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黒きただ人に抱擁を  作者: 壱番合戦 仁
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紫の章(壱)

                       《1》

 決戦当日。有能な副団長の手引きによって、空間魔法使いの賢者による大規模転送の準備が整った。なんでも彼が昔から懇意にしていた意味魔術の師匠だそうだ。頭を下げて下げて下げまくって、ようやく転送陣を書いてくれたという。

 転送陣へ赴く時刻まで、宿泊している部屋で八極万勝双刀の手入れをしていた。サエリはというと、銃弾などもうないはずなのに火薬のカスを掃除している。

 「なあ、サエリ。銃弾ってまだあるのか?」

 「うん、何故か知らないけど、こっちの世界に来てから勝手に補充されるようになったんだ」

 なるほど。確かに僕なども、こちらの世界に来てから体力の向上が著しい。渡世の魔神が餞別でもくれたのだろう。まあ、幸いなことではある。ここは素直に喜ぶべきだ。

 「よかったじゃん。サバイバルナイフだけだと、心細いもんね」

 そんな話をしていると、ヘアのドアが強くノックされた。

 「集合の時間だ。支度を済ませて転送陣へ来い。遅れるなよ!」

 ドアを開けるなり用事を済ませると、フォエイタンスの分隊長は駆けていった。

 「サエリ、いよいよ決戦の時が来た」

 「そうだね。レイヤくん」

 「何だい?」

 「――――死なないでね」

 その言葉を包むように、同じくサエリの手の甲を包み込んだ。それを答えと受け取ってくれたらしく、サエリは引き締まった面持ちで、勇ましく微笑んだ。

                       《2》

 定時となり、転送陣の間に集まったフォエイタンスと僕らが転移した先は、絶海の孤島だった。諜報部隊長のサラさんによると、どうやら星の湖の上に浮かぶ島らしい。

 号令がかかり、事前の打ち合わせ通り二つの脱出口を探し出し、東西南北の城門とまとめて封鎖した上で突入する手はずだったのだが。

 「何なんだよっ、この化け物は!よりにもよって合成生物かってのッ」

 まさか、土の中から蛇とムカデのキメラ生物が現れるとは夢にも思わなかった。蛇、ムカデ、蛇、ムカデと交互に体がくっついている。意外と体は柔らかいのだが、切っても切っても生えてくるからたまったものではない。やがて、こいつらの弱点に気が付いた団長が、大砲付きの盾、通称《機盾》から徹甲弾を

地面に打ち込んだ。すると、奴らの本体に直撃し、ようやく倒すことができたのだ。どうやら、地中に本体である核が存在していたようだ。だが、妙なことに、怪我したものはほとんどいないはずなのに、隊員が消えている。

 「……団長さん」

 僕はサエリに耳打ちして確信を得てから、彼の元へ伝えに行ってもらった。彼女は神妙な顔をして戻って来た。

 「奴らに、拉致されたかもしれない、って」

 「やはり、か。気を抜かずに進む必要があるな。団長は抜け穴の探索は続けるの?」

 「ううん、もう危ないから門の封鎖にとどめようっていう判断だよ」

 それなら、今向かっている方角も納得いく。城に近づいた時点で散開するのだろう。程なくして、予想通り号令がかけられた。

 「これより、四班に分かれて東西南北の門を封鎖する。それらとは別に、突入班も編成する。これには精鋭を投入することにした。ホバリングや、武術に秀でた者。あるいは優れた防具を身に着けている者は、優先して編入する。誰か、自信のある者はいないか?」

 名乗りを上げたのは、僕とサエリとオレガノだった。ほかにも救急治療に秀でた衛生士三人や、熟練の衛士たち五人が立候補した。こうして僕らは、北門の大玄関へ向かう。

                       《3》

 そうこうしているうちに北の門へたどり着いたのだが、一向に敵の気配がしない。グダグダ悩んでも仕方がないので、門の材質を調べることにした。

 「どうしますか?この鉄門、質も構造も悪いみたいですし、炸裂弾を放てば壊せそうですけど」

 調査の結果、サエリが所感を述べる。それを受けて、オレガノが鷹揚に頷いた。

 「そうだな、集中砲火すれば、何とか壊せないこともないだろう。よし、皆。徹甲弾を用意してくれ。一斉に集中砲火するぞ」

 オレガノ自身も決心がついて、炸裂弾装填を指示する。カウントダウンとともに、照準が合された。

 「撃てェッ!!」

 鼓膜を引き裂くような大音響とともに、城門が激しく崩れ落ちた。だが、不気味なことに、それでも人の気配がしない。周囲を警戒しながらエントランスへ踏み入る。

 「……ふぅ。なんだ、誰もいないじゃないか。おい、オレガノ。さっさと――――」

 「皆ッ!上だァっ!」

 考えるよりも早くその場から飛びのいた。

 すると、何者かが空恐ろしい勢いに乗って急角度をつけて飛来し、僕がついさっきまで立ってた場所に居る五人の隊員の首を斬り飛ばした。血柱と肉片と胴体を失った首が宙を舞う。

 「ぅ……、ぅぁ」

 ゴトゴトゴトゴトゴトンッ、と、五つの首が落ちるさまを、血濡れた宝剣を手にした黒ローブの男が、さも愉快そうに笑い声をあげていた。

 「ほぅ。まさか吾輩の抜刀を初見で凌ぐとは、な。斬り甲斐がありすぎて困るったらないな」

 「テメェ……ッ!!よくも俺の後輩をクズ肉に換えてくれやがったな……!!」

 「おやおや。自己紹介ぐらい聞いたらどうなのだ?発情期のサル並みにお盛ん哉」

 男はこれ見よがしに両の手のひらを天に上向けて、さもあきれ果てたかのような仕草をする。それはあまりにも大げさで、不謹慎すぎる。本当に、本当に場違いだ。

 「さて、よく来てくれたな、吾が玩具共。吾輩は六徳衆が【蛮勇】担当。柳生新一。うぬらを細切れの糞肉に変えてくれるわッ!!グヒャハハハハッ」

 「この腐れ外道がッ、喰らえェ!!」

 言うが早いが、オレガノは背中に負った二機の大砲付きの盾に一瞬で弾丸を装填し、速射した。

 「無駄無駄ァ!!」

 当然、新一はその多くを避けて見せた。足止め用なのか、ねばねばした半固体の液体が床に飛び散った。だが、足元を狙い撃ちされているせいで、ステップが覚束ない。だがその顔は余裕に満ちていた。

 ふと、新一の仕草に薄い悪寒を覚えた。その刹那に、悪寒の正体が奴の懐から姿を現した。

 何ということはない。青い貝殻を粉末状にして、金粉代わりに装飾された美しい短刀だった。

 ――――しかし。

 「さぁて、まずは序曲(プレリュード)だァ。【八千切れェッ、北谷菜切(チャタンナキリ)ィィ!!】」

 「総員、防御せよォッ!!」

 絶叫にも似た大号令を反射的に理解し、僕は、隊列の最後尾へ退避した。その瞬間、斬撃の暴風雨としか例えようのない、遠距離攻撃が襲い掛かった。あまりの衝撃に多くの衛士が、続々と大鎧を着たまま吹き飛ばされる。そこから先は、正に泥沼にはまり込んだがごとき戦いだった。

 お互いが決定打を欠いたまま牽制し合うせいで、戦況は膠着の一途をたどっていった。

 粘着弾を飛ばしまくったせいで、エントランスの床はものすごく汚い。逃げを打てば打つほど足場が悪くなっていくせいで、新一も防戦一方だ。対してオレガノには弾数という制約が存在する。弾が切れるのが早いか、陣形が崩壊するのが早いか。はたまたまともな足場と新一の体力が切れるのが先か。どちらにせよ、限界はすぐそこまで来ている。両者とも、時間の問題と言えた。

 「オレガノさんッ!!このままだと弾切れは間近ですよッ」

  何か策があるのか、オレガノはサエリの警告に黙して応じなかった。そしてニヤァッと持ち前の黒い笑みを浮かべる。その酷薄な笑みに冷たいものを覚えたのも一瞬の事でしかない。

 「今だッ、伏せろォッ!!」

 何故なら、次の瞬間にはオレガノが、自分で床に撒いたねばねばした半固体の液体を、手榴弾によって大爆発させたからだ。その爆発は非常に特殊で、上空に対して強い指向性を持っていた。結果として爆発は極太の火柱へ姿を変えた。鼓膜を突き破りかねない爆発音に誰もが耐えかねる。

 「な、何だったんだ……。一体」

 もうもうと煙が立ちこめる中、まともに足腰が立つ者はこの場に存在しなかった。あまりの轟音のせいで耳が聞こえない。相当な熱気を浴びたせいで、触覚もくるってしまった。視界が悪いので、目も見えない。化学反応でも起きたのか、有害なガスが口の中に入って変な味がする。当然煙の臭いも相当なものだった。おかげで咳が止まらないため、すっかり参ってしまった。

 触れてもわからない、見えない、聞こえない、立てない、味がしない、臭わない。まさしく踏んだり蹴ったり殴ったり倒したり斬ったり刺したり、という改造慣用句でも使わないと表現できない程の大惨事だった。

 やがて、少しずつ耳鳴りが小さくなっていく。血と肉がこね合わされるような音が聞こえるが、爆熱の余波をうけて負傷したものが身じろぎしているのだろう。そうこうしている内に周囲の煙が晴れ始めた。だが、よくよく目を凝らすと、装備が焦げているものならいるにはいるが、たいして重傷を負っている団員はいなかった。

 ――――あれ、じゃあ、さっきの音は一体?

 耳鳴りに紛れて濃煙の奥から、同じ音がする。耳を澄ませると――――。

 ぐチゃリッ、と、肉の柱が立ち上がった。

 「……な、何で」

 ジゅぶリべチゃッにチょぐチグちミチィっ!!もう止まらない。爆薬によって焼け爛れた新一の肉体は急速に細胞分裂を繰り返し、驚異的な速度で再生していく。人の形を得て、尋常な姿を得てからは、彼は妙にほっとした顔をしていた。

 「はふー。危ない危ない。腰ごと吹き飛ばされなくて幸い哉。なぁ、そうだろう。()()()()()()()

 「嘘、だろう」

 この流れは非常によろしくない。多分残る一振りの刀も何某かの恐るべき力を持っているだろう。それを使われる前に手を打たなければならない。当然だが、徒手空拳を趣旨とする武術の多くは、一対一の白兵戦を想定して作られた技術だ。敵が射撃してくることを想定した武術もあるにはあるが、その場合でも最初から打たせずに動きを手早く封じることが第一に掲げられる。ではそのためにはどうすれば――――。


 「あ、そっか。奪っちゃえ」

 何だ。僕は勘違いしていた。相手は超次元レベルの大剣豪ではなくて、普通の剣術の師範が強い武器に振り回して悦に入っているだけじゃないか。実力が高いか否かは別として、事実、奴の戦い方はまさにそれだった。

 ()()()()()()()()。もしくは、振りかぶった隙に強打して制圧する。得物持ちの相手に対する対処法の鉄板をさっさと使えばよかったのだ。

 煙に紛れて新一の背後に忍び寄る。奴は血と肉と薬品と鉄の臭いに酔い痴れて、一向に周りを見ようとしない。生きた肉を斬ったときの感触が楽しくて人斬りをやっているのだから、当然、【死にかけてもそういうジャンルの趣味だから、スリルを味わわなくては損】と割り切っているのかもしれない。

 「……そういえば師匠も言っていたな」

 武器を持っただけの相手は基本的に弱い。ナイフや銃を握って暴れている奴は、たいていの場合において自分は強くなったと勘違いしているからだ。実際、技術のない丸腰の相手に切りかかれば、有利なのは得物持ちだ。だが、そいつらは自分が武器を奪われた時のことを忘れている。例え、適切な武器術を習得していても、奪われてしまえばそれまでだ。ただ一点において違うとすれば、得物を持っても油断しない事だろうか。ということはこいつは剣士の風上にも置けないだろう。

 だから僕は、新一の首を左腕で背後から抱え込み、千代金丸を持った右手を引き延ばして、押し倒した。

 「グバッ!は、放せっ。それは吾輩の物なのだッ!放せェェッ!!」

 相変わらず新一は、轢殺されたカエルのようにうつ伏せになりながら喚き続けるが、僕にとってはそんなことはどうでもいい。奴の肩と脇に両太ももを添え、腕をしっかり取りつつ、目いっぱい引き絞った。

 そう、かけた技はド定番の『柔道・腕(ひし)ぎ逆十字』だ。

 「ぎ、ぎぁぁぁ……!!う、で、がぁぁッ」

 当然ながら、不死身の男にも痛覚は存在するのだ。そして、その不死身は千代金丸の権能に由来する。

 だから、今、僕の手に千代金丸を収めたように、不死身を不死身でなくしてしまえばよろしい。

  そして、口をふさいでのしかかり、ぼろぼろの着流しの懐から北谷菜切(チャタンナキリ)を取り出した。

 「や、止めろッ……!!吾輩はまだ、この世のすべてを斬っていないのだ……!!斬らせろ、斬らせてくれェ!!」

 「なら、おとなしく逮捕されるか惨殺されるか選べよ。きちんと更生すれば、これからも尋常なものくらいは斬れるぞ?」

 「ぐ、き、貴様ァ!!」

 なおもたてつく新一のこめかみスレスレに『剛柔流空手・極め突き』を放つ。トドメの一撃がかすりかけて、新一の額から汚い汗が零れ落ちる。反抗する気が失せてくれたらしい。油断なく後ろを振り返る。

 「オレガノ。『蛮勇』確保したから、逮捕しておいてくれ」

 「解った。おい、お前ら。行ってこい」

 オレガノの号令に従って、部下たちがよろめきながら、こちらへやってくる。彼らの同僚が、止めておけよ、と押し止める会話が聞こえてくる。

 「オレガノ。頭痛がひどいなら他の人に来てもらえばいいから、別にその人たちを無理させる必要はないと思うぞ」

 僕が声をかけると、ようやく諦めてくれた。そうこうしている内にがオレガノが手錠を持って駆けてくる。

 「……あのさ」

 見たことがない金属なので、尋ねたくてオレガノに思い切って声をかける。

 「ああ、これか?これはオリハルコン合金でできた特別製なんだ。ダマスカス鋼とミスリルを混ぜてある。絶対に壊れないと評判だぞ」

 手際よく手錠と足枷をかけると、至極楽しそうに品物を評する。

 「それなら安心だね」

 「まあ、被害も出たし、この先も油断はできない。――――抜かるなよ」

 「僕の師匠か、っての。そっくりだな」

 「ハァ?……随分言うじゃねぇか」

 「お前こそ」

 そして、僕らは笑い合う。ふと、サエリが気になって、左を向いた。どうやら早くも疲れてしまったようだ。早くも救急衛生士に聖魔法をかけてもらっている。僕は彼女のもとへ駆け寄った。

 「サエリ、大丈夫?」

 サエリはぽけーっとした顔をゆっくり僕に向けながら、弱々しく微笑んだ。

 「気分以外はね。冴、何の役にも立てなかった。不甲斐ないや」

 「オレガノの射撃が凄過ぎたんだ。かなり乱戦だったし、次頑張ればいいと思うよ」

 闘志が萎えかけたままでもお互い困るので、やんわりと励ます。

 「うん。次は冴も頑張るっ」

 その調子だ、と激励すると彼女は目に見えて元気になってくれた。


 【蛮勇】撃破である。

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