垂加神道
誰も俺の弱気な発言を咎めるものはいかなかった。他の人も分かってるんだ、勝ち目はないなんて総合的にロジックするまでもなく二秒で分かることだ。
かくして会はこれで解散になった、再集合は明日の朝、壁の前だ。
ここは首都の中心部にある市場、明日世界が滅ぶなんて知らない人達は今日もいつも通り働いていた。
「なあ顔回」
「何でしょうか先輩」
「俺もう戦えないわ……」
心からの言葉だった。自分の頭の中は混乱していた、この世界が壊れてしまうことや孔子の正体などあまりにも受け止め難い真実が多すぎた。
「なぁここにいる人たちは明日世界が滅ぶことを知らないんだよな」
「そうでしょうね、明日世界が滅ぶと知らないでいつも通りの生活を送る。 残酷なことなのか幸せなことなのか分かりませんが」
俺にもそれは分からない。ただこの光景が明日の夕方には消えてしまうとなると虚しい感じがする。
「なぁ本当に勝ち目ってないのかな、急に相手が油断したり戦う気がなくなって撤退したりとかさ」
「こちらが勝てる可能性は0%です」
顔回は言い放つ。顔回のことだからこちらが勝てるであろうありとあらゆる可能性を検証した結果出た数値なのだろう。
信じるしかない。 いやまてよ
「じゃあ初めから戦わなければいいんじゃないかな」
「それって……?」
「この世界の全人間を俺のもといた世界へ移住させる、そしたらこの世界が滅ぼうがみんな生き残れる」
自分ではナイスアイデアだと思った。しかし顔回の顔は暗いままだった。
「不可能です、ここの人たちはこの世界が居場所なんです。 別の世界に行ってもそうである限りこの世界の消滅に巻き込まれてしまいます」
「居場所……だって?」
居場所を作るなんてそんなの間に合うはずがない。そもそも俺のいた世界に数10万もの人間を急に受け入れられるところはあるのだろうか。
日本政府はおそらく難民を受け入れてくれないだろうし。
「それにこの世界は全てに他の世界から交流を断然されています」
「え?」
「おそらくこの世界の滅亡に巻き込まれる理由にはいかないということでしょう。 ありとあらゆる世界がこの世界と行き来する門を破壊、ないしは封印しています」
それって俺はこの世界から帰れないということなのか?
「大丈夫です、先輩はここの世界で過ごしてきた期間は短く、まだ元の世界にも居場所があります」
「この世界が滅ぶと同時に元の世界へ帰れるはずです」
その時後ろから声がする。
「そう……なのか」
あの人は確か闇斎さん。
「ああおかげで決心が付いたよ」
「どういうことですか?」
「俺はな、はなっからこの世界を救う気はなかった、元々自分より賢い奴に会いに来ただけなわけだからな。 だけどここでの人々の生活を見て思った」
闇斎は付け加える。
「ここの住民は俺の元いた日本と何ら変わりはないということをだ。 だから守り抜くことにしたよ」
「それって……」
「俺は死ぬまで戦い抜くさ、この世界のために。 もしここが日本だとして孔子や孟子が大将になって攻めてきたらどうするか?」
俺ならどうするだろうか?
親よりも尊敬している2人に武器を向けられるだろうか。
「国のために戦いこれをとっ捕まえるのが俺達の今まで学んできたことじゃないのか?」
自分の中の惑いが溶けていくような気がした。そしてそれと同時に思い出した。山崎闇斎の逸話を。
彼は儒学者の中でも神道や国家への忠義について重んじた男だ。そして、ある日弟子に問いかけたというその質問は今も記録に残っている。
孔子と孟子を大将にして日本に数万の兵が攻めてきたらどうするか?
何も答えられない弟子に対して、闇斎はこれを倒して孔子と孟子を捕虜にするのが正しいと言い放ったらしい。
そんな時、後ろで顔回は決意するように言った。
「この世界を救えるかもしれない方法が一つあります」




