子曰く 己の欲せざる所は人に施すこと勿れ
ブレスは幸い俺には当たらなかった。しかし、後ろの方を走っていた数台のバイクに当たったらしい。
後ろの方から悲鳴や怒声が聞こえる。
「あのブレス、当たっちまったら『消失』しちまうらしい」
「そんな……」
影の巨人ですら四天王2人と顔回、カエデの布陣で戦っても相手にならなかったのにドラゴンなんて……
それも遠距離から消失効果のあるブレスを撃ってくるとは無理ゲーにも程がある。
「総員左に曲がれ」
騎士団長は指示をする。皆左へ曲がろうとするが後方のバイクが一部曲がりきれない。
そうしたバイクは敵に突っ込んで吸収されてしまう。
「被害甚大、後方から15騎が消失……」
「畜生、後方と言えばアリワラ達か…… 奴は来月結婚するって言ってたのに」
「奴の犠牲を無駄にするな」
応という掛け声が後ろから聞こえてくる。
団長はさすがのカリスマ性だ。後ろで起きていた混乱も収まったみたいだ。
「なんだあいつらは……」
ふと目の前を見るとお面をつけた男が2人立っている。
「こっちこっち〜」
2人は手を振ってる。呑気すぎるだろう。
俺の両隣の男はバイクを下ろし2人を乗せる。
「助かりました、ありがとうございます」
1人の男がお面を外す。若い、俺と同じくらいの年齢だ。
もう一人の男はお面を外さない。
「マンドさんもお面を外して下さいよ」
「それやっちゃうと正体バレちゃうからね。 ここで混乱を招くのは得策ではない」
そう言い終えた後で、男は俺の方を向いて言う。
「この乗り物は首都まで行くのかな」
「えーっと俺に聞かれても…… 団長さん」
「うむ、今は逃げてる段階だが落ち着いたら首都へ行く。 俺達はお尋ね者の身だが非常事態ゆえ難民を受け入れてくれる首都に行くしかない」
「なるほど、では首都へ行きましょう」
マンドと呼ばれた男は不敵に笑う。
何故、最初俺に聞いたのか。団長は俺の隣にいるわけだし。
「さて自己紹介しようか、僕の名前はアナクシマンドロス、そしてもう一人の真面目だけど情に厚くて少し喧嘩っ早い男が山崎闇斎」
「山崎闇斎!!」
ついに探していた奴に会えたんだ。
「そう言えばお前探し人がいたんだっけな」
俺の乗ってるバイクの運転手が言う。
「はい、エグゼクティブの遺言に従って山崎闇斎さん、あなたを探していました。 俺の名前は八王子秀」
「よろしく」
とりあえず自己紹介を済ませる。アナクシマンドロスの方を見ると
「エグゼクティブが死んだ…… ああついに僕だけが残ってしまったわけか」
と、何やらブツブツ言っている。
「エグゼクティブの知り合いなんですか?」
「あっああ、旧知の仲でね。 少し動揺しただけさ」
「話しているところ悪いが後ろから一体が凄いスピードで追い上げてくるぞ」
振り返ると、一体のドラゴンが他のやつをつけ離してもうスピードで追跡していた。
「人が乗ってる……」
ドラゴンの上には人が乗っていた。顔は分からないが、影に取り込まれている様子はない。
「ちっアレが黒幕ってわけか? 仕方ない、作戦開始だ」
団長が叫ぶ。それと同時に後ろの方から騒がしい音が聞こえる。
「第一の壁 炎の壁」
振り返ると、後ろの方の男達は叫ぶとバイクのエンジンからガソリンを漏らしていた。
そしてそれに火をつける。
「凄い炎の壁が出現しました」
顔回は初めて見るのか。俺は1度食らったことがある。
「あの巨人達は魔術はてんで効かないが、物理なら大幅に軽減されるだけで少しダメージが入るんだ」
「なるほど」
飛んでいる影のドラゴンも含め影の巨人達は炎で動きが止まる。
しかし炎の壁もやがて突破されてしまう。
それを見た団長は叫んだ。
「仕方ない、やるか。 避難民を誰も乗せてない騎士団員は俺の元へ集え、始めるぞ最後の戦法」
「第二の壁 人の壁 逍遙遊騎士団はここに健在なり」
「え……」
団長はバイクの向きを急に変え引き返す。それに他の面々も着いていく。皆避難民を乗せてないバイクだ。
そして、団長達は隊列の一番後ろに着くとまた引き返し前に進み始めた。
「どれだけ時間が稼げるか、どれだけ生き残れるかは諸君らの頑張りに関わっている。 命を賭して守り抜け」
まず、3人のバイクが動きを止め、運転手が降りる。そして彼らは振り返ると武器を取り出し影の巨人に向かう。
「うおおおおおおおおおおおお」
雄叫びを上げて突っ込んでいく。当然勝てるはずもない、影に飲み込まれてしまった。
「3人で15秒か…… 次行くぞ」
次も、また次も3人男がバイクを降り特攻していく。
「つけ離せてきている!?」
今にも追いつかれそうだったのが一転、影の巨人達とかなりの距離が取れていた。
だが……
「くそっみんな、みんなやられちまったのか……」
もはや特攻する奴は団長を含めて5人しか残ってなかった。
団長は振り返り、大きな声で言った。
「俺は今から突撃する、レイジングには再戦の約束守れなくてすまないと謝っておいてくれ」
そう叫んだ後、団長は最期まで付き従った4人に労いの言葉をかけ言う。
「残った俺達は選ばれし精鋭だ、バイクに降りる必要はない。 狙うはあの竜に乗った人間のみ行くぞーーーーーーー 」
男達は突っ込んでいく。
まず一人の男が巨人の手に捕まれ離脱した。しかし他の4人には股の下をくぐり抜け生存した。
そして、2人が竜のブレスに撃たれ跡形もなく消失する。
竜は着地した。1人は竜の目の前を挑発するように回り出す。そして敵がその存在を忘れてから最後に残った男、団長が尻尾から背後に乗る。
「クソっ、タイヤが影に飲まれていく」
タイヤが段々と影に飲まれていく中、団長は影に触れるタイヤの面積を最小にするある走り方を生み出した。
それはウィリーとこちらの世界で呼ばれるものだとは知りもしなかったが。
そして恐るべき執念によりついに団長は竜の背を伝って頭上、男が立っているところへ移動した。
「くらえええええええええええええええええ」
「そんな馬鹿な……」
竜に乗る男は驚愕した。こんなこと人に出来る御業ではないと。
一方、騎士団長は別のことを考えていた。
このバイクを自分に託してくれた異世界人、リーゼントと言う奇抜な髪型と風変わりな服を着た彼に初めて教えられた風と一体化して走ること、そして彼との死別。
全てはこの日、この時のために会ったのだ。
「先に逝かせてもらうぜ」
逍遙遊騎士団長はそう叫ぶと、備え付けた発火装置を作動させる。火は内部のガソリンに点火しやがて爆発した。
「敵の動きが止まった……」
団員の中では動揺が走っていた。だが、それでも歩みを止める者はいなかった。全ては団長の犠牲を無駄にしないために……
「巨人が一体こちらへ向かって走ってきます」
何だって!! そう思い振り返ると巨人が一体こちらへ向かって走ってきていた。
竜に乗っていた男は語る。全ての犠牲は無駄だったと。
しかしそれに応えるようにアナクシマンドロスは口を開いた。付けていたお面を外して。
「全ての犠牲は無駄ではなかった、今この時のためにある」
「あなたは……」
八王子秀が顔を覗き込むと、そこには知った顔があった。
アナクシマンドロスは闇斎に言い聞かせるように言った。
「そろそろ頃合いだ、闇斎君。 君の真の力を開帳してくれ」
闇斎は呟いた。
「御意」




