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異世界孔子伝 〜End Of The World?〜  作者: さいたまのそよかぜ
第1篇 克己復礼の章 Beginning Living In Another World
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子曰く 小人閑居して不善を為す、君子は必ず其の独りを慎む

 色々なことがあったが無事城へ着いた。

 城の前にはカエデが立っていた。


「あっ異世界人!!」


「えっとあの時は命を助けてくれてありがとう、お礼と言っては何だけど数学得意だから教えようか……?」


「もう、忘れろって言ったでしょう!!」


 あっそう言えばそんなことを言っていたな、忘れてた。カエデは烈火のごとく怒り出す。

 その時後ろから小さな女の子がカエデの背中を叩く。



「お姉ちゃんみっともないからやめて他の人も見ているよ」


「はっ、いつの間に…… モミジありがとう」


 そう言うと落ち着きを取り戻す。ラパパッチさんが言っていた王女の風格とやらが漂い始める。

 モミジと呼ばれた少女はカエデに似ているおそらく姉妹だろう。


「私は第一王女カエデ、あなた達の王への面会を許可します。 着いてきなさい」


「ええ……」



 お前らが寝てる俺を勝手に馬車に詰め込んで連れてきたのに面会の許可って何様のつもりかよ?と言いたかったが唾を飲み込んだ。


「はいーす、王女様。よろしくよろしく」


 しばらく城の中を歩いてから、カエデはここから先は異世界人だけ付いてくるようにと言った。

 そして部屋にたどり着く。着いたと同時に椅子に腰掛ける。


「あなたも座っていいわ」


「うへい」


 ここにきてカエデが自分のことを気に入っているということを思い出す。もしかして告白か!?


 そんなことを考えたら返事がおざなりになってしまった。というか自分が女性に対してコミュ障なのを今思い出した。絶対会話続かねぇ……



「さっきもそうだけど気の抜けた返事ね、所詮礼儀作法の知らない異世界人だから仕方ないとはいえ、自らを襲ったオークの死体に手を合わせていた、あの時の礼儀正しく豪気に溢れた様子はどうなったの」



 あれは誤解です。とはいえオークのことを大蔵省官僚と間違えてたなんて言ったら、頭のおかしい人呼ばわりされる。

 自分で自分の頭がおかしいのは自覚してるが人に言われるのは嫌だ。



「あれは第2の人格君子ですね」


「君子!?」


「はい、私の3つの人格のうち一つです。 主人格の秀、クズの人格の小人、礼儀作法に優れ他人に対する愛に溢れた人格の君子に別れてます」


「そう君子ね」



 軽い冗談のつもりだったのに、まさかこの世界には本当に俺の言ったみたいな多重人格の人がいるのか。本気で信じてるらしいぞ、不味い、大変不味い。



「君子に会わせなさいよ」


 ヤバいどうする。このままうまく演技して乗り切るか。さすがにバラしたら怒られる、相手は王女だぞ。



「うん……、うん……、うーん……、ううーん……、ううーん。ううう……」


「君子今少しお話ができる状態でしょうか」


「ええ……、うーん……、まあ、うーん、うーん……、あ、うーん、あ、うーん……、うん、うーん……、ああ……、うーん……うーん……、うーん……、うーん……、うーん、うーん、うーん、カ、カ、カエデ? カエデ?」


「君子会いたかったですわ」


 そう言うとカエデは周りに人がいないのを確認してから言った。


「私あなたに恋してしまいましたの」



 さっきまでの自分に対するつっけんどんな態度や王女としての態度とは全く違う、凛々しくもお淑やかな王女としての態度で振る舞う。


「えっ!?」


 思わず声を上げてしまう。


「その感じ、あなたもしかして君子ではなく秀なの?」


 異世界に来てから自分の妄想が初めて当たった気がする。しかしとんでもなくズレた形で。

 彼女が恋してるのはあの時の自分なのだ、本当の八王子秀ではなく仮の人格の君子。


 それにしても君子かぁ。俺はこれから先もしこの子と付き合うとしたら、このイタコ芸を続けないといけないのか。



 知り合いの棚渡君を思い出す。

 彼は中二の時同じクラスだったのだが、家族単位で新興宗教にハマっていた。そして夏休み明けのある日学校に教祖の霊言集とやらを持ってきたのだ。

 そこには教祖が色々な有名人の守護霊を呼び出し自分の体に乗り移らせ、喋らせたという内容が乗っていた。ちなみに彼は中3の時に学校に来なくなって久しい。



 あれが参考になるとは人生何が起きるか分からぬな。そう思いながらカエデを騙し続けることにした。


「カエデさん、あなたのような魅力的な女性から告白されて私も大変嬉しいです」


「なら!!」


「いけませぬ、私とあなたはまだお互いをよく知らぬ身、そして私がこの人格でいられる時間は限られてます。 そのような私が恋などいけないことです」


 これでカエデが納得してくれれば、とそこまで考えたところで自分の頭の中でカエデをさん付けしなくなっていることに気付いた。是非もないね。



「ならあなたが主人格になればいいじゃないですか」


 君子(仮)を主人格にするだって。この提案は自分にもメリットはある。


 君子を主人格にしたと言って一生君子の演技を続けていれば自分は彼女と付き合えるのだ。王様になってなれるかもしれない。でも……


「私は」


 そこまで言ったところで顔回を思い出す。そうだ顔回と約束したんだ。


 カエデの求婚に乗ったら必然的に顔回の前でこのみっともない演技を晒すことになる、それはできない。


「君子は義にさとり小人は利にさとる、私は自分の利益のためではなく人としての道、それを大事にしております」


「ですから、あなたの提案にいい返事をすることができません」



 そこまで言ったところでカエデが明るい顔をしているのに気付いた。


「いい返事ね、それでこそ私が恋した男だわ。 どんな手を使っても私のものにしてやるから」


 カエデがそう言い放った直後、自分で自分の頭を壁に打ち付ける。



「大丈夫、君子!?」


「ってて俺今まで何してたっけ」


「!?」


「どうしましたか王女さん」


「なっなんでもないわ、そうこれ」


 カエデは顔を赤らめながら棒状のものを渡す。


「アシッドカワウソとトキシックカワウソとイチゴエリクサーで作ったケーキよ、君子に食わせなさい。 間違えてもあなたが食べるんじゃないわよ」


 不穏な名前のカワウソだが見た目はすごく美味しそうだ。


 カエデと2人で部屋を出る、そして食堂に着く。そこには既にラパパッチと顔回が待っていた。

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