第二話【神子の運命と家族の運命】
神に選ばれし者『神子』の誕生は世界に大きな影響を与えると世間では言い伝えられている。
『神子』であるアルフォースが産まれてから少しして、アルフレドとエリシアは執事長のシャクヤクとメイド長のエルサ、そして……
「遂に私にも弟が出来たのですね!父上!母上!」
父アルフレドに良く似ているアルフォースの兄にして長男のアルカディアがいた。
アルカディアは現在8歳で、【魔法学校シュテルネンリヒト】の初等科に通学している。
「ああ、弟のアルフォースだぞ、アルカディア。」
「こっちへいらっしゃい、アルカディア。」
弟を抱っこしている母から来るように言われて、アルカディアは直ぐに駆け寄った。
「あなたも抱っこしてみなさい、気を付けるのよ?」
「はい!」
母から弟を渡され、まるで壊れ物を扱うが如く慎重に抱っこをした。
「アルフォース、私の弟。これからは私にも守るべき存在が出来たのですね……。」
「ええ、そうよ。これからは兄としてアルフォースを守ってあげてね、アルカディア。」
「はい……。」
その後に直ぐに母にアルフォースを渡して、椅子に座った。
「……さて、これからの事を話し合わないとな……。」
「これからの事?」
アルカディアは弟が産まれたしか聞いていない為、父が言った言葉に対して質問をした。
「ああ、アルカディアには伝えてなかったな、アルフォースはな、とても大きな使命持って生まれて来たのだ。」
「使命?」
「運命と言っても良い、シャク爺、エルサも心して聞いてほしい。」
「御意」
「承知致しました。」
シャクヤクとエルサは長くリンガー家に仕えて来た執事とメイドだ。
経験豊富である程度の事では動じない2人だが、この2人でさえ今回の件には流石に動揺したのだった。
「アルフォースは【冥光の神子】として我らの子として生を成した。恐らくこの子はこれから先様々な出来事に巻き込まれるだろう。
アルフォースの前の『神子』は今残っている書では三千年前とかなり昔だが、その『神子』の伝説も今もなお色褪せずに伝えられている。
それだけ、『神子』は世界への影響も大きい。」
「三千年を経て『神子』が生まれたという事は、これから先の未来で世界に何かが起きるという事ですね?」
「うむ、【冥光の黙示録】は何処かにあると言われている碑石に書かれている碑文らしいが、その中に『世界が変革起きし時にて【冥光】背負いし者が現れる』と書かれているらしい。
変革、つまり世界で何かが起きる時に現れるのが、『神子』と呼ばれる存在だ。」
「……父上、碑石って内容が分かってるのに、在処が分かってないのですか?」
「最もな疑問だな、うむ、【冥光の黙示録】は昔から部分的にだが、その内容が言い伝えで残っているのだよ。だが、その在処だけは何処にも書かれていないのだ。まるで意図的に隠しているがの如くね。」
伝承に残る『神子』伝説。その中には必ず【冥光の黙示録】についてが書かれている。
密接に関係あると伝えられてはいるが、その碑石の在処はどの書にも書かれていないのだ。
「在処も分からない、本当にそんな碑文が存在するかさえも分からないのに信じるの?」
アルカディアの疑問は最もな疑問であった。
誰も見たこともない碑石に記された、しかも部分的のみ内容が書に書かれただけの情報など信用には値しないのが普通である。
しかし………
「確かにそうだ。だが、『神子』の残っている伝承は2つあり、1つずつに違う『神子』が出てくるが、どちらも「光」と「闇」の属性を持ち、2つ共に世界が改変された事により出現している。
どちらも【冥光の黙示録】にある内容だ。それに……」
「それに?」
「「光」と「闇」の両方を持つ事は有り得ないというのが魔法分野の学者達の見解だ。対極であるが故に決して交わらず互いに打ち消し合う特性を持っているのだ。まあ、それ以外にも理由はあるのだろうがな。」
【対極属性の理論】は数百年も前から定義されているものだ。
「火」と「水」、「土」と「雷」、「火」と「氷」などそれぞれ属性毎に優劣はある。
しかし、「火」の熱により「水」と「氷」は「水の三態」の特性を得る事ができ、「土」と「雷」を合わせた「磁力」を得る事ができるなど、優劣は有れど組み合わせて使用する事は出来る。
だが、「光」と「闇」は互いが弱点である場合は本来反発し合い交わる事は決して無いとされる、その為、10種ある属性でも「光」と「闇」だけは完全な対極となり両方持つ事は有り得ないとされる。
「理論は所詮理論、特殊な場合はそれを除くというのがあるべき姿だが、バカな学者の中では飛躍して考える奴もいる。理論から外れた者は存在すべきではないとな。
だからこそ、我々はこの子を導き、守っていかなくてはならない。」
「アルフレド様、1つお聞きしても宜しいですかな?」
「ああ、いいぞ。」
「魔力測定結果の報告は如何なさるおつもりで?」
「……………。」
シャクヤクの言葉にアルフレドが固まった。
「やはり何も考えてなかったのですね。」
「い、いや、か、考えてなかった訳では……。」
「はぁ……、着眼点はよろしいのですが、昔から1つは必ず抜けておられましたからな。で、どうなされるので?」
「ふむ………、報告に虚偽があればいかに私が大将であっても罰せられるだろう。」
「ええ、ですので私に任せていただけませんでしょうか?」
「シャク爺にか?」
「ええ、こう見えて私はその手の友人が多いので頼んでみましょう。」
「………分かった、すまんなシャク爺。」
「いえ、これもリンガー家に長らく仕える執事としての使命でもございますので、では、早速動くとしましょう。」
「ああ、頼んだ。」
シャクヤクは一礼して部屋から出ていった。
「曾祖父の時代から仕えてるからな、本当に昔から頼りになるな、シャク爺は。」
「そうですね、あなたも見習ってほしいですわね。」
エリシアから冷たく言われてしまい、
「…………はい、仰る通りです。」
と、反省するように言うしかなかった……。
数時間後………外からシャクヤクが戻り数枚の書類を広げた。
「これは……!?」
「国王印の書類でございます。アルフォース様の魔法属性については国王陛下の許可が無いと開示出来ないものです。」
「こ、これをどうやって?」
「私の奥の手でございます。国王陛下とは個人的に交流がありますので、陛下に直談判を致しました。」
シャクヤクは普通に話しているがこれは通常有り得ない事であった。
個人的にとはいえ、シャクヤクはあくまで執事だ。権力も何も無い立場だ。それをいとも簡単にやってのけたのだ。
「勿論、アルフォース様の今後についても話をしてきました。この件は陛下のお心の中に留めて置くとの事です。」
「そうか……何から何まで本当にすまない、ありがとう。」
アルフレドは頭を下げてお礼を伝えた。
「お顔をお上げください、アルフレド様。私はリンガー家の執事でございます。リンガー家の為でしたら私は命を掛けてでもお力になります。」
「そうか……!」
「シャクヤクさん、私の方からもお礼をさせてください。ありがとうございました。」
「いえいえ、エリシア様もお顔をお上げください。」
「今日はパーティーだ!エルサ、執事とメイド全員を集めてくれ!全員で楽しもう!」
「はい、旦那様。」
アルフォースの誕生のお祝いも兼ねて、今日は執事とメイド全員も呼んでパーティーを開く事となった。
これから先、アルフォースには定められた運命が付いて回る。それは決して安全とは言えない、危険な道程となるだろう。
アルフレドはこの時決意した、これから先アルフォースの為に命を掛ける決意を……。
アルフォースは世界を導く運命にあるのであれば、我々家族はアルフォースを導く運命にあるのだから……。
愛すべき息子の為にも……。