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作者: りきゅー

ある不器用な青年を知っている。

これまで見てきた人間で彼はもっとも不器用だ。

彼は頑固で、でも人の気持ちをよく考える青年だった。


こんな彼を知っている。

彼は彼の友人たちと学校から帰る途中だった。

たわいも無い話で盛り上がる、いつもの彼らだった。


ある友人が別の友人に、その場には居ないまた別の友人の家の場所を尋ねた。

聞かれた友人は場所を忘れてしまい、答えに困っていた。

しかし例の彼は知っていたようで、すぐにその答えを教えてあげた。


しばらくして家の場所が話題になっていた友人が追いついてきた。

さっき家の場所を聞いた友人が、改めて本人に聞いた。

するとその答えは例の彼が言ったものと少し違っていた。

彼は友人たちに嘘をつくなと言われた。


しかし彼には嘘をついたつもりはなかった。間違えだった。

彼は嘘が本当に嫌いだったから、そこにはとてもこだわっていた。

嘘をついてしまったと戯けたらじゃないかと、彼を眺めながら思ったが、彼はそうしなかった。

頑なに自分の意見を曲げようとしない彼はとても苦しそうだった。


こんな彼も知っている。

彼はある友人に遊びに誘われた。

彼はその友人のことが好きだったし、暇であったら遊びたかった。

しかし、彼はほとんど同じ時に別の友人からも遊びに誘われていた。


彼はどちらを取るか決めることができなかった。

何故なら彼は人を傷つけたくなかったし、友人たちが誘ってくれたことがとても嬉しかったからだ。

友人たちの悲しむ顔も彼を惑わせた。


どちらかに謝り、どちらかを選ぶことがそんなに難しいことだろうかと彼を眺めながら思ったが、

この時もやはり彼は苦しそうだった。



彼は少し大きくなった。

彼の頑固さは縮み、彼の優しさは膨らんでいた。

彼はいつも笑顔だったし、決して怒らない、決して無理を言わない青年になっていた。


彼に尋ねたことがある。

君はこだわりを捨てたのかい?

彼は答えた。捨ててはいないよ。変わっただけさ。

人に優しくありたいと思ったんだ。エゴを捨てたんだよ。


そのあとしばらく彼を眺める機会を失ったが、ある時ふと彼を見かけたことがあった。



彼は変わっていた。


彼は笑っていたが、笑っていなかった。

彼は怒らなかった。

彼は哀しんでいたが、哀しんでいなかった。

彼は楽しくなさそうだった。


彼には敵こそいなかったが、味方もいなかった。

彼はもう苦しくはなさそうだったが、楽しくもなさそうだった。


全てに期待を失ったようなその眼に、掛ける言葉を失った。


でも彼は心の内側では変わっていなかった。

最初に彼と出会った時から何も。


彼は何かのために生きていた。

彼はそれが正しい生き方だと信じていたし、人間はそのようにしか

生きることしかできないと思っていた。

人のため。社会のため。自分の信じるもののため。


また彼は善くあろうとしていた。

強く、賢く、たくましく。

あろうとしていた。


しかし彼は気付き始めている。

彼がそのために生きていた何かを彼は見たことがないことを。


彼は気付き始めている。

彼がそのために生きていた何かを彼は経験したことがないことを。


そして彼は気付き始めている。

彼がそのために生きていた何かは言葉でしかなかったことを。

それも彼自身から出た言葉ではなかった。

全て他人の言葉だった。


彼は気付き始めている。

だから彼に知恵を貸したい。彼に福音を届けたい。



言葉に気をつけなさい。インクで隠れた力が働いている。

その力は価値観と言われる。

他人の言葉に惑わされるな。他人の言葉に受け身になるな。

自分だけの言葉を育てなさい。


善くあろうとするな。何かを目指すな。

自分の醜さを愛しなさい。

自分の醜さを褒め称え、自分の醜さと共にありなさい。

それ以外にあなたが満足できる人生はないだろうから。


人に優しいあなたへ、人生の意味を考えるあなたへ、贈る

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