸せな伏線回収が許されるのだろうか。






「私たち、これからどうなるんだろうね」


「さあ。そのうち女神っぽいひとがイロイロ説明してくれるってのが、転生モノのお約束なんだけど」


「そのとーり! まったくもう、死んだあとだっていうのに何をイチャイチャと……おかげで何回も様子をうかがっちゃったじゃないか!」


「いやいやいや、イチャイチャなんてしてないよ。イチャイチャだなんてそんな…………ん?」



 ……誰?


 気づくとすっかり忘れていたアパートのドアみたいなものが開いていた。


 声の主はまるで小学生のような、幼いものだった。



 そしてその前には……



「ロリ?」

「ちがうよ! 女神だよめがみ! 女神様だよ!」



 銀髪で変な格好のロリっ子がいた。




「なあ鏡華。この近くに交番ってあったりする?」


「死んだのに交番まで行けるのかな」


「ちょっと? わたし迷子じゃないよ? なに勝手に話すすめてるの?」


「でもこんな小さな子供を放っておくわけにはいかないよね」


「そうだな。お嬢ちゃん、あのドアから戻れる? お母さんはどこ?」


「だーかーらー、わたし迷子じゃないんだってば!」




 それから、かくかくしかじかあってやっと状況が飲み込めた。





「女神ってあの女神?」


「どの女神かはわかんないけど、転生モノのお約束をするタイプの女神だよ」



 屈託のない笑顔で返してくる女神様は、俺には十かそこらの少女に見えた。


「気をとりなおしまして……こほん。はじめまして! わたしは女神、女神トリビア! あなた方を案内する女神です!」



 払拭できないごっこ遊び感。



「あなた方にはまた地球に生まれるか、あるいは異世界に転生するか、その二つの選択肢があります!」



 トリビアとかいうロリ女神はいろいろ説明してくれた。


 その間、鏡華は五時間目の国語のようにただ頷くだけの機械と化していた。




「と、まぁ、そういうわけだから、地球か他の星、どっちがいーい?」


 全部ラノベで読んだものと同じような内容だった。


 初耳な情報といっても、せいぜいこのままの体ではいけないことくらいだろうか。



 このすばほどうまくはいかないのだ。

 あ、よりみち2のやつ読んでなかった。



「ちょっとまった。月宮、わからないことがあったら聞いてくれ」



 月宮も状況がよく分かっていないのか、ずっとぼけーっとした表情で話を聞き流しているように見えた。


「ううん、大丈夫。それじゃあ、いずれにしろこのままの体では異世界に行けないんですね?」



 驚いた。


 三秒に一度相づちを打つ、テンポ20のメトロノームみたいだったのに。


 あれで内容をきちんと理解していたらしい。完璧美少女は伊達ではない。



「そーゆーこと! どうする? もし異世界を望むなら、二人を幼なじみには出来なくもないよ?」




 にゃにっ!? 異世界で再びイチャイチャできるかもしれない、のか!?


 何も考えずに即答した。




「それで頼む!」「それでお願いします!」


「「あ。」」



「ひゅーひゅー! お熱いねぇふたりとも!」



 ハモった。

 しかも同意だ。やったぜ!



「ああそれと、あなた方の()()()では無理だけど、()()()()()()()()()()にすることはできるよ!」


 ん? えーっと、つまり……



「成長すれば同じような体つきになれるってことか?」


 俺の質問にうなずいてくれた。



「そうか。鏡華はどうする?」


「私はお願いしようかな」



 結構な即答だった。

 個人的にはそれがいい。鏡華にはこの姿でもっとドエロい格好をしてもらうのだ!


 メイドとかバニーとか猫耳とか。




 けど、俺はどうするかなあ。


 現代医学だから助かったものの、中世レベルの医学だと俺、生まれた直後に死ぬ気がする。




「俺はいいや。ランダムでお願いします」



「いいの?」


「ああ。でもどうせならイケメンになりたい!」


「そ、そう」



 鏡華は苦笑いしている。

 仕方ないだろう。だって自他共に認める、いや認めざるを得ないブサイク面だからな。



「まあ、よかったね」



 俺の内心を察してくれているのか、彼女は俺にはにかんだ。


「ああ、めちゃくちゃ嬉しい。トリビアさん、本当にありがとう」



 とはいえ一つの疑問が残る。



「どうしてそこまでサービスしてくれるんだ?」

「どうしてって、あなたがいつもお参りしてくれてたからだよ。入院するまえは毎日、さんぽのときに寄ってくれてたじゃん」



 さんぽのとき?



 寄ったかなぁ……いや、寄ったわ。


 俺はただでさえ不健康なので、用がなくても毎朝コンビニまでさんぽをしていた。


 たまたまコンビニの近くにある、知恵の神様が祀られてるって話の神社。


 ──そうか、トリビアとは日本語で雑学の意、あれはトリビアを祀る神社だったのか。



「お参りっていっても会釈程度だったのに」

「あなたしかいなかったんだよ? お参りきてくれるひと。だからサービス! となりのすぐイっちゃう女の子にもサービスだよ!」



 すぐイっちゃう女の子って(笑)。


「へ……みて、たの?」



 本人も気がついていなかった様子。


「わたしけっこー人間は見てきたつもりだったけど、演技なしであんな何度もイカされちゃうひとはじめて見たよ!」


「かわいかったなー!」

「ほんとそれなー!」

「霧崎は同調しない!」


 屈託のない笑顔でトンデモない発言をするロリ女神。


 うん。


「割とマジで可愛かった」



「ぅぅ……あうぅ…………」




 顔を真っ赤にしてうつむく彼女。確かにあそこまで敏感だとは思わなかった。


 正直めちゃくちゃエロかったぜ☆



「……(ガンッ!)」

「いてっ! ど、どうした鏡華?」



 急に蹴られた。今度は左足。さすがにローファーは痛いぜ、まったく。



「ばかにされた気がして、ついつい」

「テレパシーってやつですかね? まあいいけど」


「あーもう、イチャイチャしない! ほら、早く椅子にすわって!」



 トリビアの催促と同時に学校椅子が光りだした。


「りょーかいりょーかい」

「これでいいの?」



 言われるままに椅子に座った。



「そうそう。そしたら、向こうでどんなスキル使いたい?」



 え、当然のように言われても。




「スキル制なのか?」

「うん。ひとりにつき一個だけ、オリジナルかは分からないけどランダムでなにかもらえるんだ! 最後のサービスでスキルの内容は自由に考えていいよ!」


 なにその特典! チーレム不可避か!?


「……まじ?」



 無言のニコニコが返ってきた。


 イェェェェェェェイ!!!

 



「思い浮かべるだけでいいの?」

「そうだよ、敏感お姉ちゃん!」



 思わず吹き出しそうになった。


 敏感お姉ちゃん……くく、あはははは!!



「霧崎? 二度と笑えない顔にするよ? ……トリビアさん、その呼び方はやめよっか」



 おっと、我慢していたつもりが出てしまったようだ。



「うん、その呼び方はやめてやれ。……俺のために。くはははは!!」



 堪えきれん! 

 顔がさらに酷くなることも覚悟したうえで声を出して思い切り笑った。



「霧崎? 殺すよ?」

「オーバーキル!」



 俺たちもう死んでるんだが!?



「じょーだんじょーだん! あ、そうそう。たまにわたしも異世界(そっち)にいくこともあるから、また会ったらよろしくね!」


「え、そうなの?」


「うん、仕事じゃなくてプライベートだから、いちおう違うかっこうしてるけど。なんとなく分かるんじゃないかな」




 ……神様って仕事だったんや。


 知ってはいけないことを知った気分だ。



「ほらほら、目を閉じてスキルを想像して!」



 俺はとりあえず……便利なスキルがいいな。パワーアップはいやだ。動きたくないし。



 そんなに動かなくて済むような、そういう操れるみたいなスキルをください!



 アバウトだけどまあいいか。そのまま目を閉じる。


 鏡華のほうも準備はいいらしい。異世界転生するような性格ではないが、RPGとか色々なゲームはやる方だったし、ある程度の知識はあったのだろう。



 穏やかな性格の彼女がどんなスキルを考えるのか、ちょっと楽しみだ。



「じゃあふたりとも、頑張ってね~!!」



 トリビアには向こうにつくまで言葉を発してはいけないと言われている。



 なので俺は心からあの小さな女神に感謝した。



 今日までクズにしかなれなかった俺だが、生まれ変わったらなにかになれそうな気がする。



 英雄みたいな存在になって、美少女を何人も侍らせるんじゃあああ!!




 一瞬、体がふわっと浮く感じがした。ジェットコースターのアレによく似ているが、これで転生できたのだろうか。



 トリビアが言うには、神は誰かに信仰してもらわないと消えてしまうらしい。


だから 朝の散歩は人知れずトリビアの命綱となっていたという。俺の入院中は鏡華が病院に来る際に会釈していたとも言っていたが。




 みんな、神社だか教会だか知らないが、なんかいかにも宗教です! って感じの建物に挨拶したら異世界にチート持っていけるらしいぞ。



 今すぐ実践してみてくれ。死後、同じ異世界で会ったら話をしようじゃないか。





 ◆◆◆





 って、そんなことは今はいい。


 誰かの言葉が聞こえるまでは目を開けないでくれと言われたのでしばらく待っていると、早速人の声が聞こえた。



「─────! ───────!」

「───! ───────、───!」



 流石になに言ってるか分からん。多分「見てあなた! 元気な男の子よ!」みたいな会話をしているのだろう。


 流石に泣かないと心配されそうだったので、高校生にもなって年甲斐もなく騒ぎ続けた。



 赤子の視界は狭すぎてよく見えないが、どうやらパピーもマミーも金髪のようだ。家の内装はヨーロッパ風。

 でもいろいろなところに既視感を覚えた。どこか日本っぽいな、偶然か? 新築の武家屋敷みたいだぞ。




 だめだ、なんだか眠くなってきた。赤ん坊って不便だな。

 俺は抗いがたい眠気に勝てず、そのまま目を閉じた。



 まあそれもいい。




 ついに、ついに異世界に転生したんだ!



 前世で出来なかったこと、させてもらえなかったこと、それらが自由にできるのだ。しかも鏡華も一緒ときた。



 決めた。

 俺はこの人生をまっとうに歩んでみせる。


 そして鏡華の隣を、堂々と歩ける人間になってやる。




 生まれ変わった俺に、出来ないことは、何もない!!

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