子曰く 巧言令色、鮮なし仁
顔回との会話を通して自分のコミュ力が多少回復していくのを感じた。
ラジオの周波数を合わせるように少しずつ話し方を変えていく。そうしてベストな話し方を見つけていった。
これが出来たのも顔回のおかげだろう、自分の話を全てきちんと聞いて返してくれる。
こんないい子で人の話をよく聞く子は元の世界にはいないだろう。
中にはつまらないようなありふれたような話が沢山あった。
しかしどれも顔回にとっては初めて聞く話のようで目を輝やかせていた。
そうするとこちらももっと話したくなってしまう。
「というわけで孔子の弟子顔回についての話は終わりです」
「えへへ、ありがとうございますマスター、有意義な時間でした」
小動物のような顔回の笑顔を見て疲れが吹き飛んだ。
「あの一ついいかな」
「なんでしょうか」
「そのマスターという呼び方を止めて欲しいんだ…… なんというか体がくすぐったくなってくる」
マスターという呼ばれ方はやはり恥ずかしい。
今は二人だからいいが他の人がいたらどういう関係だと思われるだろうか。とりあえず提案してみる。
「私は異世界に1人で来るマスターのためにつくられた存在であるのでマスターと呼ぶのは当然なのですがなんとお呼びすれば」
「『先輩』そう呼んでくれないかなぁ」
先輩と呼んで欲しい正当な理由があるのだ。もし断られたとしてもここで自分の願いを聞いてくれたら気が変わるだろう。
この自分が叶えたいと望みながらも永久に叶わぬ願い、それこそが可愛い女の子に先輩と呼ばれることなのだ。
男子校に入った時点でもはや可愛い女の子に先輩と呼ばれることは中高生の間あるまい。
それゆえに自分は欲するのだ。吸血鬼が血を欲するように男子高校生の本能として後輩を……
後輩属性の女子を。
こんな可愛い女の子にせんぱーいと呼んでもらった暁には、幸せ過ぎて昇天してしまうこと間違いなしだ。
「えっと先輩ですか、分かりました先輩これからよろしくお願いしますね」
ウッヒョーーーーーーキターーーーーーー!!
心が震える。心臓がバクバクする。五臓六腑が爆散しそうだ。
意識を失いそうになるが顔回が喋り出したため必死に耐える。
「私からも一つお願いがあるのですが」
顔回は続ける。
「飾らず正直な先輩でいてください」
「どういうことでしょうか」
「分かるんですよさっきから話していて。これは素の先輩じゃないでしょう。私のために無理してるというか普段の喋り方を抑えてるそんな気がします」
なっなんということだ。自分の普段の喋り方がバレていたのか。驚き桃の木山椒の木だ。
彼女から出された交換条件だ。決して断るわけにはいかない。
「フハハハハハ、貴様なかなかやるな千里眼か何か万物の本質見通すいい目を持っておる。八王子秀とは仮の姿、我こそが本当の姿だ」
さっきぶりにこの喋り方を解放する。気持ちいい。
「先輩が先輩じゃない!? よく分からないけどこれが本当の先輩なんですね、では初めまして本当の先輩」
合わせてくれた!! なんといい子なのか、クラスメイトにやっても、またいつものかそういうの卒業しろよとか、そうですかーと言って流されたりとか、帰れとか、控えめに言って死ねとか酷い言葉が返ってくるのに……
もはや天使、いやあらゆる天使の頂点熾天使こそが彼女にふさわしい。自然に涙が流れてしまった。
「先輩が泣いてる、何か変なことを言いましたか?」
「ええんやええんや、心が泣きたがってるんだ……」
「はっはぁ…… 変な先輩」
そんなことを言いながらお互い笑いあった。笑い疲れて寝てしまった。
朝になった、揺れで目が覚めると何故か自分が馬車の中にいることに気付いた。