表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チョコっと変わった世界  作者: 勒野宇流
チョコなき世界
9/54

(3) チョコってなぁに?

 

 大学に着いても授業を受ける気にならず、ぼくは噴水のベンチでボーッとしていた。

 

 ―― あぁチョコ食べたい……。

 

 ちょっとでも思考が停止すると、チョコが頭に入り込んでくる。チョコへの思いは時が経つごとに増していっている。

  

「まぁたサボってぇ」

 

 石見知子が指をさしながら近づいて来る。そのうしろには暮本と田名瀬。決まりきった顔ぶれだが、もう、いやになるほどの日常とは思わない。ぼくの住んでいるのは、異世界の『チョコなき世界』なのだ。

 

「なぁ、ルカ最近ヤバいだろ」

 

 目の前に本人がいるのだから、おまえ最近ヤバいだろ、と言えばいいものを、田名瀬は少し距離を取って言う。

 

「就職決まっとらんからね~」

 

 石見知子が断定する。チョコのことで頭がいっぱいだからだよ、と言い返してやろうかと一瞬本気で思う。でも、やらない。チョコってなぁに? そう聞かれるだけだからだ。

 

「ホント大丈夫か? けっこう煮詰まってんじゃないのか?」

 

 田名瀬が、今度はぼくの顔を覗き込むようにして言う。

 

「大丈夫だよ」

 

 そこで沈黙。ぼくは石見知子から言葉が出るなと予測する。とにかく喋っていないと生きられない女なのだ。

 

「ルカっち、学食行こ~よ」

 

 まだ1限が終わったばかりだ。お腹が空いていない。

 

「ご飯じゃなくて、お茶しよ~。ねぇねぇ、いいから、行こ~」

 

 首を振ったぼくを、無理に立たせようとする。

 

「今週さぁ、私のすっご~く好きなんが出てんよ~。おごっちゃうからさぁ」

 

「石見が好きなものって、ニューヨーク・チーズケーキか?」

 

 現実世界では、石見知子はそれが大好物だった。しかしぼくの言葉に石見知子は、きょとんとした顏になって引っ張る手を止めた。もしかして、ちがうのだろうか。もしちがってたら、これもまた現実世界との相違点だ。

 

「ちがった?」

 

「いや、そ~だよ。そ~だけどぉ……」

 

 なんだ、合ってんじゃないか。ぼくは拍子抜けした。

 

「いいよ、おごりなら。食べに行くか」

 

「えっ、あ、うん」

 

 めずらしく声がくぐもって消え入りそうだ。なんだ、石見知子の方がぼくよりよっぽど変じゃないかと思いながら。学食へと向かっていった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ