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第1話 異世界転生1

「アイス!……うわぁぁぁ。焼けるぅぅぅぅ!」


「ファイア!……さ、寒い! 凍え死ぬ……」


「サンダー!……体が…動かない……」


「ウィング!……痛ってぇぇぇぇぇ!」


どうしてこうなった。俺は目の前に広がる地獄を眺めてそんなことを思った。


ーーーーーーーー


ある日、天城海人(あまきかいと)はその命を終えた。飲み会の喧嘩の仲裁に入ろうとして、突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んだのだ。


「んで、ここはどこだ……」


今立っている場所が分からない。死んだことは覚えている。死ぬとその意識はなくなって、天城海人という存在も無くなるはずだ。そうでなくて、もし仮に天国や地獄があったとしよう。しかし、その俺が立っている空間はそんな有機質的な場所ではなかった。

四方八方は白色の壁に包まれ、唯一、その空間にあるのは、会社に置いてあるようなデスクだけであった。


「何だこれは」


俺はその机に近づく。近づいたところで何も起きない。それでも、机の引き出しを引いたりしてみる。そこにあったのは何かの書類が入っているであろうだけ封筒だった。ただ、その封筒はしっかりと封がされており、簡単に開けそうなものではなかった。というか、簡単に開けてはいけなさそうなものだった。

仕方ないので、その封筒を持って机を離れる。そしてそのまま下に座り込むとその封筒をじっと見つめた。


「何だかなぁ……。まさかあんなあっけない終わりを迎えるとはなぁ……」


「いいえ。あなたは運がいいほうですよ♪」


俺がため息をついていると、後ろから何か声が聞こえた。驚きながら後ろを振り替えると、そこには小さい、丁度小学生と中学生の間くらいの少女がたっていた。


「どうもです♪」


その少女はそう一言言うと、あの机の方に向かって歩いていった。そして、椅子に座ると、俺を手招きした。不思議に思ったが、特に何もすることができないため、ゆっくりとその少女に近づく。


「はいはーい。早く来てくださいよ♪」


その声を聞いて、俺は何かに引っ張られる気がした。そして気づくと、その少女の目の前まで来ていた。……何だこいつは。全く見たことの無い少女。死んだとすると、自分の記憶の中にある人しか出ないはずだが……。


「ここは死者の魂を扱う場所です♪ 正確には管理人室みたいなとこかな♪ あなたにはこれから私の言う通りにしてもらいます♪」


そう言いいながら、その少女は机の引き出しを引く。


「……あれ?」


少女の顔がひきつる。


「……あれれ?」


少女はすべての引き出しを開け始めた。引き出す音ががらがらと聞こえる。焦っていることは明らかだ。


「あ、あれを無くしたら先輩に怒られちゃうよ……っていうかこの子をどうすることもできない!?」


どーしよどーしよと言いながら机の引き出しをガチャガチャと漁っている。

あれ? もしかして彼女の探し物って……


「 もしかしてこれか?」


俺は少女に机の中に入っていた封筒を見せる。その瞬間、少女の動きが止まった。まるで何か恐ろしいものを発見したかのように。


「み、見たんですか! 中を見ちゃったんですか!?」


「いや、中までは見てないけど……。そんなに大変なものなのか?」


「見てないのならそれでいいです。早く返してください」


今までの柔らかい口調とは違う、何か心に刺さるような言葉が飛んでくる。言葉自体は変わっていないが何かその奥の、雰囲気というところが異なっていた。俺はそれを目の前にして、拒否するという考えが浮かぶはずもなく、(拒否したところで俺に利益も無いし)直ぐにその封筒を少女に返した。

少女はそれを手に取ると、よかったと小さく呟いた。そして、その封筒をあろうことか目の前で強引に開いたのだ。

流石に驚きを隠せない。その封筒が大事なもので保存しているものだと思っていた。しかし、それは俺の目の前で、俺の考えと共に破り開かれたのだった。

そうして、その少女は呆然としている俺の方を見ると、口を開き、この今の状況を説明し始めた。


「えーと。まずは自己紹介から♪ この世界を司っている天使の『デルタ』って言います♪ まだ、この世界に配属されてから殆ど日数が経ってないから、まだまだひよっこだけどよろしくです♪」


「お、おう。よろしく……」


「普通はね、この宇宙で死ぬと天国に行くか、転生するかは犯した罪の量で決まるんです。大抵は転生するんですけどね。 天国に行けるってなると、本当に僧みたいな生活を送らなければいけないですしね♪」


ここで俺に疑問が生じる。『天国に行くか転生するか』? ちょっと待って、それってつまり


「地獄は無いってことか?」


「ん? ご名答♪ 正確にはこの世界、つまり君たちがいた世界からは無い、だけどね」


「どういうことだ?」


「この世界は文明の成長が全体的に遅くて他の世界に干渉できないんですよね♪ 地獄に落ちるのは他の世界に干渉し、そこで大きな罪を犯した場合のみ♪ だから君たちが地獄に落ちることは絶対にないのです♪」


そういったところでデルタは何かに気づき、話がそれましたね。戻します。といってこの空間の説明を始めた。


「それでですね、この世界の住民は他の世界に干渉できない。それってとてもつまらないことじゃないですか♪ だから私が、この世界の担当になって宇宙基本暦1000万年がたった記念として、適当に他の世界に招待してあげようと思いまして♪ あ、地球の時間に換算して4522万1120年と214日です♪」


……1000万。何だそれ……。スマホのアプリのダウンロード数か何かか? その数字に驚きを隠せない。 しかし宇宙の歴史から考えると、1000万年、約5000万年というのはそれほどでもないのだろう。


「それで、その宇宙の中で1日に一回1000万番目に死んだものを、ここに招待しているんですよ。あ、一応知的生命体に限ってますけどね♪」


「ちょっとまて、つまり俺は他の世界で人生をやり直すってことか?」


「その通りですよ♪ あ、もちろん記憶はそのままですよ。肉体も♪ そうでないと意味がないですからね。ちなみに私はまだ未熟なので、用意できた世界は少ないですが、取り敢えず選択肢としては3つあります」


そう言うと、デルタは封筒の中の手紙を一字一句間違えないようにしっかりと読み始めた。


「用意したのは地球とほぼ同時期に誕生した星ですね♪ 多分、地球時刻に換算しても10年くらいしか違わないんじゃないでしょうか」


そして彼女はその3つの世界について説明し始めた。


「1つ目はかなり地球に近い環境ですね。法則とかもほとんど地球と同じですね。ちょっと地球より文明が発達しているのかな♪ まあ、地球と殆ど変わらない生活を送れるんじゃないでしょうか」


「2つ目は肉体強化系の世界ですね。まあ、この世界は光よりも早く走るとか、重力に逆らって気合いで空を飛ぶとかいう、法則もくそも無い世界ですね♪ まあその世界にはその世界なりの法則はあるのかもしれませんが」


「そして3つ目が魔法系の世界ですね。やはり魔法なので、法則とかは地球と異なるみたいですが、基本的な部分は同じなのでまあ、魔法が使えるってところが違うくらいでしょうね♪」


「と、まあこんな感じです。ちなみに後戻りはできないのでよく考えて決めてくださいね♪」


俺は説明を聞いて考える。肉体強化の世界は無い。さて、地球と変わらない生活を送るか、それとも魔法が使える世界にはいるか。悩ましいところだ。正直言って魔法が使える世界というのは想像ができない。地球に近い環境の世界ならばどのような生活をするのか大体予想できる。普通に大学にかよって、そこそこの企業に就職して、孫たちに囲まれて素晴らしい老後を過ごすのだろう。しかし、そんな当たり前の生活が楽しいのか? いつも読んできた本は何だ。 ライトノベルだろう。ずっと異世界に憧れていたから、ずっと魔法が使いたかったから、ミステリーの小説じゃなくて、ライトノベルを選んできたのだろう。ならば答えは一択しかない。カイトは大声で叫んだ。


「魔法の世界でお願いします!」


すると封筒の中の紙を見ていたデルタは笑顔でこちらを向いた。喜びの笑顔というよりは、何か黒い部分も見えた気がした。


「やっぱり、そういうと思いましたよ♪ 地球人は魔法を使いたい人が多いって聞いてましたからね♪」


おいおい。それどこソースだよ。と、俺は思ったが、正直そこまで気にならないし、適当に異世界転生した人が言ったのだろうと解釈し、そのまま話を聞く。


「まあ、とりあえず行ってみますか♪ 異世界」


「え? ちょっと早くね?」


「善は急げってやつですよ♪」


「待って! 善じゃないし、全く向こうの世界の話聞いてないし! 今行っても困るだけなんだけど!」


「あーい。うるさいでーす♪ 飛ばしまーす」


デルタが耳を塞ぎながら言う。


「ええっ!? ちょっと待っ!」


次の瞬間、俺は光に包まれ、消えていった。


ーーーーーーー


そこはただただ広い草原だった。少し風が心地よい。すると隣から声が聞こえる。


「広いですね。ここはアルムナ領の大草原のようですね♪」


その天使は親切にも今どこにいるのか教えてくれた。まあ、アルムナ?とか言われてもわからないけど。しかしそれ以上に疑問に感じることがある。


「何でいるんだ? ついてくるのか?」


「いやいや、そんなにわたしも暇じゃないですよ。今は自動で死者を振り分けていますが、あまりほっとくと狂い始めるので戻りますよ♪」


自動で振り分けれるのかよ。


「じゃあ本当に何でいるんだ?」


デルタは微笑んで腕を広げた。


「あなたはこんなに広い世界でなにも情報なしに生活できると思っているんですか? 世界のことを教えてあげようと思っているだけですよ♪」


じゃあさっきの空間で教えてくれればよかったんじゃ……。あれほど言ったのに……。軽く少し前、本当に数秒前を振り返ってみる。そしてすぐにデルタの方を向くと、腕を閉じて歩き始めていた。


「どこに行くんですか?」


「そりゃここで話しても仕方ないじゃないですからね♪ 近くに小さな町があったと思います。そこに向かいましょう♪」


そういって、デルタは普通の少女のように歩いていく。

パッと見、天使には見えないな、と思いながらついていく。しかしよくよく見てみると、わずかに足が浮いている。ドラ○もんかよ……


本当に広い草原の中にぽつんと、集落のような町というよりは村といった方が正しそうな建物の集まりがあった。


「では、まず何から話していきましょうか」


デルタはそのまちのカフェ、正しくは少し古っぽい茶屋のような店で話し始める。


「話す内容と言うほどの情報があるのですか?」


「うーん……。色々ありますけど、まずはこの世界のことを話していきましょうか♪」


「魔法が使えるってことは知ってますよ」


そう言うと、デルタは申し訳なさそうな顔をした。


「……実は魔法は……」


なにか話しづらそうにしている。しかし、しばらく目を閉じると、再び目を開け口を開く。そして開き直ったかのように、早口で言った。


「この世界で魔法を使ったらそれ相応の副作用のようなものがあるんですよねぇ♪」


「え!?」


「さらに魔法があるってことはRPGのように魔王を倒すと思っているかもしれませんけど……。魔王が圧倒的な力を持っている上、この世界の土地の多くを奪ってしまったため、国同士の争いによる被害の方が大きいんですよね……」


「ちょっ! え!?」


「さらにさらにその状態で既に人間は滅びかけているので、わざわざ魔王が攻めていく必要もないんですよね……。だから今や魔王はただの空気です(笑)」


これほとんど地球と変わんないじゃん。それよりもひどいじゃん。


「ま、まあ一応魔法は使えますし♪(デメリットありますけど……)」


「それ使えないのと同じじゃないですか……。何か特別な力があればいいけど……」


その時デルタの顔が明るくなった。


「ふっふっふっ♪ そう言うと思いましてですね、あなたには特典、いわゆるチート能力ってやつをあげようじゃないですか!」


「おお! そうだ! そう言うのを待っていたんだ!」


デルタは何やら魔法のようなもので、目の前に本を出すと、それにかいてあるであろう言葉を読み始めた。


「えーと……。既に結構な人数を送り出してますしね……。使えそうなもので残っているのは『影響遅延』くらいですね♪」


「えいきょうちえん?」


「ちょっと待ってください。えーと、普通ならデメリットは魔法の発動と同時、または発動直後にやって来るんですけど……。この能力があればそのデメリットの効果を1日~1週間ずらすことができますね」


おお! ん? あれ?


「……つまりデメリットを受けるのは受けると」


「はい! 付け加えると、遅延されたデメリットがいつ来るかはわかりません♪」


「……帰っていいかなぁ。出来れば記憶なくなってもいいんで地球に転生させてください……」


「流石にもう無理ですよ♪」


「ええ……」


どうやらとんでもない世界に連れてこられたらしい。帰りたい。


すると、急にデルタが跳ね上がるかのように顔をあげた。そして、はい、はい、わかりましたと言うと何やらそわそわしている。


「どうしたんですか?」


「別に何でもないですよ……」


声に張りがなくなっている気がする。なんだか心ここにあらずって感じだ。


「あれ? 天使さん。 その人誰ですか?」


突然一人の少女がデルタに話しかける。その時デルタの顔が明るく輝いた。


「おお! いいところに来てくれました! すみません!ちょっと先輩が私の仕事の具合を見に来ることになったらしく……。 私はそろそろ自分の世界に戻らないといけないので、この世界の説明をお願いします♪」


「「え!?」」


二人で声をあげた。しかしその声がデルタに届くか届かないかの間に、デルタは消えてしまった。

取り残された二人。特に話すこともなく、じっとしている。


「あ、どうぞ」


僕はとりあえずデルタが座っていたところにその少女を座らせる。

少女はポツリとありがとうと言って座った。


……気まずい。どうしよう。なにか話題は……


「あ! そうだ! 名前は? 名前は何て言うの?」


少女はボソッととても小さな声で答えた。


月影日向(つきかげひなた)です」


おっ。普通に話せるタイプの人か。なら大丈夫だな。


「俺は天城海斗。適当にカイトってでも読んでくれ」


「よろしくお願いします。カイトさん」


その返事をするときは既に顔を上げていた。


「あの……。それで、残りの話は君に聞けばいいの?」


俺はおずおずと尋ねる。


「あ、はい。そうですね。私がどうして説明することになっているのかは分かりませんが、あの人の代わりということで納得しておきます」


ふむふむ。僕は彼女をじっと見つめる。ごく普通の女の子だなぁ……。身長はうーん。平均くらいか。顔は整ってるなぁ。男が10人中7人振り返るくらいか? そんな感想しか出てこない。


「まずは自己紹介をします。 名前はさっき言ったようにヒナタです。歳は14です。ここの世界歴は1週間です。よろしくお願いします」


この自己紹介を聞いてひとつ疑問に思うことがある。この世界の言語が何でわかるの? それにこの子の言葉も。


「ん。 じゃあ俺も。 歳は18歳だ。今日この世界に来たばっかりでよくわからん。出来れば色々教えてほしい。ちなみに出身は地球だ。よろしく」


「え? 地球……ですか……」


「ああ。ごめん。聞いたとこない星だよな。すまん。忘れてくれ」


「い、いえ。実は私も地球出身なんですが……」


は? どういうことだよ。一日に1人しかいけないこの異世界に、同じ星から2人選ばれる。こんな偶然ってあり得るのか?


「凄いですね。こんな偶然があるなんて」


「偶然……か?」


何か仕組まれている気がしてならない。そもそも何であの天使はこんなことをしているんだ? 面白いから……。そんな理由でやる必要があることなのだろうか?


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