ついに!!
こんにちは、恩田総司です。本来は私の担当ではないのですが、担当の方がどうしても代わってほしいとのことですので、恩田が担当させていただきます。期待されていた方は、申し訳ありません。宜しければお付き合いくださいね。
「井上幸次郎只今戻りました!!」
井上くん、もうお昼休みですよ。
「お疲れ様です。お昼ごはんですか?」
全身汗まみれですね。激しいトレーニングをしていたのでしょう。
「何!? もう、昼休みか!! しまった、昼連にいかないと!!」
お昼休みまで練習しているんですね。素晴らしいことですが、
「食事くらい摂られてはどうですか?」
スポーツ選手にとっては食事もトレーニングと同じくらい大事なことでしょう。
「おぉ、そうだな、飯は食っといた方が良い。
・・・・・・あー!! 駄目っす!! 練習前に飯食ったら体動かないっす!!」
確かにそうですね。運動部で昼休みに練習する方は前の休み時間中に食事を済ましていますね。
「井上の相手はもっと適当でいいって」
いけませんよ、木下くん。井上くんも真剣なのですから。
「その通りよ。それよりさっきの続き」
芹沢さんが加わります。そう言えば先の休み時間ではお話の途中でしたね。しかし、井上くんのことを等閑にすることは出来ません。少し待ってくださいね。
「適当にしていいことではありませんよ。運動選手にとって食事は大事なことだと思います。練習前であれば、故障の予防やエネルギーの枯渇を起こさないように注意が必要です。栄養バランスは勿論、吸収スピードも考えなければならないそうですよ」
私自身は運動をするわけではないので詳しいことは分かりませんが、重要なことであるのは恐らく間違いないのでしょう。
「おお、分かってるっすね」
私のは付け焼刃の知識に過ぎないですよ。実際に実践している井上くんの方がその大切さを理解しているのでしょう。その意味では私はまだ理解すら出来てはいません。
「いや、お前は分かってないだろ」
そんなことは無いと思いますよ。
「それより、話の続き」
待ってください、芹沢さん。
「ここは、やっぱ気合で食って、根性で練習っすね」
それでは食事がお腹に溜まってしまいますよ。吸収の早いゼリーやサプリメントを組み合わせて素早く効率よく摂取するのが良いとは思うのですが、ここは一つ、
「こういう時は何を食べるのが良いんでしょうね」
と芹沢さんに振っておきましょう。
「ブドウ糖とアミノ酸で吸収の早いサプリメントを使うと良い。アミノ酸であれば20分程度で97%が吸収される。特に運動選手であればBCAAを摂っておくべき」
BCAAはBranched Chain Amino Acid(分岐鎖アミノ酸)のことですね。筋肉を構成している必須アミノ酸の3,4割がBCAAで、筋肉のタンパク質分解を抑制し、活動時に主に筋肉でエネルギー源となって燃えてくれます。筋タンパク質の合成を促進するなど、筋肉のコンディションをサポートする効果もあると聞いたことがあります。流石、芹沢さんですね。
「おお、そうっすか……。そうっすね! そうっすよ!!」
駆け出す井上くん。思い至ったら直に行動するエネルギッシュさは素晴らしいですね。
「本当に分かってんのか?」
そんなことは無いと思いますよ。
「分かってない」
そんなことは無いとは言い切れないけれども、きっと上手くやっていると思いますよ。
「まあまあ、分かっているかどうかは別として吸収の早い栄養補給が出来ればいいだけですから」
そんなことは無くても本能で結果オーライを引き寄せる人ですから。
「それより、話の続き」
そうでしたね、お待たせしてすいません。
「はい、何でしょう」
芹沢さんの話はいつも興味深いものばかりです。楽しみですね。
「次の日曜……」
さて、何かありましたでしょうか。
「おお」
木下くんがなぜか反応します。可笑しいですよね。
「詳しく聞いてほしいことがある」
あまり表情を変えない方なのですが、心持強ばっているようにも見えます。
「ついに!! どうすんだ??」
木下くんが興奮気味です。何故でしょうね。
「どうと言われましても、日曜日は空いているので良いですよ」
特に予定もありませんから。
「よかったな、芹沢、未来は明るいな」
あまり感情を表に出さない方なのですが、心持顔を赤らめているようにも見えます。
「……分からない。それがなされるのは私が生きる時空領域とは別の所にあるから」
どういうことでしょうか。私でお相手できるか心配です。
「……まあ、取り合えず、良かったじゃん、お幸せに」
そういう意味ではないと思うのですが。
「その辺にしてあげてください、芹沢さんがお困りですよ」
私も、嫌な訳ではありませんが、少しだけ困っています。
「否、その指摘は間違えではない。通常とは異なった形ではあるけれども、それと類似した性格は有している」
あまり熱を帯びる方ではないのですが、心持エネルギーを持て余しているようにも見えます。
「すみません、まだよく理解していないのですが、どういう意味でしょうか」
曖昧にしていてはいけないことだと思うのです。
「それは、理解の外側にある世界。人の、理論の、宇宙の言葉に翻訳した所で否定後の連続でしか示せない世界。しかし、そこに踏み込んだ経験のあるものであればそれを通して、ある種の直感を創り認識を顕現させる」
芹沢さんにしては、文学的といいましょうか、普段はあまり使わない言葉を選んできます。しかし、これはそうならざる終えないものであって、そこまでたどり着いたからこそ使えるものなのでしょう。そうであるならば、
「それは論理そのものに異を唱えるものですか」
と、聞いておきましょう。勿論答えは、
「違う……」
でしょうが、
「否、正しくは無い。その概念が内部の系に出来る機構に関わると考えられる。しかし、同じかどうかと言う問題に対しては微妙。考えない立場をとるというものに近い」
と、言ってもらえれば何となく分かってくるものです。
「……ん?」
すみません、木下くん。二人だけで話してしまいましたね。
「分かりました。確かにそれは重要な問題ですね。私の方も少し準備をしておきます」
それだけ考えつくされたことであるなら、私もそれ相応の考えを持って応じなければなりませんね。
「よろしく」
無表情に、しかし、いつもより足早、鋭い足音を立てて去っていきます。それだけ気持ちの詰まったものであるなら半端な対応は出来ませんね。
「まあ、お幸せに」
幸せとは性格の異なるものだとは思うのですが、そうですね、概ね幸せでありたいとは思います。
「あっ、あっ、あの!!」
どうしたのですか、筧さん。声が裏返っています。慌てなくてもいいですよ。
「に、日曜日は芹沢さんと?」
話が聞こえていたようですね。
「面白くなってきたな」
木下くんは薄笑いしています。
「はい、そうですよ」
先ほどお約束させていただきました。
「……そ、そ、そしたら、土曜日はどうですか!!」
いつもより力が入っているみたいです、
「土曜日は空いていますよ」
今週末は休めそうにありませんね。
「ちゅっ……次の作品のことで相談に乗ってくれませんか」
勿論、
「はい、喜んで」
それにしても、
「珍しいですね、執筆前のお話ですか」
いつもは完成した作品を読ませていただいてるだけですからね。
「今回は作り方を変えようと思って。その、恩田君はいつも良いアドバイスくれるから」
作り方から変えてしまうと言うのも面白い試みですね。
「面白そうですね。お力になれるか分かりませんが、よろしくお願いします」
楽しみにしていますよ。
「あ、あ、ありがとうございます」
肩を震わせながら深々と礼をします。
「どっちつかずは不味いと思うぞ」
そんな、どっちつかずだ何て、
「そういうことではありま……」
せん、と言いたかったのですが、
「そーしくーん!!」
ものすごい勢いで私の手は引かれ、体は宙を舞い、走り出します。駆け出したら止まらないのが土橋さんです、ここは一先ず身を任せるといたしましょう。
さて、私はどこに連れて行かれるのでしょうか。それにしても、私自身は特別な所は何も無いのですが、回りにはとても素敵でユニークな方が沢山です。もしかすると、つまらない私の話も面白いものになるかもしれませんね。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。今回はここまでですが、よろしければこの続きもお付き合いいただければ幸いです。