子曰く 学びて時に之を習う、また説ばしからずや
「おはようございます」
王に声をかける。
王は部屋の奥にある玉座に座っていた。驚くことに部屋には他の人間が一人もいなかった。
「異世界人との面談は機密事項だからのぉ、信頼できるメイドだろうが誰一人入れるわけにはいかんのだ」
王は言う。しかし、この王は何でこんなに落ち着いていられるのだろうか? 顔回の魔法の実力は知っているはずだ。暗殺だって可能だというのに。
「ほう、儂が暗殺を恐れぬことを驚いてるのか」
王は腰の剣を取り出す。この前の国宝の剣とは劣るもののよく鍛えられた剣だ。歴戦の名剣らしく血で黒ずんでいる。
「小童2人くらい一振りで切り落とせるわい」
なるほど、この王は戦いの強さだけでこの座に登りつめたのだろう。そう感じる圧倒的な自信、そして気迫だった。
「は、王様。 今日は一つお願いがあり面談に参りました」
「まぁ待てそうがっつくのでない」
王にたしなめられる。焦りすぎていたみたいだ、内省する。
「まずは異世界人にはこの世界の情勢を話すことになっておるのだ」
そう言うと王は語り出す。この世界の情勢を。
実は顔回はこの世界についての知識は軒並みインストールされているのだが、それでも王様から聞くことにした。実感を伴った話なのかただの知識なのかは大きな違いだ。
「まず一つ目だが、この王国は危機に瀕しておる。 数年前から発生している謎の現象、それにより国土消失とそれによる治安崩壊が起こっているのじゃ」
「なっ、謎の現象?」
「うむ、アペイロンと儂達は呼んでるのじゃが。 その現象は突然前触れもなく起こるのじゃ。 突然周囲から光が消え暗くなる、と思いきや次の瞬間その場には何もなくなっているという現象じゃ」
「何もなくなっている!?」
「うーむ、ある範囲の土地に急に影が射し、その次の瞬間その土地にあった物これは例えば家や木や山 何でもじゃ、それが消えてなくなっており、ただの更地になっているのじゃ」
顔回は初耳だという顔をする、スマホも知らなかったしおそらく顔回の知識はある程度古かったりするのだろう。
「その現象の原因は……?」
「王族直属魔術師に調べさせたが駄目じゃった。 だが一つ分かっていることがある、その消失が起きた土地にはありとあらゆるマナがごっそり削ぎ落とされているのじゃ」
以前顔回に教えてもらったのだが、自然界のマナには種類があるらしい。大気のマナ、土地のマナ、そして空気中の微生物が発している生命エネルギーのマナ等だ。それらがごっそりなくなっているのか。
「この世界は本来ならマナの量は一定に保たれてるはずなんです」
顔回が口を開く、とりあえずこちらも思いついたことを言ってみる。
「水みたいなものか? ほらあれだよ、水は蒸発しても雲になったり雨になったりして循環してるから総量は減らないってやつ」
「そのとおりです先輩。 マナも同じくこの世界を循環しているものです、決して総量は減ることはありません。 それが減るなんて何が起こっているんでしょうか……」
「それにマナは国の資源でもある、それがなくなれば我が国はいや我が国以外のこの世界全てもだが、大きな危機に瀕する。 マナは魔術に必要なエネルギーだからのぉ。 また、消失により財産や家を失った者も暴徒と化しており治安が崩壊しているのじゃ」
なるほどこの世界は魔術によりこの文明レベルを保っている、それがなくなったらとんでもないことになるのは想像がつく。
しかし、自分達にはどうすることも出来ない。
「王様、自分達にはアペイロンをどうにかすることは出来ません」
「うむ、そうか……」
王は本当にがっかりしている。だが、こちらの出来ることは決まってある。
「しかし、治安をどうにかすることはできるかもしれません」
「何っそれは本当か」
思わず王は王座から身を乗り出す。
「はい、この論語を使えば」
ここぞとばかりに持っていた『良くわかる論語』というタイトルの本を取り出す。補講の授業中に使ったものだ。持っていてよかった。
「論語じゃと、何じゃそれは。 その本で暴れる民衆を殴るのか」
この王は脳まで筋肉らしい。
「かつて私の世界にいたとある聖人、彼が残した教えです」
王は途端に警戒し出す。そりゃそうだ、いくら王が戦一筋とはいえ聞いたこともない怪しげな教えを信用するほどアホではないだろう。
「概要を説明します」
こうして、俺は王へ大まかに儒教についての概要を説明を始めた。
思いやりの心である仁、誠実さの信、人として自分のすべき事を守る義、上下関係を尊重したりして仁を実践する礼、学問に励むことである智、それらを重要視すること。
また、親子の親や上司部下の義、夫婦の別、年長者を敬う序、友人関係の信という五倫という人間関係を重要視していること。
初めは王も訝しげな顔をしていたが、全て聞いて割と理解してくれたみたいだ。
「ふむ、君臣による上下関係を認めているわけか」
「はい、儒教は全ての人間が平等という立場は取っておらず、むしろその上下関係の礼をきちんと守ることで人としての仁が実践できるとの考えです」
「そうか、いやすまんな。 以前異世界人が持ち込んできたキリスト教という思想、あれは全ての人間は平等という脅威になりうる思想じゃったのだ、そいつはすぐその場で切り落としたぞ」
なるほど、覇道政治とか易姓革命とかそこら辺の話を出さなくてよかった。
「広める許可を」
「うむいいだろう」
王は立ち上がり言う、それと同時に扉の方へ叫んだ。
「シロよ、もう入っていいぞ」
扉が開く、入ってきたのはシロだった。
「話終わりましたでしょうか」
「うむ、待たせて済まなかった」
「それでは約束の件は!!」
約束の件? 何のことだ?
「えへん、王様の此度の遠征が終わったら私を昇進してくれる約束だったんです」
なるほどそういうことか
「メイド長に、これでメイド長になれるんですね」
「はて? メイド長とは何のことかな昇進とは言ったが」
「え?」
シロは怪訝そうな顔をする。
「君は今日から四天王だ。 ワッタリービ・ローリングサンダーが死んで以来空席だった、第四席そこに君を置こう」
「え〜」
へたへたとシロは倒れ込む、ドンマイと背中を擦る。まあ、あれだけ強ければ納得だ。
何というか、スリザリンは嫌だなぁと思って組み分け帽子を被ったら、組み分け帽子にアズカバン行きを宣告されたハリー〇ッターみたいな顔をしている。
「シロ、お前に四天王として任ずる最初の任務は八王子秀の補佐だ」
「ということは」
「八王子秀と共にまずはドナイーカ村へ向かってもらう」
「そんなぁ」
シロは再び倒れ込む、ダブルショックみたいだ。
顔回と俺は部屋を出た。
さて、これで今後の方針は決まった。
3日間、準備する期間をもらった。この間、王城でくつろぐことにしよう。
ひとまずこれで第一章は終わりです
明日からの間章 故事成語の章をお楽しみに




