【小桃は寂しがり屋だから】
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♂1:♀2:不問1
小桃 ♀ セリフ数:11
〈天才少女。様々な発明品を作って人々を助けているが、本人は特に興味が無さそう。たまに会いにくる蘇芳の事は少し覚えている〉
蘇芳 ♂ セリフ数:25
〈小桃の兄だが、小桃はそんな事覚えていないので、彼はただの『蘇芳』。不器用だが、愛はある〉
女性 ♀ セリフ数:7
〈恐らく小桃と蘇芳の母親。娘に忘れられた現実を受け入れられず、脳が少しおかしくなった。会話が出来ない〉
ナレーション 不問 セリフ数:16
[あらすじ]《8分半程度》
カチャカチャ、トントン。部屋から聞こえる音は途絶えない。真っ黒な夜が来るまで、ずっと聞こえるソレは、少女の息が続いている証でもある―――。
【蘇芳】
小桃、飯。
【小桃】
すおー。ひさしぶり。ちょうど、おなかすいてたんだ。ありがとう。
【蘇芳】
『ひさしぶり』じゃない。朝にも飯を届けたろ。
【小桃】
あさ、…ああ。そうだっけ。それよりみて。
てにもたなくていい、じりつがたのカサ。
【蘇芳】
また妙なモン作ってるな。
商品化は出来そうか?
【小桃】
それはむり。かぜによわすぎて、はなしにならない。
【蘇芳】
そーかよ。それより、ほら。飯食わねぇと元気出ねーぞ。
【小桃】
ん、たべる。
【ナレーション】
物が乱雑に置かれた部屋の中。頬に火傷のある少女、小桃は蘇芳の手からパンとスープを受け取る。
小桃は昔から、機械イジリが好きであった。
誰かが持っていた自転車を、誰も乗っていなくても走る自転車に改造したり。
壊れた電子レンジを直すだけには留まらず、冷却機能まで追加する始末だ。
そんな才能を放って置けなかった、金にがめつい父親は、小桃に必要最低限の生活だけを強いて、機械や部品を与えて部屋に閉じ込めた。
それ以降、小桃は作った発明品を父親に奪われながら、生活している。
【蘇芳】
小桃。外に出たいと思わないのか。
【小桃】
ちょっとまえにも、それきいたきがする。
そとは、いらない。きょうみないから。
【蘇芳】
……お前そう言うよな。
【ナレーション】
パンを千切り、スープにどぷんと浸けて食べ始めた小桃に、蘇芳は寂しげな表情をする。
蘇芳は小桃の実の兄だ。機械イジリに超越した妹の事は、話の聞かない、だけれど可愛い奴、くらいにしか思っていなかった。
自分の自転車はもう、どこか分からない所で勝手に走っているだろうし、家の電子レンジの冷却機能は意外にも結構役に立っているけれど、蘇芳はそれだけで良かったと思うのだ。
こんな広いだけの部屋で、機械だけをイジる生活なんて送らせたくなかった、と。
【小桃】
おとこのひと、またさいそくにくるから。
【蘇芳】
……今度は、何が欲しいって?
【小桃】
うーん、ひとのいのちをのばすきかい。
【蘇芳】
…………。
【小桃】
すおー? どうかした?
【蘇芳】
……っ何でもない。
【ナレーション】
本当に、心底。
こんな生活に吐き気がしてしまうのだ。
✼✼✼✼✼
【蘇芳】
母さん、小桃に飯、やってきた。
【女性】
あら、元気だった?
【蘇芳】
……、皿、ここに置いとくから。
【女性】
何言ってるの、久し振りじゃない! だってこの間、元気なさそうにしてたから!
【蘇芳】
……。
【ナレーション】
小桃との食事を終えた蘇芳は部屋に鍵を掛けて出てくると、リビングにやって来た。
リビングの椅子には女性が座っていて、蘇芳の言葉に反応して言葉を返すが、何かがおかしい。
【蘇芳】
……、母さん
【女性】
まあいいわ、座ってちょうだい。この間、スーパーで美味しそうな和菓子を見つけたのよ!
【蘇芳】
…、かあ、さんっ…!
【女性】
え? なぁに、気を遣わなくたっていいわよ! 私が好きでしてるんだから!
【ナレーション】
女性―――母親は、口調こそ明るいものの、椅子から動かず、ただ一点を見つめて喋り続ける。
彼女は蘇芳と同じく、小桃の機械イジリを放任していた一人だ。
ただ、数年前。
父親に軟禁された直後の小桃に会いに行った彼女は、たった数日で母親を忘れてしまった小桃も、その事実も受け入れる事が出来ず、そのまま狂ってしまったのだ。
今では小桃の事も、蘇芳の事も分からず、ただ一人。寝て起きて、生米を貪る日々を送っている。
【蘇芳】
………。
✼✼✼✼✼
【ナレーション】
蘇芳は考える。毎日、毎日。
何が、いけなかったのか。
どうすれば、良かったのか。
父親に反抗すれば、怒りの矛先は自分ではなく、小桃に向かう。
小桃の頬の火傷は、つい先日、蘇芳が『もう辞めよう』と話をしたせいだった。
【蘇芳】
あと、何回…続ければいい…。
【ナレーション】
母親はもう救えないし、小桃を連れて逃げても、きっとすぐに捕まってしまう。
父親から与えられる金だけが、蘇芳達が生き続けられる理由だ。
小桃の発明品で稼いだ、合法か違法か分からない金のお陰で、蘇芳は小桃にパンとスープを食べさせてあげられている。
・・・・・・。
蘇芳は、毎日、毎日、毎朝、毎晩、考えて、考えて、考えて。
繰り返して、繰り返して、繰り返したある朝の事だった。
✼✼✼✼✼
【小桃】
そと、いきたい。
【蘇芳】
―――――――――え…?
【小桃】
すおー、そと、つれてって。
【ナレーション】
いつもと同じ口調。いつもと同じ表情。
一瞬、何を言われたのか分からずに、蘇芳は小桃の顔を見つめた。
【蘇芳】
な、…んで……?
【小桃】
? そと、きょうみあるから。
【ナレーション】
この数年。何度も同じ問いをした。
外に出たいと思わないのか。
小桃は要らない、という。興味が無い、と。
だから、だからこそ。
この言葉が、蘇芳の心を突き動かしたのだ。
【蘇芳】
わ、…かった! ちょっと待ってろ、すぐ戻る!
【ナレーション】
蘇芳は部屋を飛び出して自分の部屋のクローゼットを開けた。ボロボロの袋に入った大金である。
父親から渡される生活費のうち、使わない分はずっと隠していたのだ。
いつか、何かの弾みで、自由になる為の動機が見つかった時、覚悟を決められるように。
蘇芳は、袋を抱えて部屋を出る。
相変わらず狂った母親の隣をすり抜けて、キッチンへ入ると、…蘇芳はソレを手に取った。
✼✼✼✼✼
【蘇芳】
はあ…、はあ…、はあ……、
【ナレーション】
蘇芳は肩で息をする。
広がる鉄の匂いに、鼻が捥げそうだ。
倒れている父親は呻き声一つ上げない。
蘇芳は、カランとキッチンから持ってきたソレを床に落とした。
覚悟を持って、自由を手に入れた蘇芳は大金の入った袋を拾い上げて、部屋から走り去った。
✼✼✼✼✼
【蘇芳】
小桃! 行こう! 外に! 小桃! こもっ………
【ナレーション】
父親の体液で汚れた服をそのままに、蘇芳は小桃の部屋に入る。
やっと、妹の願いを叶えられる。
やっと、この地獄から抜け出せる。
そんな蘇芳の目に飛び込んできたのは、
父親と同じ色をした、妹だった―――。
【蘇芳】
こ、も、…も……?
【ナレーション】
胸は上下していない。死んでいる。
蘇芳の手から、大金の入った袋が落ちた。
【女性】
あら、元気だった?
【蘇芳】
―――っ!!!
【ナレーション】
母親だ。
母親の手には、布切りバサミが握られていて、彼女は小桃を見つめたまま、いつもと同じ口調で喋り続ける。
【女性】
何が久し振りよ! この間、会ったじゃない!
【蘇芳】
……、か、さん
【女性】
私? 元気だったわよぅ。元気過ぎてこの間なんかね、ああ待って。こんな所で立ち話もなんだから、座って座って!
【蘇芳】
―――…
【ナレーション】
蘇芳は全ての感情が抜け落ちたような表情をして、小桃が使っていた部品を手に取って、…振り下ろした。
【蘇芳】
(穏やかな声で)
小桃。お前、すげぇな。
俺には、こんな鉄の塊を、よく分かんねぇ妙なモンには出来ねぇわ。
✼
【ナレーション】
後に。
その家から見つかった白骨死体は四人。
一人は部屋で、一人はリビングの椅子に。椅子までの道には、引き摺られた跡があった事から、誰かに運ばれたと思われる。
そして、地下の広い部屋の真ん中で、手を繋いだ二人の死体の傍には、血痕で汚れたメモが一つ。
それは、兄らしく出来なかった彼なりの、精一杯の『兄貴面』、なのかもしれない。
STORY END.




