第三話【神子と友】
アルフォースが誕生して早5年……
アルフォースはあれから元気に成長し、母エリシアにそっくりに成長した。
母エリシアの容姿を幼くして、綺麗なショートカットの金髪が特徴の正に見た目は完全に美少女だった………男の子だけど。
アルフォースはとても優秀な子供であった。
『神子』故なのか、それとも元から持っている素質なのか、5歳で既に上級魔法を扱える程であった。
リンガー邸
「今日もアルフォースは図書館かね?」
「ええ、アルカディアと一緒に行ってます。」
「そうか、あの子も他の子供達の様に遊んだら良いのにな。」
「あの子にとったら、図書館も遊びの一つですよ。」
「私がアルフォースと同じ年の頃は勉強を抜け出しては遊んでいたのだがな。」
そう言って昔を思い出す夫のアルフレドに、エリシアは溜め息を吐いた。
「くれぐれもその様な事は子供達には言わないでくださいね?」
「あ、ああ、分かっているさ。」
アルフレドは国軍大将だ。大将という地位に相応しい実績と指揮官としての能力は確実に持っており、魔法に関しては国でもトップクラスの実力と能力を持っている為、次期元帥候補にも挙がる程なのだが………
変な所でポンコツ振りを発揮する為、身内としては気苦労が絶えないのだ。
「そう言えば、君に国軍復帰をしないか?という話が出ていたが、どうするのかね?」
「戻る気はありません、あなたと結婚した時から戻らないと決めていましたから。」
「そうかね、まあ君がそう決めているのであれば私から何か言うことはない。」
「ありがとうございます。」
「さて、そろそろ私も仕事へ行くかね。」
アルフレドは立ち上がり、近くで備えていた執事から自身の剣を受け取った。
「今日は視察でしたね。」
「ああ、全く休日だと言うのに働かせる。まあ、他の大将は「例の組織」に関する調査で不在だからな、私がその分を受け持つしかないのだがな。」
「やはり、動きがあったのですね。」
「最近は特に活発だ、気を付けねばなるまい。」
歩きながら話していた為、そのまま玄関についてメイドから鞄をアルフレドは受け取った。
「では行ってくる。」
「はい、お気を付けて。」
アルフレドは仕事に向かった。
所変わって、王国にある最も大きい図書館【王立アンフィニ中央図書館】では二人の兄弟が来ていた。
「申し訳ありません、お兄様。」
「気にするな、可愛い弟の為だ。俺はどんな事があってもお前を優先するぞ、アルフォース。」
「はい。」
父アルフレドによく似て13歳となり成長したアルカディアと、母エリシアにとてもよく似たアルフォースが話をしながら歩いていた。
「今日は何を調べるんだ?」
「はい、「回道学」を。」
「「光」属性持ちならではだな。」
「お兄様もですよね?」
「ああ、「回道学」つまり、回復術系統の魔術は「水」か「光」属性の素質が高い者にしか扱えない術だからな。」
「攻守にも優れ、回復も出来る「光」属性を持った以上は出来ないといけません。」
「い、いや、絶対ではないと思うが……。だが、同じ「回道学」でも「光」分野は少ないよな?」
「はい、「神属性」を持っている人自体が少ないですから、独学で勉強していましたが、限界を感じたのでちゃんと勉強したいんです。」
「そうか、なら兄である俺が手伝わない訳にはいかないな。」
「はい!ありがとうございます!」
「………あのさ。」
アルカディアの隣にアルカディアと同い年位の女の子がいた。
「ん?ああ、どうした?リサ。」
「どうした?じゃないわよ!さっきから放置されていた私の身にもなりなさいよ!」
アルカディアの友人のリサ・リードフェルトはアルカディアに頼み事があると言われて来たのだが、放置されたままほったらかしにされていたのだ。
「申し訳ありません、リサさん。」
「あ~、ティアナちゃんに言ったわけじゃないから気にしないで、全てはそこのバカディアが悪いのだからね~。」
リサは昔からアルカディアと一緒に行動して遊んだりしていた為、アルフォースとも仲が良い。
だが、何故かアルフォースに対してはミドルネームである「ティアナ」でちゃん呼びをしている。
「バカディアってなんだ、バカディアって。」
「そのままの意味よ、ところで用件は?」
「アルフォースが「光」の「回道学」について調べたいそうなんだが、それが書いてある本は少なくてな探すにも2人ではと思ってな。」
「あ~、ティアナちゃんの調べ事なら協力するけど、「回道学」か~。」
「お前属性的に苦手というか出来ないもんな。」
「うるさいわね、私は「土」と「雷」だから縁がないのよ。あんたの方が詳しいでしょ?」
「属性が違うんだよ。」
「さて、ティアナちゃん、早速探そうか?」
「はい!」
一悶着?はあったが、取り敢えず3人で目的となる本を探し始めた。
少しして、アルフォースは「回道学」の書籍棚の所で本を探していた。
アンフィニ中央図書館は王国最大の図書館であるため、その本の数は無限に近い。
年々その数は増えていき、その膨大な本の数と場所を明確に覚えている者は居らず、そして、王国も数の管理は放棄している程であった。
アルフォースが本棚を見ながら歩いていると偶々そこにいた人にぶつかってしまった。
ぶつかったのは同い年位の銀髪の男の子だった。
「あっ!」
「おっと。」
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」
「全く気をつけ………」
相手の男の子はアルフォースを見ながら注意しようとしたが、そのアルフォースの可愛さに言葉を失ってしまった。
「か、」
(可愛い………。)
「ごめんなさい!本を探すのに夢中になってしまって……。」
「い、いや、俺なら大丈夫だ。」
「でも、ぶつかってしまったのは僕なんで何かお礼をさせてください。」
(………お礼か、ぶつかったと言っても立ち読みしてた俺にも非はあるが、だが、せっかくこんな美少女が言ってるんだ、チャンスを逃すなどという愚策は犯してはならない。)
「分かったよ、俺はシリウス・D・クロードだ、よろしく。」
「アルフォース・ティアナ・リンガーです。よろしくお願いします。」
アルフォースとシリウス、この2人の出会いは運命の出会いだった。これから先の未来で2人は親友として仲間として共に戦う運命なのだから。
「シリウス君も「回道学」の勉強?」
「一応な、使う機会は無いだろうがな。そっちは?」
「僕は属性の特性上必要なんです。」
「「水」か。」
「「水」も持ってるけど、僕の場合は「光」の方ですね。」
「!!、「光」持ちなんて初めて会った。アルフォースは何時もここにいるのか?」
「何時もではありませんが、本を読んだり勉強したりするのが好きなので時間が空いていたら来てますね。」
「へぇ。」
(良い情報を手に入れたな、だけど。)
「さっきから気になってるんだけどよ、1ついいか?」
「?、はい。」
「なんか堅苦しいんだよな、敬語止めねぇ?」
「あ、ごめんなさい、癖で。」
「同い年位だろ?俺は5歳なんだけどよ。」
「僕も5歳だね、同い年だね。」
ふんわりと微笑んで言うアルフォースにシリウスは自身が赤くなるのを自覚しながら頬をかいた。
「まあ、俺も同い年で異性の友達はいねぇからな、堅くなるのは分かるぜ。」
「えっ?」
「?、どうした?」
シリウスの異性という言葉に反応したアルフォースに何かやらかしたのかと思い聞いたシリウスだったが、後にこれがショックに変わる………。
「あ、あのシリウス君、もしかして僕の事、女だと思ってる……?」
「えっ?なんで……?」
「………やっぱり、はぁ……、えっとね、僕は男だよ?」
「えっ…?は、え?はああっ!?」
最初は全く言葉を理解できなかったシリウスは、少しして理解してそして驚嘆したのだった……。
数分後……
「はぁ、こんなに驚いたのは初めてだ。」
「ご、ごめんね。」
「やっぱりって事はよく間違えられるのか?」
「うん、僕を男だと最初に見抜いた人はいないかな?」
「なら最初に言ってくれよ……。」
シリウスの初恋はあまりにも残酷な結果に終わってしまった。
「まあ、その変わりこの世は残酷だって事は理解は出来たわ、うん。」
「?、なんで?」
「………やっぱり残酷だわ。」
知らずしてシリウスの心を傷付けたアルフォースは分かるわけもなく、シリウスの落ち込み様を心配して励ましていた。
励ます行為が更にダメージをプラスしていることを知らずに……無自覚とは時に凶器であると思ったシリウスだった。
この一件がキッカケとなり2人は友達となったのだった。
「おーい、アルフォース。」
「あ、お兄様にリサさん。」
「こっちは駄目だったって……誰だそいつは?」
アルカディアは殺気を込めてシリウスを睨みながら言ったが、リサに頭を叩かれた。
「痛ぇ!」
「何殺気出してんのよ、ティアナちゃんのお友達でしょ?」
「はい、先程友達になったシリウス君です。」
「シリウス・D・クロードです。」
「!、クロード、クロード大将の血縁か?」
「そうです、ジルコニア・D・クロードは俺の父です。」
「そうだったのか、俺はアルフォースの兄、アルカディアだ。そして……。」
「アルカディアとアルフォースの友人のリサ・リードフェルトよ、よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「さっきは悪かったな、アルフォースはこんな容姿だがれっきとした男の子だ。たまに声を掛けられては困っている所をよく見ていたからな。」
「いえ、気にしてませんので。」
「そうか。」
「?、そういえばティアナちゃんが男だって事について驚いてなかったけど知ってるの?」
「先程、アルフォースから聞きましたので、初めて知った時は色んな意味で驚きましたが。」
シリウスの表情からある程度察したリサはシリウスの横へ行き、
「シリウス君も惚れたんだね?」
「はっ!?」
「いいよ、皆通る道だから。」
リサの言葉にアルカディアも頷いた。
「これからまた新たな恋を見つければいいのさ、頑張れ少年!」
「う、うるせぇ!!」
リサの励ましも最早逆効果であった……。
この出会いもこれから『神子』として生きる定めを持つアルフォースにとってはとても大事であった。
この偶然の出会いが、必然であったと思う様になるのはまだまだ先ではあるが………。
序章は次の話で終わりです。
次回は世界と王国の動きについてのお話になります。