子曰く、故きを温ねて新しきを知る、以って師と為るべし
「えっ顔回がギフト!?」
まさか俺に与えられたギフトとやらは妄想を具現化する能力で俺の妄想で顔回は生まれたとか、助っ人を呼ぶ能力でそれで神の元から遣わされたとか色々考えるものの何を言いたいのか分からない。
「えーっとですから先輩にはギフトはありません」
えっ……えーーーーーーーーーー
ギフトがあるのかないのかどっちだ?
「異世界からの訪問者は二種類のうちどちらかを受け取れます。 一つはギフト、そしてもう一つはコンポーネントというものです。」
「コンポーネント?」
「えーっとコンポーネントっていうのは例えば何でも切れる剣とか魔力を無限に編み出せる杖とかそれ自体が権能の域に立ってしてるアイテムのことです」
「!?まさか」
「そういうことです、ナビゲーションコンポーネントつまり私こそが先輩が異世界に来た時に与えられたものです」
そうかそうだったのか。では何で黙っていたのか。それが気になる。
「すみません、ギフトの存在を知ると私は要らないからその代わりにギフトをよこせと言うかもしれない。 それが怖かった。」
顔回は涙目で言った。
「おいおい、そんな酷い人に俺が見えるか。 この俺にはそんな権能とやらがなくとも『能力』がある。 ギフトの代わりのことなんて児戯に等しいよ」
「トラウマがあるもので……」
トラウマ? 以前俺以外の誰かに裏切られた経験があるのだろうか?
いやでもエグゼクティブが俺のために作り出した存在が顔回なわけだし考えすぎかな。
「ギフトは異世界からの訪問者は自分で選ぶことができないんです。 深層心理で一番欲しがってるものを手にする」
「おそらく先輩は女の子と接することを欲していたからこうなったのでしょう」
「なるほど残念だなぁ、いやギフトもコンポーネントも両方欲しかった。 でも俺の他にも異世界からの訪問者はいるわけだしギフトの存在がバレると思わなかったの?」
「その心配はありませんよ、だって」
少しを間を開けていう。
「もう先輩以外の異世界人は一人も生き残ってませんから」
突然顔回の話のトーンが変わる。 普段の話しぶりから考えられない冷徹な印象を受ける。
「どういうこと?」
聞こうとしたその時、ラパパッチが店から出てくる。手に鍵のようなものを持ってる。
「交渉に手間取りました。 お待たせしてすみません」
これ程入手に時間がかかったのだ、きっと凄いものなのだろう。伝説の古代兵器とか。
それから3人で店の裏の空き地へ移動した。看板が立てかけているが見かけない字で駐車場と書いてある。
どうやら言語の壁の崩壊とやらは書いてある字にも当てはまるらしい。
「これって……」
そこにあったのは自動車だった。 ト〇タ製品である。
「何でこの世界に……」
驚く自分を見てラパパッチは説明する。
「これはあなた以外の異世界からの訪問者が持ち込んだものですね」
3人で車に乗り込む。うーむ普通の車だ、それしか感想がない。
「これは3代目なんで質はいいはずですよ」
「3代目!?」
「異世界から持ち込まれた純正品を1代目とします、そして複製魔法によって増やされたものが2代目、それをさらに増やしたものが3代目ですね」
顔回が補足する。
「この世界には大変高度な魔法ですけど複製魔法っていうのがあるんです。 それを使えば本物そっくりのものを量産することも可能です」
「ただ2代目3代目と複製を重ねてくうちに品質や耐久性、それに複製成功率が劣化していきます」
「そうです、一般的には高度な、それこそ王直属の親衛魔導師であれば六代目までは複製可能ですがそれ以降は動かなくなります。」
すげぇなおい。
「市井で広まってるものは一般的に4代目以下なのでこの車は入手するのに手間取りました、もっとも本物を乗ったことあるであろうあなた方からしたら酷い出来のものでしょうが」
「いえ別に気になりませんよ、強いていうならシートが硬めなのと揺れが大きめなことくらいですかね。 それも馬車と比べたら全然」
「そう言って頂ければ幸いです」
車は進む。またしても顔回ははしゃいでいる。
「こんな凄いスピード、魔法でも再現するのは難しいですよ。 本当に凄い」
しばらくして執事が自分に先程街中の人達が弄っていた板のようなものを渡す。
「今運転で手が離せないのでスマホで電話をかけてもらってよろしいでしょうか」
「スマホで電話?」
こんな小さな板で電話だとが出来るのか!? そうかここは異世界、きっとこれは高度な魔法技術を使った1品なのだろう。
「失礼ながらお聞きしますがあなたはいつの時代の人間でしょうか」
「西暦でしょうか平成でしょうか、分からないけど西暦なら2002年です」
「あーなるほど」
ラパパッチさんは納得したような表情を浮かべる。どういうことか。
「操作方法を教えします」
しばらく経ってようやく電話をすることに成功した。ラパパッチさんはハンドルを握りながら手を離せないため口頭の説明となりなかなか習得するのが難しかった。
このスマホとやらは首都周辺でしか繋がらないらしい、しかし高価なアイテムというのは知られてるため盗難に遭いやすいのだとか。
ただ盗んだ泥棒も使い方が分からず包丁として使うのが関の山で少し田舎に出るとスマホを使った料理を振る舞う店があるらしい。
「もしもしカエデさんでしょうか」
電話をかける
「もしもしじーやん? 早く帰ってきて私もう勉強疲れちゃった。 お父様ったら数学のドリルを30P終わるまで部屋を出ちゃいけないって言うの、あっあとついでに城の近くに最近出来たスイーツ屋からケーキ買ってきて」
自分を助けてくれた時はあんなに凛々しい感じだったのにこんなになってしまっていて、甘えモードというやつか。思わず声を漏らす。
「その声もしかしてあなたラパパッチじゃない? もっもしかしてあの異世界人!?」
「ご名答」
「はぁ!? 今話したことはすぐ忘れなさい。 で本題はなんなの?」
そう言われても忘れられるものではない。
「自動車借りるのに手間取ったから着くの遅れるらしいですよ。 なのでドリルはその……1人で頑張ってください」
「はぁ!?」
何か言ってるが気にしない。伝えることは伝えたし電話を切った。
「スイーツを買ってくるように言ってましたよ」
「御意」
かくして車はスイーツ屋の方へ向かった。
「カエデ様は私のことをじーやんと呼んでいたでしょうか」
スイーツ屋から出てきたラパパッチに聞かれる。
「はい」
「そうですか、一応カエデ様は公式の場というか人様の前では凛々しく第一王女にふさわしい風格を持っているお方なのですが私の前だと緩みきってしまうんですね、何度も注意してるんですが」
その時初めてラパパッチさんのことをじーやんと呼んでいた理由が分かった。
おそらく執事ではなくおじいちゃんの略なのだろう。ラパパッチさんは初老を越えてる年齢だ。カエデさんにとっては祖父同然なはずだ。
一足先に乗り込む。車の外では顔回とラパパッチさんが喋っている。
何を喋っているのか。まあどうでもいい。
そんなことよりこのスマホとやら音楽の再生やゲームもできるらしい。
どういうメカニズムか知らないがよっぽど高度な術式が編み込まれているのだろう。異世界ファンタジー様々だ。
一方窓の外では
「あのスマホという板、全く魔術の反応を感じなかったのですが、もしや……」
「本人には黙っていて下さい、彼はスマホをこの世界の魔術製品だと思っているらしいですしそのままにしておきましょう。 いずれ彼も元の世界に戻るわけですし10年以上進んだ技術と触れ合っていい結果になるとは限りません」
「いずれ帰る……」
分かっていた。いつかは別れの時が来ることを…… しかしまだ先輩は異世界に来たばかりだ、そういうことは後で考えればいいだろう。
そう顔回は思考を先延ばした。
「でもその割には先輩スマホで楽しんでるように見えるのですが」
「え!?」
ラパパッチは車の中を覗いた、そこではスマホのゲームでハッスルしている八王子がいた。
「この鳥を引っ張ってパチコンで飛ばすゲーム面白い、あっこのブロックを設置して建築物を作るゲームもいいなぁ」