第四話【王国内部と世界の変化】
魔導王国レイフォードは世界でも有数の大国であり、その歴史は約2000年と、長く続く王国である。
その長い歴史を持つ王国だが、『神子』の誕生により王国上層部では議論が長く続いていた。
レイフォード城:超上席官専用会議室【天の間】
「『神子』の誕生は王国のみならず世界規模で影響を及ぼす話だ。やはり『神子』を王国で育てるべきでは?」
「それは私の息子と知ってのお言葉か?ジゲット大臣」
大臣の言葉に対して、アルフォースの父アルフレドが殺気を込めて反論した。
「い、いや、しかし、この問題は我が王国に大きな影響を与える話だと思って……。」
「誰が育てるか、どうかは必要ねぇだろ。それはこの前に決まった事だぜ、ジゲットさん」
「う、うむ……。」
アルフレドと同じ大将であるジルコニア・D・クロード大将にも咎められたジゲットは言葉に詰まり黙り込んだ。
「まあ、そう怒るでないアルフレド、ジルコニア。ジゲットの言葉は国や世界を思っての事だ。」
「それは重々承知しております。ルーク元帥。」
大将2人の師にして元帥のルーク・J・ジヘッド元帥が2人に宥める様に言った。
「まあ、しかし、まだまだ5歳の幼子に国の将来を託すのは早いのは確かじゃな。親が居なくてはいけない大事な歳の幼子に対して親を引き離すのは愚策じゃ。」
「はい……、申し訳ありません。」
「しかし、これからが大変ですね。アルフォース君はとても聡明で頭の良い子です。アルフォース君自身は問題は無いでしょうが、周りがどう対応するかで様々な事が事象が発生するやもしれません。」
魔法研究省のエレイン・クリケット大臣が言う様に多方面の問題は解決されていないのだ。
「確かに、それを防ぐために大人である我々がしっかりする必要がある。しかし……。」
「大人も万能とは程遠い。「神属性」はどっちにしても希少性の高い属性だ。現に我々上層部でも「神属性」を持っているのは、国王陛下とルーク元帥のみ。それを妬む奴なんぞいない筈がない。」
エレインの言葉に同調するようにアルフレドと、3人いる大将の最後の1人にして唯一の女性大将、ベルベット・F・サリオン大将が言った。
「ましてや、「神属性」2つ持ちだ、希少処の話じゃない。」
ジルコニアが発言した後に、会議室のドアが開いた。
「失礼するぞ、どうだ、まとまったかね?」
「国王陛下!」
入って来たのはこの国の現国王、デトロワ・ゴルト・レイフォードだった。
「智将と謳われたルークでも難しいかな?」
「ほっほっほっ、陛下ご冗談を、陛下程耄碌はしておりませぬよ!」
「誰が耄碌じゃ!この糞ジジイ!」
「お互い様じゃ!この成り上がり王め!」
国王と元帥は旧知の仲………なのだが、仲が良いのか悪いのか、口喧嘩が絶えない2人であった。
「それでどうするのかね?」
「「神属性」の2つ持ちというだけでも、かなり目を引きます、その為、アルフォースには「光」か「闇」のどちらかを隠させます。」
「解決方法が無い以上は妥当かのぉ……。だが、いずれバレるぞ?」
「その時はその時で対応致します。」
「ま、致し方無いのぉ、……アルフレドよ、一度会わせてもらえるかのぉ?」
「承知致しました。何時に致しましょうか?」
「早めが良いかの、だが、あまり強制はせぬ。もし、主の子供が嫌がればそれでも良い。」
「そこは問題無いかと思います。明日にでもアルフォースと共に城へお伺い致します。」
「うむ、では儂は戻るぞよ。」
答えに満足したのか、レイフォード国王は部屋を出ていった。
「………全く、お主という奴は。」
「これが最善です、元帥。しかし、独断での行動でした、申し訳ありません。」
「よいよい、子を想う親らしい行動じゃ、誰が責められよう、皆もそれで良いかの?」
ルーク元帥の言葉に全員頷いた。
「ありがとうございます。」
会議はそれで終り、各自それぞれの仕事へと戻っていった。
アルフレドとジルコニアの2人は歩きながら話をしていた。
「思い切ったな、アルフ。」
「ジルもそうするだろう?」
「まあな、そういえば俺の息子にシリウスっていうんだが、アルフォース君と友達になったそうだぜ?」
「ふっ、親友同士の息子が友になるか。」
「どっかで聞いた話だな。まあ、最初アルフォース君の事を女の子だと思ったらしいがな。」
「あ~、アルフォースはエリシア似だからな。」
2人が話をしていると、後ろから2人に抱きついた者がいた。
「うぉっ!?」
「おっと、何しやがる、ベル。」
「2人して仲良さそうに喋ってるんだもん、同じ大将なんだから仲間外れはNoだよ?」
さっきまで一緒に会議をしていた、ベルベットだった。
アルフレド、ジルコニア、ベルベットの3人は幼馴染み兼同期だった。
「あまり俺達に構ってると旦那泣くぞ?ベル。」
「大丈夫、大丈夫、旦那は私達の関係知ってるし問題ないよ、どっちにしても旦那ここに来れないし。」
「それはそれで泣くだろう、絶対に言うなよ?」
「勿論、言わないわよ。」
3人はそれぞれ結婚をしているが、ジルコニア以外は軍関係者と結婚している。
アルフレドの妻のエリシアは元国軍大佐で、ベルベットの夫は現国軍の中尉である。
そして、ジルコニアは花屋の一人娘と結婚したのだ。
因みにベルベットの夫も3人の同期であった。
「しっかし、私はあんた達2人が年下好きだとは思わなかったんだけどね。」
「好きになったのが偶々年下だっただけだ。」
「俺もだ。」
「取り敢えず、私は明日アルフォースを連れて行かんといかん。明日の準備あるから失礼するぞ。」
「ああ。」
「ええ、あ、明日その後にアルフォース君連れて来てよ!」
「………暇だったらな。」
そして………次の日。
「緊張していないか?アルフォース。」
「はい、少しだけ緊張しています。でも、お父様のご迷惑は掛けない様に頑張ります!」
「ははっ、大丈夫だよ。さ、行こうか。」
「はい!」
【玉座の間】
「アルフレド・オールド・リンガー及びアルフォース・ティアナ・リンガー、ここにて登城致しました。」
「うむ、すまんの、アルフレドよ。そして、よく来たなアルフォース嬢。」
「…は、はい。」
「恐れながら陛下、アルフォースは男の子でございます。」
「ムッ!?ルークは女子と申していたぞ!?」
「はっ、恐らくは元帥の嘘かと。」
「あ、あのジジイ!まあ、よい、済まんのアルフォースよ。」
「い、いえ、お心遣い恐縮致します。」
「ほう……。」
(なるほど、アルフレドがああ言う訳だ、この子はとても優秀で頭の良い子だ。)
「アルフォースよ、お主にはこれから少しばかり苦労を掛ける事になるがそれはお主にとっても重要な事だ。」
「はい、お父様から既に聞いております。覚悟は出来ております。」
「そうか………、お主本当に5歳か?」
「?、はい。」
(大人でもこの様な対応する者はそう多くはないぞ?)
レイフォード国王はアルフレドを見て、アルフレドは察したのか頷いた。
「お主が聡明な子で良かった。して、どちらを主で使うか決めたのか?」
「はい、「光」属性を使い、「闇」属性は鍛えますが問題無いと思えるまでは表では使用しない事としました。」
「そうじゃな、そう決めたのならば儂からは、そうじゃのぉ、1つだけ「闇」属性を表舞台で使うという判断はお主に任せるが、その時は心して使うようにな、ええの?」
「はい!」
「うむ、もう儂から言う事は何もない、アルフレドよ。今日は帰って家族サービスでもすると良いぞ。」
「はっ!有り難き幸せでございます。これにて失礼致します。」
「うむ。」
「失礼致します。」
「うむうむ!また来ると良いぞ!」
「はい!」
国王はアルフォースを孫を見るかの様な眼差しで見て、出ていく所を送り出した。
「今日はお前の好きなケーキでも買っていくか。」
「!、本当ですか!?お父様!」
「ああ。」
保有している魔法属性を使わないという事は、この先アルフォースはハンデを背負って戦う事になる。
それは、このご時世ではかなり厳しいものである、この子に出来る事は出来る限りしよう……とアルフレドはそう決意した。
が、この決意は杞憂に終わる。
父アルフレドが想像した以上にアルフォースの素質は例え属性1つ使えなくても支障が無い程、高いモノなのだから。
そして、『神子』として生まれたアルフォースはこの日から強さを求めて動き始めるのだった………。
一方、世界では………。
「……………世界の変革が起きます。」
世界樹の木の枝に立っているエメラルド色の髪をした女性がまるで予言の如く呟いた。
「……………。」
そして、木の影に一人座って世界を見ていた。
「世界に安定と平和を……。」
『神子』の誕生は世界の変革を意味する。
『神子』がもたらすのは「安定」か、それとも「破滅」か。
『神子』の選択によって世界の命運は決まり、それがそのまま世界に変化をもたらす。
そして、今世界は動きだそうとしている。
世界の強者と呼ばれる者達は世界が変わろうとしている事をなんとなくだが感じている。
「…………そろそろ帰ろうかな、仕事放り投げてもう30年位だしね。それに、何か起きそうだね。」
旅人の黒髪の女性が一人呟いた。
「ま、後10年位は大丈夫かな……。」
そう言って砂漠を再び歩き始めた。
レイフォードでは……。
「「亜人族」の組織か。」
「はい、何やら「魔科学」となるモノもあるそうで。」
「「魔科学」?」
「はい、魔法が使えない者でも使える様になるとか、そんな都合の良いモノが本当にあるのか疑問でして……。」
「………アルフが言っていた装置もそれか……。」
ジルコニアは部下からの報告と、先日任務で帰ってきてアルフレドが話していた内容を照らし合わせた。
「とてもじゃないが信じられんな、だが、もしそれが本当だとすれば危険性が高いものだ。もう少し調査は可能か?」
「はい、私としても気になりますので。」
「ああ、頼んだぞシグレ中尉」
「はい。」
ベルベットの夫シグレがジルコニアに命を受け敬礼した。
「ああ、後、お前の妻が泥酔してるって連絡があったな。」
「はい……、申し訳ありません。」
「ふっ、あいつは変わらんな、全く。」
「全くです。子供を生んで少しは女性らしくなるかと思えば、更に強くなりましたよ。」
「………大変だな。まあ、今日の所は上がって良い。ベルを早く迎えに行ってやれ。」
「はい、では失礼致します。」
シグレがいなくなり、ジルコニアは資料を再び確認した。
「………アルフォース君が生まれた理由か。「魔科学」か、少々気に掛ける必要がありそうだな。」
ジルコニアが気に掛けたこの「魔科学」が世界に大きな影響を与え、新しい戦いの火種となる事はまだジルコニアも含めて誰もまだ知らない。
「魔法」を使える種族と、「魔法」を使えない種族の隔たりがどれ程大きい事かを世界は理解していない。
『神子』が誕生したという意味を真に理解しているのは、歴代の『神子』とその関係者だけだろう。
『冥光の神子』が生まれた意味を世界が知るのはまだまだ先となるだろう……。
そして、月日は流れ、世界は廻りだす。
次回ちょっとした設定集を入れた後に一章が始まります!