Extra もう一人の異世界人
ここはショウエツ村。この世界の外側の方にある人口300人程度の小さな村だ。
男はそこを旅していた。
「腹減ったな、ここら辺に茶屋でもあるといいのだが」
男は限界だった。三日間も飯を食べていなかったのだ。ここの世界の住民は自分の住んでいた所とは違い、助け合いの精神が欠如しているらしく、見知らぬ他人に飯を与えようというものはいなかった。
意識が遠のいていく、こんな所で倒れては不味いと思いながらも倒れてしまった。
「大丈夫ですか」
誰かが急いで駆け寄ってくるのが声で分かった。心配するなら飯をくれ、そう思いながら男の意識は途絶えた。
どれだけ長い間寝ていたのだろうか。
目を覚ます。
「大丈夫でしょうか」
知らない男の人の顔だ。そして、自分はどこか屋内にいるみたいだ。
「大丈夫みたいだ、それよりここは?」
「私の店ですね、茶屋ラッスルリマロンと言います」
「そうかありがとう、どうやら俺は道端で倒れていたらしいね」
「はい、急に倒れたから心配でしたよ」
物腰の柔らかそうな人で良かった。男はそう思った。
「名前はなんて言うんだい」
「私、ですか? えーっと、私の名前はカトモンと言います」
「なるほど、カトモンさん。 よろしく」
その時、お腹が大きく鳴り出す。
「恥ずかしながらここ3日間飯を食べてなくて…… その〜」
「わかりました、今厨房から団子を取ってきます」
「ありがたい」
ここに来てから暴徒やら賊やらに出会ってばかりだったが、この世界にも優しい人はいたのだ。それが分かってよかった。
しばらく経ってから
「うわぁぁぁぁぁぁ」
厨房から悲鳴が聞こえる。
急いで駆けつける。
「カトモンさん!!」
カトモンは知らない男に床に組み伏せられていた。その男の周りには2人の男がいる、どちらとも刃物を持っていた。
「お逃げください、これはここら辺で最近幅を利かせている盗賊です。 食べ物や売上を渡せば命までは取られない」
カトモンはどうやら自分を逃がそうとしてくれてるみたいだ。
「待ってろい奉行所を呼んでくる」
そう言い、走り出そうとすると
「ブギョウジョ? 警察のことか? ならばこの村にはいねぇよ、いやあったんだがな。 アペイロンで皆消えちまった」
カトモンを抑えてる男は語り出す。
「アペイロンが起きた土地はな、マナが枯渇して魔術は使えないし、気味が悪いしでよ。 残るは俺みたいな他に暮らす土地がない下賎な奴らばかりだ」
「なるほどここには奉行所はいないのか」
だとしたら話は簡単だ。こちらがこいつらをぶちのめしても怒るやつはいないのだ。しかももう一ついいことを聞いた。ここの土地では魔術なる珍妙な術は使えないというのだ。なら勝てる。
「なんだこいつやる気か」
刃物をもった男が飛び交ってくるが、それを交わし顔面に蹴りを入れる。
2人目、3人目がそれぞれ襲ってくるが動きは素人然としていた。なんなくかわしてボコボコにする。これなら地元にいたゴロツキの方がマシだ。
盗賊達を全滅させた後、彼らは泣きながら帰っていく、本当は追って捕まえたいのだが奉行所がない以上仕方が無い。
振り返りカトモンに言う。
「賊はぶちのめした。それにもうこの店には2度と近付かないように言っといたよ」
「助かりました、本当にありがとうございます」
カトモンは感謝している。
「いえいえ、親切のお礼だし、 こちらもこの世界に来て初めていい人に出会えよかった」
「この世界、ってことは異世界人ですか。 初めて見ます」
道理で喧嘩が強いわけですか、とカトモンは納得しているように見える。
「いやその喧嘩が強いのは元々で……」
「ああそうなんですか、元の世界ではさぞちやほやされたでしょうね」
「いやそうでもなくてね。 乱暴が過ぎるって家族に言われて山ん中の寺に送られちゃって、まあそこからは結局抜けたんだけど……」
「寺ですか、となると確か仏教ですか? この世界にも寺はあるんですよ。 こんな辺鄙なところにはないですが」
「いや仏教はそこまで信じてないんで」
昔を思い出す。
乱暴が過ぎるとの理由で送られた比叡山だったが、初めはウキウキしていた。比叡山といえば天台宗の本家だ、きっと自分を上回る賢人がゴロゴロいるのであろうと。
しかし、その期待はすぐ裏切られるところとなった。いなかったのである、自分以上の賢人は。
となればもうこんな所にいる理由はなかった。すぐ山を降り、今度は誘われた妙心寺に向かった。しかし、そこも期待はずれだった。
そんな時、エグゼクティブに出会った。
「その異世界とやらに行けば俺以上の賢人に会えるのか」
「うーん断定はできない。 だがその可能性は高いだろうね」
「なるほど、ではその任務とやらを教えてくれ」
エグゼクティブが課してきた任務は一つ、もう一人の異世界人の補佐だった。しかし、その後急遽変更されアペイロンの調査と破壊になったのだ。
初めはこの世界に来てから戸惑ってばかりだが、人間慣れれば割とどうにかなるものだ。
「仏教をそこまで信じてないってどういうことですか?」
カトモンの話で現実に引き戻される。
「うーんぶっちゃけあいつらカスなんだよ、民衆はお経が尊いのは知ってるけど、読めない理解できない教典を唱えてありがたぶってるアホダラって内心馬鹿にしてるぜ」
「そんな……」
「まあ別の時代、世界の仏教は知らないがね、俺のいた世界は少なくともそうだった。 だからそれに代わる何かをここに求めてきた」
喋り終えると同時にセンサーが反応する。
「すまんなぁ、どうやら悠長に話してる場合じゃないみたいだ」
「なっ……」
突如周囲が暗くなる。
「始まったか」
「始まったって何が……」
「アペイロンだよッ」
叫ぶと同時に自分の体に眼鏡が装着される。この世界に来るまで眼鏡のお世話になることなんてないと思っていたのだが、つくづく数奇な運命である。
「全解放といこうか」
そう叫ぶと同時に影から巨人のようなものがいくつも飛び出してくる。あれがアペイロンの本体か。
「エグゼキューーーション!!」
名前がダサいのはエグゼクティブが付けたからご愛嬌だ。
眼鏡からビームが出る。光が巨人を焼き尽くしていく、巨人が全滅すると闇が晴れ周囲に光が戻った。
「あなたは一体…… 今のはギフト? いや眼鏡という物品であるからコンポーネントですか」
「いや違うなどちらにも当てはまらない」
少し溜めてから言う。
「俺の能力は潜在能力そう呼んでいる」
「ケイパビリティ……ですか。 何度も助けていただきありがとうございました。 最後にあなた様の名前を教えてください」
「名前か、あー俺の名前は闇斎。 山崎闇斎だ」
そう言いこの茶屋を離れた。長居は無用だ。
闇斎が離れて数分後
「ふぅ、やっと演技も終わりか」
3人の男が茶屋に入る、先程の盗賊だ。
「カトモン・キング様、帰還の命令が出ております」
そのうち1人は言う。
「うん分かってるさ、それより王国直属騎士団の君たちにこんな雑用の調査に付き合わせて悪かったね。 怪我はないかい」
「はい」
男達は声を合わせ言う。
「そうか、それはよかった。 さて帰るとしよう」
そして、四天王第二席カトモン・キングは城へ帰るのだった。




