【白い時計塔の秘密】
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♂1︰♀1︰不問2
噂好きの女 ♀ セリフ数:25
無関心な男 ♂ セリフ数:19
時計塔の番人 不問 セリフ数:5
ナレーション 不問 セリフ数:10
[あらすじ]《9分半程度》
噂好きの女は雑誌を読む男に話題を振る。どうやら隣町にある古い時計塔の取り壊しが決まったらしい。取り壊される前に見に行きたいとはしゃぐ女に男は興味無さそうに相槌を打つ――。
【噂好きの女】
ねえねえ、隣町にある白い時計塔、取り壊すらしいわよ!
【無関心な男】
へぇ〜・・・
【噂好きの女】
ちょっと、聞いてるの!?
【無関心な男】
聞いてる、聞いてる。
・・・・・・・・・で、何の話だっけ。
【噂好きの女】
・・・っもう!
【ナレーション】
女は息を吐いて男が読む雑誌を取り上げた。あ、と声を漏らした男は女を見上げてから思ったより彼女が話を聞いて欲しそうにしていると気付いて頬杖をついた。
無愛想ながらもやっと話を聞く体勢になった男に女は満足げ鼻を鳴らした。
【噂好きの女】
取り壊される前に見に行きましょうよ、時計塔!
【無関心な男】
大方そんなこったろうと思ったけど・・・。見に行くって何で?
【噂好きの女】
実はその時計塔って結構、曰くつきらしいのよ。零時になると半音下がったチャイムが鳴るだとか、時計塔の中を小さな女の子が笑いながら駆けるとか。
時計塔の中って螺旋階段と踊り場があるだけで時々業者の人がメンテナンスしにくるだけらしいんだけど・・・どう、気にならない?
【無関心な男】
いや、全く。
【ナレーション】
まるで興味のない様子の男に女は眉を寄せて長い溜息を吐く。どうにかコイツをやる気にさせなければ・・・と思った所で男が口を開いた。
【無関心な男】
というより取り壊される予定なら入れないんじゃないの、その時計塔。
【噂好きの女】
あっ・・・。
【無関心な男】
話にならないね。
【ナレーション】
男は女が取り上げてテーブルに置いた雑誌をまた手に取る。致命的ミスを指摘され、ぐぬぬと唇を噛む彼女は現場に行ってから言おうと思っていた『とっておき』を話し出す。
【噂好きの女】
その時計塔には管理人も知らない“番人”が居るらしいわよっ
【無関心な男】
ふーん・・・。
【噂好きの女】
・・・聞け!
【ナレーション】
生返事をした男の雑誌を取り上げた女は彼がまたもや、あ、と声を上げるのも無視して神妙な顔をして話を続かせる。
【噂好きの女】
日の昇り始める時間帯にね、時計塔の裏扉の前に行くと不思議な格好をした性別不明の何かが現れる。その何かに“番人ならば 紋を示せ”って言うと何でも一つだけ願い事を叶えてくれるらしいのよ! ・・・どう? 今度は興味出たでしょ!
【無関心な男】
・・・その裏扉っての何処にあるの
【噂好きの女】
あっ・・・。
【ナレーション】
またもや噂の穴を指摘された女は声を漏らす。男はもう充分だろう、とでも言いたげに溜息を零すが、女はそんな男の腕を掴んだ。
【噂好きの女】
百聞は一見に如かず! さ! つべこべ言ってないで時計塔へ急ぐわよ〜!
☆
【無関心な男】
・・・・・・で?
【噂好きの女】
噂ではこの辺にこじんまりと扉があるって聞いたんだけどなぁ
【無関心な男】
どこ情報なんだよ、それ。
【ナレーション】
男は規制線の先に何の躊躇なく入っていった女に呆れた視線を送る。アンタも早く来い、と言われ、男は面倒臭そうに歩を進めた。
手に懐中電灯を持った女はずんずんと進んでいくのに対し、興味の無い男はその後をゆったりとついていく。
【噂好きの女】
時刻は・・・4時56分! 日の出までもう少しね。
【無関心な男】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
【噂好きの女】
ちょっとアンタも探しなさいよ。
【無関心な男】
・・・・・・・・・これじゃね?
【ナレーション】
男が指を差した先には小さな子供が屈んで入るのがやっとといった風な小さな小さな扉があった。
扉には異国の文字が書かれていてこれまた小さな鍵穴がコレにハマる形状の何かがないと開かない事を示していた。
【噂好きの女】
あ、それっぽい! ちょっと写メ撮ろう
【無関心な男】
これ、ギリシア語じゃね?
【噂好きの女】
え、何!? アンタ分かるの!?
【無関心な男】
ま、一応・・・。
・・・『太陽』『白い塔』『番人』『願望』だって。
お前の言ってた事もあながち間違いじゃないっぽいな。
【噂好きの女】
うわわわっ、テンション上がってきた! ねぇねぇ、これカメラとか回したほうがいいかな!?
【時計塔の番人】
煩いな
【噂好きの女】
きゃあっ!
【無関心な男】
・・・・・・っ
【ナレーション】
突如聞こえた第三者の声に女も男も驚く。振り向いた先にいたのは黒いローブを纏った性別不明の“何か”だった。
それは異様な雰囲気を醸し出している。
そしてふと、“何か”の影がゆらりと揺れた。
【時計塔の番人】
久々に客が来たと思ったら耳に響く声だなぁ。で、願い事は何?
【噂好きの女】
え、呪文は?
【時計塔の番人】
呪文? ああ、そんなのもあったね。
昔は私みたいなのもヒトと変わらずに生きる事が出来たんだよ。でもそんなホイホイと願いは叶えられない。だから呪文を決めた。呪文を唱えた者だけ、願いを叶えられる、とね。
時代が変わると段々と私みたいなのは怖がられた。そして視なくなった。そして忘れられた。
客が来たのは実に90年振りだね。
【無関心な男】
・・・・・・時計塔、無くなるらしいぞ
【時計塔の番人】
そうか。人間の勝手な都合だな。
ココが消えれば私も消える。・・・久々の客で、きっと君達が最期の客だ。私に君達の願いを言ってご覧よ。
【ナレーション】
最初の鬱陶しそうな声は消え、温かさの滲む声が女と男を包んだ。
女は男を見上げる。自分が願いを言っていいか、という顔をした。男は元々興味が無かったのもあってか、好きにしろと女を見返す。
その視線を受けて女は番人を見つめた。
番人の異様な雰囲気も少し和らいでいたろうか、それとも番人の悲しい話に同情したのか。
女は確認の為に口を開いた。
【噂好きの女】
何でも叶えてくれるの――?
【時計塔の番人】
ああ、私は何でも叶えられる
【噂好きの女】
なら、
☆
【噂好きの女】
時計塔、取り壊し反対されて無しになったんだって。
【無関心な男】
へぇ〜・・・
【噂好きの女】
・・・ホントに願い事、叶えてくれたのね
【無関心な男】
お〜・・・
【噂好きの女】
ねえ、話聞いてる?
【無関心な男】
聞いてる、聞いてる。
・・・で、何の話だっけ?
【噂好きの女】
・・・はぁ、全くもう・・・
【ナレーション】
女が番人に何を願ったのか。
それは女と男、そして番人との秘密事の中である。
STORY END.




