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目標

 あ、すいません、あの、草野ゆかです。全部私が駄目なんだけど、友達を悪く言う気は一切合切これっぽっちもないんだけれども、マジで本気でないんだけれども、もうちょい良いアドバイス下さいよって心の底から叫びたい衝動に駆られる今日この頃、私の目の前に健君がいたりするわけです。



「おはようございます」

 異常なほどに丁寧な立ち振る舞いですね。

「お、お、おはようございましゅる」

 ましゅるって。あ、やばい、非常に緊張してましゅる。

「いそぎましょう、遅れてしまいますよ」

 そう言えば遅刻ぎりぎりでした。健君が珍しくぎりぎりなのはもしかするとゆかの事を待っていてくれたのではないでしょうか。まさかね、そうだよね、でもそうだったら嬉しいよね。

「参りましょう」

 何とも紳士的で、さわやかで、洗礼された、でも、と言うかやはり、異様で高校生らしからぬ雰囲気をかもし出す立ち振る舞いがミステリアスでエレガントでセクシーなのです。そのままどこかに連れてって。


 と、ここまでは良かったのですが、そこから話がつながらない。

 緊張のあまり言葉が出なくなったりしているのですよ。


「読んでいただけましたか」

 小声であるが、しかしはっきりと聞こえた。いきなり核心に迫ってしまうのですか。

「いや、もう少し別の話をしてからの方が良いか」

 あれ、もしかして健君は考えていることが声になってしまったりする人ですか。ああ、確かにそんな感じではあったけれどもここまで酷くはなかったような。うふふふ。

「そもそも、まだ答えが出てない可能性も考えると、話してくれるのをまってあげる方が良いのか」

 すいません、その通りです。ごめんなさい。

 と、言うか、これが健君の心の声であるならまだ挨拶しただけで全然会話できてない!?これはまずい、何とか話をつながないと・・・


 まずいな。

「まずいな」


 はもった。はもりました。シンクロです。私たち息ぴったりですね。ちょっと嬉しい。

「どうするべきか」

 健君がまじまじと私を見ています。ワールドです。でも、そんなに見られるとポッてなっちゃいます。恥ずかしいけど見られたい、でも恥ずかしい、けど眼を離さないで私を見て・・・。

 

 そうじゃなくて会話しないと。

 

 よし、考えろ、頑張れ私。

 まず、最初は・・・、


 良い天気ですね。


 何だそれは。さすがに良い天気ですねなんて実際に言うやつ見たことないぜ。いや、いるかもしれないけど、私は少なくとも見たことがない。しかもよく見ると若干曇り気味だし、微妙な天気で表現しずらい。とりあえず、今日なんかあったっけ。何か話題があれば切り出せる。共通の話題で言えば授業の話とか?いやいや、試験の順位が百番以上はなれてる健君の話についていけるとは思えないし、普段はほとんど授業寝てるだけだし、共通の話題とはいえないな。テレビの話題とかは・・・健君しなさそうだしな。


 もしかして共通点なしですか。


 え、そんな、いや、困る。

「困ったな」

 そうそう、困ってるんです・・・って健君?

「やっぱり可愛い」

 い、いきなりなんですと!!うつむきぎみの顔を覗き込むように凝視しながらそんな事・・・。いや、嬉しいですよ。

「美しい」

 そんなに!?いやぁ、照れちゃいます。

「す・・・好きだ」

 き、き、き、きたーーーー!!!

「って伝えたい」

 はい!?あの、健君!?

 筒抜けですよ。そっくりそのまま生まれたままの姿でご対面的な感じで丸見えですよ。大体それは手紙でこれでもかってくらい伝わりましたよ。

「でも、やっぱり迷惑になってしまうのかな」

 そんなことないよ健君。健君に本気で迫られたら私・・・断る事なんてできないよ。もうなすがまま、あなたのおっしゃる通りに、お帰りなさいませご主人様的に、あなたの全てをぶちまけてって感じで迫って奪って犯してください。きゃっ、駄目よゆか、そんなはしたない。

「返事もしてくれそうにないし、会話もなく、下を向いて眼も合わしてもらえないのはやはり迷惑なのか」

 はっ、もしや、私がいけないんですか。もしかすると私がこんなのだから。

 そう言えばうつむいたままで何もしてない、言葉も出せない、緊張でどうしたら良いのかわからない。でも、このままじゃ、このままじゃ、嫌われちゃう。だめ、そんなの嫌だ、嫌だよ。


 頑張らなきゃ。

 今、ここで、勇気を出さなきゃ。


「いや、こんな勝手な推論であきらめるには草野さんはあまりに魅力的だ。ごめんよ草野さん、迷惑だと分かっていても愛する事をやめられない」

 

 頑張れ健君。


 なんて人任せな私。さっきの勇気はどこえやら。まあ、でも、頑張れ健君。次、言ってくれたら勇気出すから。ホントだよ、これは本当。もう一回健君がアプローチしてくれたらその時はちゃんと応えるから、ちゃんと応えるから。ちゃんと、


 私も健君が好き。


 って、言うから。


「しかし、なぜ試練を与えてくれないのか。どんなことにも対処できるよう108個の秘術と身体に力がみなぎるかもしれない素敵な魔法ベスト20を習得してきたと言うのに」

 あ、あの、どこから突っ込めばいいですか。

「草野さんに限って何も考えていないと言うことはないだろうし」

 ごめんなさい。本当にごめんなさい。完全に私の責任です。すいませんでした。

「もしかすると真剣に考えすぎて困らせてしまっているのでは!?説明不足で意図が伝わっていないとか??」

 たしかに、良く分からない部分もあるけど、そんな健君も大好きだよ。

「いや、草野さんのことだからちゃんと分かってくれているはずだし、問題があれば指摘してくれるはずだ」

 買いかぶりすぎです。まあ、健君には色々指摘というかちょっかい一杯かけた気はするけど。あんなの健君と話しする口実だよ。それ以上の事考えれてませんから。

「ではなぜ・・・。まさか、今もう試練は始まっているのではないか。この無反応な状態はできそこないの僕がきちんとコミュニケーションを取り、社会的に上手く立ち振舞えるようになれるようになる試練・・・。なんにせよ、今の状況を打開していく所から試練は始まっていると言うことだろうか。

 そもそもお題を与えてもらう考え事態が甘いのかもしれない。そうだ、そうに違いない。相手の事を思うことと、何でも相手に任せてしまう事を一緒にしてはいけない。自分で考え、自分で道を切り開くことが求められているということなのだろうか。なんと深いお考えをお持ちなのでしょう。頑張ります、見ててくださいよ」

 あ、あのう、重ね重ねごめんなさいデス。ビックリドッキリやっぱり私はそんな素晴らしい高尚な人間では御座いません。

 でも、何とかなりそう。多分これは私にとっても試練なんだね。

 

 そう、これは私にとっても試練なんだ。

 そして、私も自分で考えなきゃいけない。

 自分で道を切り開かなきゃいけない。

 健君と一緒に。

 健君と二人で。


 

 こうして、健君と私は最初の挨拶意外は何一つ会話をすることなく学校に辿り着いた。何もしゃべれなくてうつむいたままだった。

 お互い思いを何一つ伝えられなくて、不安で一杯なんだけど、ただ、お互い目標ができて、それも共通の、勝手に私が決めただけだけど、同じ目標に向かって頑張れるのが凄く嬉しい。


 本当に嬉しい。

 頑張ろうね、健君!!



 こんなので本当にいいのかな・・・。

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