第2話 異世界転生2
「えー。では、この世界について説明します。と、いうかどこまで知ったか知らないので出来れば質問形式の方が助かります」
ヒナタは、こちらに向けて、棒読みで、説明しようとする。
「えーと。じゃあ魔法についてはまあ、そこそこ知ったので、魔法の使い方を教えて欲しい」
「魔法の使い方。ですか」
ヒナタは少し困った顔をして、こちらを見た。なんだろ? 難しいのかな。あんまり詳しくないけど。
「難しいのか? 魔法を使うのって」
「い、いえ。難しくはないんですが……」
「じゃあどうしたんだ?」
「だ、大丈夫です。ちゃんと教えられます」
そう言うと、ヒナタはテーブルに置いてあった飲み物を少し飲むと説明を始めた。
「魔法は人に教われば使うことができます。もちろん魔法にも習得難易度があって、簡単な魔法なら見ただけでも覚えられますし、多少難しくても一時間練習すれば使えるようになります」
「ほう。思ったより簡単だな。 ちょっと見せてくれよ」
「え!? 見せるのですか……。それはちょっと……」
「ダメなのか? ダメならそれでいいんだが」
「すみません……」
「いやいや、謝ることないって。それにあと聞きたいことはそれくらいだったし、どこか行かない? 魔法を覚えたいんだ」
「別にいいですけど」
「よし! 決まり! ちょっと適当に歩いてみますか」
こうして俺たちはその茶屋を後にして集落の中を見て回ることにした。
その集落はざっと1k㎡ くらいだった。建物もそこまで多くなく、ほとんどが農地だった。さらに所々に建っている建物もほとんどが平屋で、藁のような屋根を使っていた。
「人も少ないなぁ。大体こんなもんなのか?」
俺は隣で歩いているヒナタに話しかける。
「まあ、大体こんなものでしょう。この集落に住んでいる人は300人くらいですからね」
「ふーん。そんなものなのか。」
「ちなみにカイトさんはどんな魔法が使いたいんですか?」
「まあ、簡単な攻撃魔法とかは覚えたいな。使えるかどうかは別として。炎魔法とか、雷魔法とかは使いたいな」
「なるほど。いいですね。使いやすそうです」
使いやすい? 魔法はデメリットがあるからそんなに使いやすいことはないと思うんだけど。
「ん? あそこに人が立ってないか?」
「立ってますね。よく見えましたね、あんな遠いところ」
「まあな! 視力は2.0あるからな!」
「そこまで高くないですね。なぜそれを言ったのですか? 普通よりは、うん。高いかなってくらいですよね」
ヒナタからは微妙な感想が返ってきたが、気にせずその人が立っているところに行く。
その人は何やらよくわからない細くて少し長いものを手に持っていた。
「なんだあれ?」
「うーん。煙草だと思います。あまり吸っている姿を見ないので詳しくは分かりませんが」
煙草? 煙草か。まてよ。それならばあの人が炎魔法を使っているのを見えるんじゃないのか? そうすれば、俺も炎魔法が使えるんじゃないか?
案の定、煙草を吸っている人は、今吸っているものが、短くなったため、捨てて新たにもう1本取り出した。そして、煙草を口にくわえると、ポケットに手を突っ込んで、
マッチのようなものを取り出して、それを使って火をつけた。
「え?」
「どうしたんですか?」
ヒナタが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「いや、あの人、魔法じゃなくてマッチで火をつけたから何でかなーと思って」
「そりゃあ魔法ではつけないでしょう。わざわざ自分の体温を奪ってまで煙草のためだけに炎魔法は使わないでしょう。」
……魔法ってそんなものなんですかねぇ。もっとこう便利なものだと思っていたのですが、まさか魔法<マッチだったとは。正直言って本当にこの世界に来た意味を感じられなくなってきたなぁ。人間の国同士で争っている時点で、魔王になんて目を向けられないし……。何? もしかしてこれはまず魔王に会うためには人間の国を治めなければならないってことなの? ……ダルい。もっと魔法を使って異世界ライフを楽しめると思ったのになぁ。異世界で楽しみなことベスト3のうち、2つが既に消失しているのかぁ。魔物と戦うことなんてないし、ましてや魔法を使う場面なんてない。こんな世界に来た意味っていったい……
「魔法使いたいなぁ」
「魔法使いたければそういう国に行けばいいんじゃないですか?」
「え? どういうこと」
「だってここはアルムナ国ですよ。 ある程度文明が発達しているので、魔法なんて使いにくいものではなく、科学系の方が優遇されてますよ。まあ、科学と言っても火薬とか、その辺りの文明なんですけど」
国によって発展具合が違うのか。じゃあこの世界の楽しみを最も潰す国に来たことになるのか?
「えー。本当にどうしよう……。何かすることある?」
「特にないですね。所持金もほとんど0ですし」
「モンスター狩ったりはできないのか?」
「こんなところまでモンスターなんか来ませんよ。居るのは牛か、羊くらいです」
うわぁ。詰んだ。初手の初手から詰んだ。なにもすることがない、いやなにもできることが無いとか。
「本当にどうやって生きよう……」
その時、あの煙草を吸っていた男の人が話しかけていた。
「おい、にぃちゃん。こんな昼間からこんなところでうろちょろして何やってるんだ? 働いていないといけない時間だろ?」
「い、いえ。実はまだ仕事が無くてですね……」
もちろん正直に答える。もしかしたらこの全詰みの状態から解決するかもしれない。
「ん? なんだ。それならうちに来るか? うちはいつでも人員募集だぜ」
そう言ってその男の人は笑いだした。
「仕事を紹介してくれるんですか!? よろしくお願いします!」
「あ、あの出来れば私も」
正直、この世界で仕事なんてしたくなかったが、背に腹は変えられない。
「そっちの胸の小さい女の子も連れていくのか? まあ、女子は女子で需要があるからいいけどな」
お、おい……その言い方だと何か怪しいところにしか思えないんだけど……。
「まあ、何、とにかく来てみろよ。馬車で2日くらいだ。そこまで連れていってやるよ」
「まあ、いいか……。どうせこのままここにいても仕方ないんだ。ついていくか。なあ、ヒナタ?」
ヒナタは無言で胸を押さえて立っていた。あれ? 思ったよりショックが大きかったのかな。なるほど、まあそこら辺はデリケートな問題だしな。……面白いネタができたな。
こうして俺たちは、その怪しさ満点の男についていくことにしたのだ。その先の世界がどんな地獄を描いていたかも知らずに。
ーーーーーーーー
馬車に揺られて丸二日間。その間の食事なんかは、全部あの煙草を吸っていた男の人に助けてもらった。本当にここまで親切にしてくれるのはどうしてなんだろう。
馬車は、アルムナの大草原とか言われる場所を少し抜けた先で止まった。降りてみると、岩肌が見えるような、昨日までいたところとは真逆の荒れた土地についていた。
「到着したんですか?」
「いや、まだだ、ここからあの山を越える」
その男性が指を指した方を向くと、高さ3000mを越えるであろう山が姿を表した。
「……高すぎませんか?」
「大丈夫だ。1500mほど上ったところに抜け穴がある。そこを通れば大幅にカットできるぞ」
そう言って、その男は山に向かって歩きだした。
俺は中高と運動部に入っていたのもあって、山の中腹まで登るのはそんなに困難ではなかった。
「はあ……はあ……。待ってください……」
しかし、どうやら運動部と委員会の仕事を兼部していたヒナタは、このちょっとした坂道でも、かなりしんどいらしい。
「ここらで少し休むか」
そう言って、その男は少し盛り上がった岩に腰かけた。そして、背負っていたリュックの中から、コップを3つ取り出した。
「水飲むだろ? ほれ」
そう言ってその男は俺とヒナタにコップを渡してきた。
コップだけ? そういえばこの人水は持ってなかったような……。
すると、その人は俺たちの持っているコップに人差し指を向けた。
そして、口を開いて、
「ウォーター」
とだけ言うと人差し指から水が出て来はじめた。
そのまま、ヒナタのコップにも水を注ぐ。
「ほら。飲めるぞ。飲んでみろ」
そういわれ、俺たちはそれを口に運ぶ。そして、コップを少し傾けて、水を口に含む。
「……普通に水だ」
「当たり前だ。俺は水魔法だけ得意だから、これくらいのことは出来るんだぞ」
「水魔法……。魔法ってことはデメリットがあるんですよね」
横から息を整えたヒナタが質問する。
「ああ。一応あるな。この水は自分の中の水分を出してるようなもんだな」
……。このおっさんの水分か? このいかつい感じのおっさんの……?
なんだか気分が悪くなってきた。
「でしたらあまり意味なくないですか? 水筒持ち運んだ方が便利なのでは?」
更にヒナタは質問する。
「俺は水魔法が得意って言ったろ? 魔力も一部が魔法になることは知ってるよな? その魔力が水を補う分だけ、全体の水量は増えるんだよ。まあ、俺の魔力を使いきっても増えるのは10リットルくらいなんだがな。まあ、この山を越えるくらいならそれだけあれば充分だろ。そういうことだ」
なるほど。魔法はデメリットばっかりだけど、使い方次第では、ある程度便利なものになるんだな。考えて使えってことか。
「さて、そろそろ出発するぞ。」
そう言ってその男は立ち上がった。よく考えたら僕たちは手ぶらなのに、彼だけリュックを持っている。それだけ負担が大きいと言うことだか、訓練でもされているのだろうか、全く疲れを感じさせない。
休憩を終えた後の、その山の道のりは予想以上に険しかった。岩肌が直接出ているのもあって、でこぼこしていて、普通に登るだけでも、体力を奪われた。それでも、その男の人の足取りは緩まない。
なんとか途中まで登ると確かに抜け穴があった。ここから奥に進んでいけばいいと言うことか。
少し、ヒナタを待ってその抜け道を通っていった。
すると何やら拓けたところに出た。
「よし。着いたぞ」
そう男の人は言った。
その場所はすこし古い感じの建物があって、その前には大きな広場が広がっていた。まるで木造建築の一昔前の学校みたいな感じだった。
「はぁ……はぁ……ここは……?」
やっと追い付いたヒナタが息をとぎらせながら質問する。
「ん? ここは下級兵士訓練所だ。主に新入の兵士や、下の方の位の兵士を育てている」
「つまり俺たちもここで兵士になって、国のために働け、と言うことですか?」
「うん? まあ、別に兵士になってもいいぞ。ただ入ったら2、3年は抜けられないがな」
2、3年……。この異世界に来て数年はここで修行しなければならないのか?
「お前たちにやってもらいたいのはこの訓練所のアシストだ。本当はベテランがやってくれてるんだけど、そいつが産休に入ってな。3ヶ月くらい戻ってこれないんだ。その間に代わりに働けないかってことだ」
産休がちゃんとあるのか……。思ったより異世界してないな……。ただ、魔法が使えるのは本当に楽しそうだ。……デメリットあるけど。
「今は春休暇で、人がいない。しばらくすると他のスタッフもやって来ると思うから、それまでは適当にくつろいでから」
「他にもスタッフがいるんですか?」
「まあな。10人くらい居るぞ。1週間後が入隊式だから、それまで忙しいんだ。だから人手が必要なんだ」
なるほど。人員を募集していたのはそのためか。
「所長ー! 探しましたよ! どこに行ってたんですか!?」
建物の窓から顔を出して一人の人が声を出す。
「ああ! すまん! 本当はもう少し早く帰るつもりだったんだが、寄り道しててな!」
寄り道って言うと、僕たちをつれてきたと言うことだろうか。それがなければもっと早く着いていたのか……?
って言うかそれ以上に驚くのは……
「所長だったんですね」
「ああ。この訓練所の所長をやってる。気軽に所長とか、ショチョーとか、ショッチョサンとか呼んでくれればいい」
「わかりました。ショッチョサン」
「よ、よりによってそれを選ぶか……。まあいいが」
そのままショッチョサン(笑)は訓練所の建物の方に行ってしまった。残った俺たちは、建物のなかに入るのもなんだか忍びない気がして、広い平地の木陰で休むことにした。
「うーん。最初は怪しいと思ったが、案外まともそうな場所だな」
「そうですね。……胸に関する話はいただけませんが」
「まあまあ。多分悪気があっていった訳じゃないだろ」
「それはわかっているのですが……」
空気が悪くなりそうなので話題を変えてみる。
「そ、それよりちょっと見てくれよ」
そう言って俺は指先をヒナタに向ける。
「? どうしたんですか?」
「ウォーター!」
そういうと俺の人差し指からも水が飛び出してきた。
その水は勢いよく、ヒナタの顔にかかった。
「……バカなんですか?」
「い、いや、別に狙った訳じゃ……」
「早い話それあなたの体液ですよね。それもうダメじゃないですかね」
「だ、大丈夫だろ。俺たちもショッチョサンの水飲んだんだし……」
「あれは私たちが知らなかったからノーカウントです。カイトさんは知っていてやってるじゃないですか!」
「す、すまん……」
すると遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえる。ショッチョサンが呼んでいるのだろう。
「あっ。よ、呼ばれたみたいだからいこうぜ」
僕はそう言って建物に向かって走り出した。
「あっ! ちょっと逃げないでくださいよ!」
そういいながらヒナタが追いかけてくる。
結局この話は、夜寝るまで続いた。