応援していますわ
ごきげんよう。
私、喜美あやかと申します。
今、友人である木下さきさんと登校しているところですわ。
大したお話はできませんが、よろしければ少しだけお付き合いくださいね。
「ごきげんよう、さきさん」
「ああ、おはよう」
今日もさきさんはお元気そうです。
「ちょっと、あやか、ネクタイ曲がってるでしょ」
まあ、私ったらうっかりさんだわ。
さきさんは私のネクタイを直してくれます。
「もう、しっかりしないと駄目でしょ。
毎日こんなんだから」
そうだったかしら。
「ありがとう。頼りにしていますわ」
「あのね・・・。
もういいや」
まあまあ、そうおっしゃらずに。
さきさんはちょっと口うるさいようですけど、とてもお優しい方なんですよ。
「ああ、もう、どいつもこいつも・・・」
まあまあまあ、口うるさく、怒りっぽく、細々している方ではあるけれども、今日は少し様子が変ですわ。私とさきさんはとても親交が深いのですもの、小さな変化も見逃しませんのよ。いつもより引きつったお顔に深い眉間のおしわ、ため息のつき方などから察するに確実に悩みを抱えていらっしゃるに違いありませんわ。まあ大変、ここは力になって差し上げるのよ。
「どうかなさったの?
悩み事かしら?
私で良ければ相談にのりますわよ」
他でもないさきさんの頼みであれば、例え火の中水の中ですわ。
「・・・いや、何でもない」
まあ、私にもいえないような深刻な悩みを抱えていらっしゃるのね。
いいのよ、さきさん、ここはあやかを頼ってくださってよいのですよ。
「何でもないようなことでしたらお話していただいてもいいのではないですか」
「いや、つまんない話だからいいでしょ」
ここで引いては駄目よ、あやか。
「さきさんのお話につまらないものなんてありませんわ」
「・・・はいはい。
話せばいいんでしょ」
ため息をつきながら、しぶしぶお話を始めるさきさん。
あやかはやりましたわ。
どうやら、さきさんはご友人に色恋沙汰の、しかも、どちらかと言うと幸せ一杯の、お悩みを打ち明けられたようですわ。しっかりもののさきさんですもの、恐らくはご友人のために親身になってアドバイスなさったんだと思いますわ。ご自信のことでもお悩みだと言うのに。
それにしてもさすがさきさんですわ。自身に、全く、これっぽっちも、経験のないことであるにもかかわらず、ご友人のために的確なな指摘をなさっているのね。なんて友達思いの方なのかしら。全くもって縁のない・・・おっと、いけませんは、私ったら・・・。
さきさんはとても素敵な方でいらっしゃるのよ。凛々しい顔立ち、生真面目で、思慮深い、とても素晴らしい方ですわ。ただ少し、ほんの少し、見方によっては、口煩かったり、融通が効かなかったり、怒りっぽかったり、女性らしさにかけていたり、乱暴だったり、嫌味ったらしかったり、こいつぶっちゃけうぜぇと思われるようなことがあったりするだけですのよ。特に殿方にはそういった誤解を受けやすいご様子。本当はとても素晴らしい方なんですのよ。
いけないわ、あやか。こう言うときこそ私が力になってあげないと。
「まあまあ、大変だったのですね」
こう言うときこそ笑顔ですわ。
「はいはい」
そっけない態度ですが、きっと喜ばれているに違いないですわ。
「さきさんもお悩みだと言うのに」
「えっ・・・、何のことよ」
私に隠し事なんて無駄なことですのよ。
「さきさんもお悩みなのでしょう、恋で」
「なっ、そんなことないわよ」
まあまあ、そんなに顔を赤らめてては説得力が御座いませんわ。
「齋藤君のことですわ」
「ちょっ、何で」
それは秘密ですわ。私のさきちゃん愛の力ですわ。
「全く気付かれてもいないご様子ですけど」
「そりゃ、色々忙しいから、そんなことにかけてる暇なんてないからでしょ」
「色々って何かしら」
「学業とかあるでしょ」
本当に攻められるのは弱いですわね。
「あやかの方はどうなのよ」
「それは、もう、熱烈アピール中ですわ」
もう私、あの方のことを思うと胸が苦しくて。絶対振り向かせて見せますわ。ファイトよあやか。頑張れあやか。気合よあやか。
「それって・・・。あれ?」
「どうかしましたの?」
「いや、前に歩いている二人」
親しげに二人あるいていらっしゃったのは、さきさんのご友人の草野ゆかさんとその意中の方である平岡健さんですわ。まあ初々しいこと。さきさんのお力添えがあってか、上手くいってるようですわ。お互い相手をみられないままにお話ししているのが、何とも言えず、微笑ましいこと。
「もう、あんな感じでまともにしゃべりもしないんだから。ぜんぜん進展しないの分かるでしょ」
確かに、あれではじれったくなるのも分かりますわ。でも、お二人のペースに合わせるのが一番、急かしても上手くいきませんわ。
「こう言うことはゆっくり、焦らず、時間をかける事も大事ですわよ」
「大体さっきから平岡しかしゃべってないでしょ」
そうですわね。ゆかさんの方は少々積極性にかけているようですわ。
「よほどゆかさんのことを心配なさっているのね。お優しいのね、さきさんは」
「おせっかいで悪かったわね」
「ご自信のこともそれくらいお考えになればいいのに」
「・・・。悪かったわね」
「さきさんもラブレターをお書きになってはどうかしら」
「そ、それは・・・」
「では、一緒に登校してみては?協力しますわよ」
「それは通学路が違うからむりでしょ」
「そんなことはないですわ、途中からなら合流できますのよ。平岡さんとゆかさんのように」
「・・・」
少しきつく言いすぎたかしら、気を落としているご様子。しかし、ここで甘い言葉を履いては駄目よ。さきさんは自分に厳しい方だもの下手に優しい言葉おかけては余計にプレッシャーをかけてしまいますわ。ここは・・・。
「そうね、私も自分にもっと厳しくした方が良い。ありがとう、あやか」
それでこそさきさんですわ。切り替えがとてもお早い方ですもの、私でしたらもう2,3日は悩んでしまいますわ。
「じゃあとりあえずラブレターですわね」
「何でそうなるのよ。私がそんな回りくどいことするわけないでしょ」
さすがさきさん、男らしいですわ。
「それではさきさん」
「そういうこと」
「応援していますわ」
そう言ったところで学校についてしまいましたわ。もう少しお話しを楽しみたかったのに残念ではあるけれども、さきさんがその気になってくださったのはとても素晴らしいことですわ。
それにしても、さきさんは、えっと、何でしたっけ、最近の言葉は良く存じていないのですが・・・、ツ、ツ、ツン何とかと言うものなのでしょ。殿方に大変人気があるとお聞きしていますの。これなら大丈夫ですわさきさん、応援していますわ。