章末 朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり
ついに間章終わりです
舞台は最終章へ
「おーいエグゼクティブ、早く出てこないと夢で起きた出来事をばらすぞ」
俺は叫ぶ。エグゼクティブはどこかからか見てるはずだ。
夢の中とはいえ、人間に負けたのは恥だ、きっと来るだろう。
「おいおい止めてくれよ……」
振り返るとそこにはエグゼクティブが立っていた。
ビンゴだ。
「エグゼクティブさん」
王がエグゼクティブの元へ駆け寄る。
「おー久しぶりだな、かれこれ十年ぶりか」
王とエグゼクティブは喋り出す。久しぶりの再開のようだ。
「本題に入っていいですか?」
感動の再開に水を差すのも悪いが、こちらも用があって呼び出したのだ。あと王が目の前にいる以上一応敬語で接しておこう。
「この写真見てください」
「あーこの写真か、懐かしいな」
エグゼクティブは懐かしがってるようだ。
「この写真の女の人について教えてもらえませんか」
「あーーそこね、やっぱり気づいちゃったか」
エグゼクティブははぐらかそうとするがそうはいかない。厳しく問い詰める。
「その女性は私の妻、カネムラ・ナビコ。 2000年代の日本から来た師匠の次の次にこの世界に来た異世界人さ」
「その話は知っています、顔回と彼女の関係を知りたいんです」
「直接の関係はないよ、ただ顔回は彼女の生き写しだ。 いやそうとしか作れなかった」
「!?」
こいつは何を言ってるのか。
「僕はね、女性型のコンポーネントを作るにあたって何度も試作してきたんだ。 だけど何度繰り替えしても彼女そっくりのものばかり出来上がってしまう」
「それで彼女さんは何か言わないんですか? 自分そっくりな人間を彼氏が作ってるわけですよ」
そう言うとエグゼクティブの笑顔に少し曇りが見える。
「彼女は死んだんだ、僕がエグゼクティブ・プロデューサーになる前日にね」
「え……」
それはどういうことか。ふと隣を見ると顔回も慎重な面持ちで聞いている。
「ひょっとしたら、顔回を俺から取り戻そうと襲撃したのは妻と同じ姿をした人が俺といるのが我慢出来なかったからですか?」
「ああその通りさ、お恥ずかしいながらね」
隣で顔回が襲撃って何のことですか?と聞いてくる。しかし今はそれどころでは無かった。
「知ってる情報全て開示して下さい。 俺たちについて、そしてこの世界について」
「いいだろう君たちは知っておくべきことだ。 最後から2番目の異世界人さん」
エグゼクティブは息を吸い込み、語り出した
「かつてこの世界は詰んでいると話しただろう」
夢でのことだ、確かにエグゼクティブはそう言っていた。
「はい、あれって今思えばアペイロンのことなんですよね?」
「あーアペイロンまで知っているのか。 うんまあ間違ってはいない、ただ順序が違うんだ。 アペイロンのせいで世界が滅ぶのではない、世界の滅びが近づいているせいでアペイロンが起きた」
「世界の滅びが近づいている……!?」
「ああこの世界は直に『収穫』されるだろう、上位次元の存在に」
「あれは僕がエグゼクティブ・プロデューサーになる前日に遡る」
当時、この世界には神はいた。あっ言っておくけど、君たちの世界の神とは違うよ。世界によって神は違うんだ。
そして神は神々の会合、エグゼクティブ・カンファレンスから帰ってきた、やけに上機嫌でね。それは神同士が世界間の揉め事を解決する場なんで基本不愉快な話しかしない所なのにね。
そして、神は言った。この世界は直に収穫され滅ぶと。
その日の会議は次に収穫され滅ぶ世界を決めるための会議だった。俺たちもその存在は知っていたんだが、何しろ世界は無限に近いほどの数がある。選ばれることのないとタカを括っていた。
ところが神は他の神たちに提案されたんだ、お前を他の世界に亡命させてやるから、この世界を差し出せと。
かくして、神はこの世界を捨てこの世界は選ばれることになった。そして自分の神としての権能を僕に譲り渡した。僕は優れていた魔術師でもなかった、強いていうなら真面目だった。大宅世継の弟子の中で一番ね。
僕は断ったんだ、妻にも用がない限り会えなくなるしね。でも拒否権はなかった。僕が断れば神不在のこの世界は収穫を迎えることなく滅びることになる。
そして、その日妻は自殺した。妻は元の世界でいじめられて自殺未遂をしてこの世界に転移してきたんだが、やっと見つけた幸せな日常が崩れ去ってしまったからね、だからまた同じことを繰り返したのだろう。
そこから僕はこの世界を存続させようと頑張った。だけど、滅びゆくこの世界は他の世界からは渡航禁止にされていて、まともな人間を送り込めなかった。君ともう1人を送り込めたのも偶然に偶然が重なったからなんだ。
そして、僕は次第に世界を救うことを諦め、妻が愛したこの世界と緩やかに滅びを待とうと思った。君に倒されるまではね。
「俺っ!?」
話に熱中していたのに急に現実に引き戻される。
「ああそうさ、絶対に勝てない壁。 それを君は僕を倒すことで乗り越えた。 だから僕もいけると思った、勇気をもらったんだ」
「何度も言うようだがアペイロンは滅びの一種だ、ブラックホールが他の天体を吸い込むとき、まずは大気から順に吸っていくようにこの世界はまずマナから収穫されているんだ」
「そんなってことは……」
「アペイロンは滅びのうち序章に過ぎない、本当の滅びが直に来る、だから今から言う事を実践して欲しい。 この世界の滅びを防げるかもしれない唯一の方法だ」
と、エグゼクティブがそこまで語ったところで一瞬目が眩む。
目を再び開こうとしたその時、ゴロンという音が足元から聞こえる。
「え……」
足元を見るとそこにはエグゼクティブの生首が転がっていた。
「うわあああああああああああああ」
思わず叫んでしまう。さっきまで話していた奴がこんな簡単に……死んだんだ。
「クールダウンだよ八王子君」
生首になったエグゼクティブが喋り出す。
「えええええ」
「僕は権能でこの世界が滅ばない限り決して死ぬ事は無い。 とはいえこれは大ピンチだけどね」
さすがに首を切り落とされたのはエグゼクティブにとっても予想外のようだ。本当に動揺している。
「今から言う事を守ってほしい。 まず第一に僕は死ぬ、いくら権能があるからと言っても首チョンパされたらキツイからね。 死んだ時のためにもう1人の異世界人である山崎闇斎君に伝えてあることがある。 それを聞きに行ってほしい」
「山崎闇斎ってあの儒学者の……!?」
「そうだ、二人で協力するんだ」
エグゼクティブは覚悟したように言う。しかし、不思議とその表情は穏やかなものだった。
まるで徹夜明けの人間が仕事が終わりようやく眠れるような、そんな表情だ。
「僕の権能を全て、顔回に移動する」
「それって……」
「ああ僕は死ぬことになる、でも不思議と悲しくはない。 やっとこれで眠れる、妻と同じ所へ行けるんだ。 後は任せた」
そう叫ぶときっかりエグゼクティブは喋らなくなった。
「権能無事受け取りました」
顔回を見る、彼女も覚悟したような面持ちだ。
ドーーーーーーン
大きな音をたててドアが開けられる。あれはシロだ。
「なんじゃこんな時に」
王は怒っているが、それを無視してシロはまくし立てる。
「外を見てください」
外を見るとそこは真っ暗な闇に包まれていた。さっきまでは明るかったのに……
「この城が全域アペイロンに巻き込まれました」




