ギャンブル
負けた・・・。
途中まではうまくいっていたはずなのに。
奴は間違いなく強い手を持っている。
それは分かっていた!!
でも、積み上がった掛け金の前に引くに引けなくなっていた。
後悔先に立たず。
必死に稼いだ金が一夜にして消えて無くなった。
「にいちゃん?あんた、負けたんかい?」
頭を抱えてテーブルに伏していると、髭面の老人に声を掛けられた。
「あんたは・・・?」
「名乗るほどのもんじゃねぇさ、ただ辛気臭い顔した奴がいるとせっかくの酒が不味くなるからな、特別にいいこと教えてやる」
手に持ったウイスキーボトルに口をつけてから老人は続けた。
「ギャンブルに絶対負けない方法を知ってるかい?」
「そんなもの、あるわけないだろう!?」
つい先ほどそれを嫌という程経験した俺は、老人の言葉に食ってかかる。
「ひっひっひ。あるんだな、それが」
そう言って老人は耳を近づけるように人差し指で合図を送る。
俺は素直に従った。
「そいつはな・・・、やらねぇことだよ!」
そう言い残し、老人は笑いながら去って行った。
果たしてあの老人が何者だったのか?
それは結局分からずじまい。
それでも、全裸で賭博場を後にする姿には妙な説得力があった。