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プロローグ

私は夢を見た。

庭に魔法陣を描きとんでもない魔法を編み出した。

みんなからは絶賛の嵐、何より一番尊敬しているお姉ちゃんが喜んでくれたのが嬉しかった。


しかし、それは夢の話。

もはやどんな魔法を使ったのすら覚えていない。

起きると待っているのはいつも通りの日常。


「ミネルバ、朝よ」


お姉ちゃんが私の布団を引き剥がしに来る。

あぁ、寒い。冬は何のためにあるのだろうか。

まだ回らない頭で私は地球に、いや宇宙に疑問を抱く。

時計を見ると時間は8時半。

ん、8時半?1、2、3、4、5、6、7、8……


「はぁぁぁぁ!?」

「どうしたのよ、急に大声出して」

「今日は早く起こしてって言っ……」

(てないじゃん)


早く起きようと思って昨日は早寝したからお姉ちゃんに目覚まし頼むの忘れてた。

終わった〜。

魔法薬学の先生めっちゃ怖いのに遅刻、しかもマンツーマンの補習で遅刻とか殺される。


「あんた今日シュミット先生の補習?」


ニヤニヤ顔でお姉ちゃんがたずねる。

さすがお姉ちゃん。妹の焦り具合で何があるかわかるとは。


「ねぇ〜、お姉ちゃんの箒で学校まで送ってよ〜」

「可愛い妹のために送ってあげたいのは山々なんだけど、」


お姉ちゃんがカーテンを開けると、

そこには大嵐が待っていた。


「さすがにこれでスピード出すのもねぇ」


詰み。

私はおとなしく防水魔法をかけて安全運転で学校へ向かうのだった。


「私も今日の部活は昼までだと思うから一緒に帰ろ〜」


お姉ちゃんと帰れることは嬉しいが、それまでが憂鬱過ぎる。


そもそも補習とは言うが私は馬鹿ではない。

ただ箒で思いっきり事故って入院していたために出席日数が足りていないだけである。

他の魔法学は並だが、箒だけは得意だった。

その慢心が今回の件になってしまった訳だが。


教室に着いたものの、

怖い。

教室から何か赤黒いオーラが出てる。

でも大丈夫。ばっちり通学中に言い訳は考えて来た。

震える体を抑えて扉をノックする。


「……入れ」

「し、失礼します」


2時間の補習を終え、やっとこの地獄から解放された。


「あり、ひっく、あ、ありがとう、ひっく、ございました」


怖いよ。あの人、人間じゃない。

ずっと泣かされたし、泣いても全然対応が変わらない。

私は魔法薬学は来年の選択科目から外そうと心に決めた。


お姉ちゃんの部活が終わるまではまだもう少し時間がある。

私は特にやることもないので暇潰しに図書室に行くことにした。


特に借りたい本もないし、何回も読んだ『プロが教える箒技100選』でも読も。

これを読んでいて思うのはやっぱり箒って素晴らしい。

お姉ちゃんはスピードラン、私はテクニカル。

スピードランは決められたコースでのレース。

テクニカルは決められたコースで技の得点を競う。

この学校はスピードラン部しかない。ていうか大体どの学校でもテクニカル部はない。

理由としてはテクニカルの方が危ないから。

100m落差ジャンプとか危ない技があるから、まぁ学校でしないのは納得している。

わざわざクラブチームに通うのも面倒だから家で独学でしているのだが。

お姉ちゃんにはスピードラン部に勧誘されるが、ただ走るだけはあまり好きではない。

だって、どうせならカッコよく可愛く箒に乗りたい。

逆にお姉ちゃんをテクニカルに引き込みたいのだが、部活でエース張っているのでそれは出来ない。

正直お姉ちゃんは私よりもテクニカルが上手いと思う。箒に関しては敵わない。

めちゃくちゃカッコいいお姉ちゃんである。

しかも他の魔法学も優秀、人付き合いも良い。

素直に尊敬せずにはいられないのである。


姉自慢はここまでにして、私はページを読み進めていると1枚の紙切れがハラリと落ちた。

なんだこれ?

魔法陣が描いてある。

うーん、この魔法陣どこかで見た気がする……

まぁいいや、とりあえず持っとこう。

いつの間にかそろそろ良い頃合いの時間になっていた。


大嵐だったのも午前中だけであり昼からは快晴までとはいかないが晴れていた。


「どうだった、補習?」

「怖過ぎて死ぬかと思った」


お姉ちゃんとツーリングしながら帰る途中で思い出した。


「そういえば、今日こんなの拾ったんだけど何かわかる?」


例の魔法陣を渡すと、


「何かしら。外円はサエルト式っぽいけど内模様は見たことないわね」

「お姉ちゃんでもわからないか……でもこれどっかで見たことあるんだよねぇ」


気になる、非常に気になる。


「ちょっと〜どこ行くの〜」


気になり過ぎて家を通り過ぎてしまった。この調子ではまた事故ってしまう。

私はお姉ちゃんと2人でここに住んでいる。両親は忙しいので基本的に家にはいない。


自室に戻りベッド飛び込む。そしてポケットからあの紙を取り出しもう一度見てみる。

うーん……なんだか近づいている気はする。

その時、開けた窓から風が入ってきた。晴れているとはいえ真冬の風は寒い。

ん?寒い?……朝……


「あっ」


これ夢のやつじゃん。


すごい!これ運命だよ!

私のテンションは一気に上がった。これがもし正夢なら私は凄かったはず、どう凄いかはわからないけど……

とりあえず夢の通りに庭に魔法陣を……

って朝の雨でグジョグジョじゃん

部屋の床でいいや。


描きながら気づいたことがある。

呪文がわからない。

さっきみたいにそのうち思い出すでしょと気軽に考えていたのだが

描き終えた瞬間に魔法陣が発動した。


家全体がガタガタ揺れ、本棚から本は落ち、ベッドの布団は舞い上がる。

人生で三番目に大事な箒を抱え私は頭が真っ白になっていた。


「どうしたのっ!?」


お姉ちゃんが部屋に飛び込んでくる。

揺れは一層酷くなり、物は浮かび上がり魔法陣を中心に渦巻き始めた。


「ミネルバっ! 早くこっちに」


お姉ちゃんが私に手を差し伸べる。

行かなきゃ行かなきゃ。

でも足は動かない。

そんな間にも揺れは大きくなり、渦も大きくなる。


「早くっ!」


こんなはずじゃなかったのに、夢ではもっと上手く……


いよいよこれ以上酷くなると家が壊れるといったところで、突然揺れは収まった。

私は安堵して急いでお姉ちゃんの元へ駆け寄った。

いや、駆け寄ろうとした。

魔法陣の横を通り抜ける瞬間、魔法陣から強い光が放たれ、私は包み込まれた。

目の前が真っ白になっていく中、私はお姉ちゃんに向けて懸命に手を伸ばした。


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