子対えて曰わく 子、政を為すに焉んぞ殺を用いん。
「それでは儂の名の下に乾杯」
王はそう叫ぶと乾杯が始まった。
時間は少し遡る。武器庫からの帰り道のことだ。
「さっきの話の続きです。 カエデさんと何が起こったのか教えてください」
顔回は質問しだした。勿論他の人に聞こえないくらいの声で。
「ああそれはねぇ」
顔回に起きたことを説明する。すると顔回もようやく理解してくれたみたいだ。誤解は解けたようだ。
「そういうことだったんですか、ああよかった。 先輩がどっか遠い所へ行きそうで怖くて、それで駄目と思ってるんですがカエデさんのことが憎くなって……」
顔回よ、それは嫉妬というのだぞ。
そう伝えようと思ったがやめた。卵から孵った雛鳥は初めに見た生き物を親と思うそうだが、顔回にとって俺はそういうものなのだろうかなとか思ってみた。
そして、食堂に着き間もなく宴会が始まったわけだが
「それでは異世界人の訪問を記念して例のアレを始めるとするかのぉ」
おおおおという歓声やどよめきが上がる。そして先程の刀が食堂の中にあるステージの上に置かれる。
「四天王招来」
王がそう叫ぶと3人の男がステージに上がる。そして王の合図と共に岩に刺さった剣を抜こうとする。だが全く1ミリも剣は動くことない。
「ああこれって」
エクスカリバー。イギリスに伝わる伝説の剣だ。真の勇者でなくては岩から抜くことの出来ないと言われていた剣であり、騎士の中の騎士アーサー王が岩から抜いたとされる。
「なんじゃお主がいた世界にも似たようなものがあったのか」
「伝説の中だけですが」
「では抜いてみよ、これは麒麟の骨で作られた剣でな、泰平の世を築くことが出来る王の素質を持つ者にしか抜けぬという剣なのじゃ。 」
王は続ける、
この世界では試せる者はみな試したのじゃが一向に抜けなくてのぉ。 それ以降異世界からやってきたものには必ずこの剣を抜かせるようにしとるのじゃ」
「なるほど……」
麒麟、それは泰平の世にしか現れぬという伝説上の生き物だ。
孔子の死ぬ間際、彼の住む国に現れた。だが、その国は泰平とは程遠い国だったのだった。
さらにその麒麟が気持ち悪い生き物として民衆から雑に扱われ殺されていくのを見て、孔子は自分の人生は何だったのかと深い絶望を抱いたまま死んだとされる。
そこで考える。ふむ伝説の剣は泰平の世を築く王の素質を見極めるらしい。それは本当に力を試しているのか、いや違う。
おそらくこの剣が試しているのは徳だ。世界を天下泰平に出来るのは徳ある者が治めるしかないだろう。
しかし徳をこのような簡単な試練で判断するのは難しい。だったらまともに試練をやらなければいい。
そこでもう一ついい逸話を思い出した。
「かつて私の世界にはある1人の優れた王がいました」
「ほう」
王はこちらの話を熱心に聞こうとしている。好都合だ。
「その名はアレクサンドロス大王といいます。 彼は若い頃ある大樹に出会いました。 その大樹は神によって縄が結び付けられていたのです、そしてその縄を解くとアジアの王になれるとの予言があり、何人もの武者や知恵者が挑みました。 けれど誰一人としてそれを解くことは出来なかった」
「アジアとは以前異世界から来たものに地図を見せてもらったことがある。広大な地域だったのぉ。 そしてその縄はまるでこの剣のようだな」
「はい、そしてそれから数百年してある男がその結び目に挑みました、それこそがアレクサンドロスでした。 彼は無事その結び目を解くことが出来たのです、そしてその大樹に当てられていた予言通り彼は偉大なる王となりました」
「ほう、その男はよっぽど優れた頭脳を持っていたらしいな」
「いえ、こうしたのです」
そういいながら四天王の1人の武器のハンマーを奪い取る。重い。
だがそれを必死に剣の刺さった岩に振り下ろす。岩は粉々に砕けていった。
「おお、素晴らしい。 剣を抜くことは出来なくとも周りの岩を破壊する。 これは剣を抜いたも同義だ」
「本当だ。 凄いです先輩、この発想まさに感服です」
顔回は驚き目を丸くする。やはりこのやり方が正しかったのか。
「はい結び目なんて刀で切ってしまえばいいのです」
したり顔でいう。
するとヒソヒソと後ろから声が聞こえてきた。
えっあれでいいの? ぶっちゃけあれ反則だろ。
こんなの誰でも思いつくけど普通やらないよね…… この異世界人自分は発想力があるとか思ってるのかしら。
うちの息子8歳だけどこのやり方思いついてたわよ、勿論止めたけど。
そんな言葉が聞こえてくる、知ってた。ぶっちゃけこんなのよっぽどの馬鹿じゃない限り誰でも思いつく。
生まれたての顔回はともかく王様…… よくこんなんで国がまわってたな。
「剣を持ってみなさい、スマホで記念撮影するから」
王が命令する。さっそく抜いた剣を持とうとすると
「あっ……」
根元から折れてた。考えてみれば当たり前だ、ハンマーで思い切りぶっ叩いたんだから中の剣も無事なはずはない。それこそデュランダルでもない限りは。
「これはどういうことかね」
王の声色が変わる。
「あっあっあっ」
ヤバい、誤魔化さなくては。ここで友人の宇海のギャグを思い出す。今こそこれをやるしかない。
「お父さん指」
そういって左手と右手の親指を見せる。
「お母さん指」
そういって左手と右手の人差し指を見せる。
「W不倫」
そういって左手の人差し指と右手の親指、左手の親指と右手の人差し指をくっつける。これは決まった。クラスメイトにやったら8人に6人は笑ってくれた大技だ。
が、王はクスリとも笑わなかった。
「うちの家庭は……」
カエデが絶望しきった顔で言う。どうやら夫婦が離婚したとかの複雑な家庭環境らしい、このままでは逆効果だ。
「死刑だ」
王は残酷にも罪を宣告した。