子曰く 民の義を努め、鬼神を敬してこれを遠ざく、知と謂うべし
少年は中二病だった、それも生まれながらの……
小学校二年生の時にはもう何の影響も受けてないのに、授業中に窓ガラスを割って敵が侵入してきてそれを力に目覚めて倒す妄想をしていた。漫画を読めば、その主人公と自分を同一視して自分だったらどうするか夢想した。
妄想の中では彼は無敵で無限の可能性を秘めていた。世界を救い、またある時は仲間を守り、強きをくじき弱きを助けた。
悪堕ちした未来の自分を倒したことも、全並行世界の危機を防いだことも、前人未到の迷宮を踏破したことも、ヒロインと結ばれたことも、女にも他の生物にも刀にもなった。
しかし、それと同時に少年は飽きていた。あらゆる妄想を試してしまったのだ。少年は成長していて薄々分かっていた。全て所詮妄想の中なのだと……
でもそれでも何か残るものが一つでもあればいいなと思った。それはどんなに拙く小さなものでもいい。
妄想の中の少年はいつでも勇者だった、そして思うのだった。いつの日か自分も、と。
「クハハハハ、雷霆の槌よ、敵対者を砕け」
そう叫び、巨大な槌を出現させる。
「ふーん、ならばこちらもいくとするかぁ」
エグゼクティブもメイスを創り出す。そして二つのハンマーがぶつかりあった。
「ちっ実力は拮抗と言うところか…… なら」
次に妄想により大量の銃火器を作った。知り合いの米沢君が休み時間に銃火器うんちくを披露としていたのを思い出し、形を形成していく。
「クロスファイアッーーーーーーー」
叫ぶと同時に一斉砲火をする。しかし、爆炎の中無傷でエグゼクティブが現れた。
「所詮その程度がただの人間の想像力の限界なんだよな…… 全く期待外れだよ、これでも本気で期待していたんだよ、この詰んだ世界を変革してくれるって」
「詰んだっ……だと?」
「でももう終わりだ」
そう言うと、エグゼクティブはブラックホールのようなものを創り出す。
先程の世界が詰んでいるという話は気になるが、今は戦いに集中だ。
「ならこっちも」
ブラックホールを創り出す、二つのブラックホールがぶつかりあった。
そこからは何でもありだった。天は堕ち、地は裂け、星々は砕かれ、いくつもの銀河は消滅した。
しかし、2人の戦いはいや……妄想合戦は終わらなかった。
「そろそろかな」
エグゼクティブが何やら詠唱を始める、何を企んでいるのか。
「世界は我が悪夢へ誘われ、そして溶け込む デイドリーム・アルプトラウム」
「なっ……」
周囲が暗転していく、夢の中で意識を失うとは変な話だが、自分の意識が薄れゆくのを感じる。やがて途絶えた。
ここは?
周りが暗くて何も見えない。
「おい、エグゼクティブ出てこい。 まだ勝負は付いてないぞ」
叫ぶが返事はない。とその時、目の前が明るくなる。ここは学校、それも自教室……!?
そして、目の前に人が現れる。あれは……!?
そこにいたのは両親、先生、そしてクラスメイト達だった。
「えっ」
戸惑う自分に彼らは語りかけてきた。
最初に前に出てきたのは父さんだった。
「秀、お前エグゼクティブ様に逆らったそうだな」
ここでようやくこれが幻覚だと理解した。
「お父さんは秀みたいな馬鹿息子を持って恥ずかしいよ」
そう言うと、手に何かを取り出す。それはガソリンタンクだった。
まさかっ。
父さんはガソリンタンクを開け、ガソリンを頭から被る、そうしたかと思うと自分に火をつけた。
「熱いよー熱いよー秀、これもお前がエグゼクティブ様に逆らうからだぞ」
そう言うと父さんは焼死した。
「何なんだよ…… これ」
妄想で武器を創り出し周囲を破壊する。しかし、一向に幻覚から覚めない。
こうして多くの大事な人が死んでいった。
隣の席の留萌はエグゼクティブに逆らったことをなじりながら自らの首を吊って死んだ。
学級委員中の宍戸はエグゼクティブに従うように嘆願してきた、断ると泣きながら自分の体をナイフで滅多刺しにした。
同じ部活の友達の松浦はエグゼクティブ様万歳と叫びながらギロチンで自らの首を切った。
死んでいった奴らは皆エグゼクティブに逆らったことをなじり、そして今からでも従うようにと言ってきた。だが俺は断り続けた。
そして次第に大事な人の死について何も感じなくなってきた。
その時だ。
「伯楽先生……」
そこには恩師がいた、もうこの世にはいない。
「先生待ってください」
自分は先生にお別れを言えなかった。後悔は沢山ある。先生の元へ急いで駆け寄った。
だが、
「エグゼクティブ様に逆らうなんて、八王子君見損ないましたよ。 今からでも従いなさい、彼だけが正しいのです」
そう言うと毒を飲んだ。先生は倒れ、やがてその死体は消えた。
「てめぇぇぇぇぇぇ、エグゼクティブお前だけは許さん」
家族やクラスメイト、そして他の先生が幻覚の中で殺されたのはまだ許せる。現実世界で彼らは生きてるわけだからだ。だが、死者を、それも伯楽先生の尊厳を弄ぶような真似は絶対許されない。
「先生はな、俺に孔子の教えを教えてくれた人なんだよ。 そして先生との最後の授業で先生は俺に言ったんだ。 『何が正しいかは自分で決めることです』と」
「お前の幻術は先生の尊厳をいともたやすく踏みにじったてめぇだけは許さん、エグゼクティブ」
絶対に脱出してやる、そう覚悟を決めた。
エグゼクティブは外で酒を飲んでいた。勿論BYOBだ。そろそろ、終わったかなと覗き込む。
エグゼクティブの術は幻術ではなかった、そうそれは世界を創る能力であった。と言っても教室数個分の小さな世界だったが。その中に相手を閉じ込め精神を折る、これに耐えられる人間は存在しないはずだ。はずだった。
「いないっ!!」
覗き込んだ先に八王子秀はいなかった。
「何処だ、何処に行った」
「ここだよ」
振り返るとそこには八王子秀は立っていた。
「死者を弄びやがって、先生のこと償ってもらうぜ、エグゼクティブ」
エグゼクティブは超高度魔力障壁を張り巡らすが、その瞬間折られた。おそらく空間ごと切断する何かをそれも時間無視で行なったのだろう。
エグゼクティブは理解した。この男には絶対に勝てないと。そして、次の瞬間彼の意識は撤退に全てを向けていた。
「君は素晴らしかったよ、人間で最も大事なのは勇気、そして意思の力だ。 その二つを持ち合わせた君は世界を変革しうると信じている、ナビコは君にあげるよ好きにしたまえ。 じゃあ」
そう言うとエグゼクティブは夢の世界から急いで離脱した。この世界のエグゼクティブ・プロデューサーになってから、初めて彼は死の恐怖を感じたのだった。
一方、秀の方は釈然としない気持ちでいた。
「これでもうあいつは顔回に手を出さないのか」
この戦いは間違えなくこちらの勝ちだろう。顔回と自分は救われたし、神を撃破することができた。これもすべて自分の妄想力のおかげだろう。
ただ、世界が詰んでいる。その言葉の意味は分からずじまいだった。
目が覚める。新たな1日が始まる。
「先輩おはようございます」
顔回だ、どうやら僕の部屋まで起こしに来てくれたらしい。
「ああおはよう顔回」
この笑顔をもし負けていたら奪われていたかもしれない。そう思うと少し誇らしい気がするのであった。
朝食を食堂で食べ終わると、王との謁見となった。
もうこの世界をどう変えるのかは決めてある、奇しくも昨日の夜の戦闘によって。
王の部屋のドアを開ける、いよいよだ。唾を飲んだ。
一方、この世界のどこか。エグゼクティブは負傷した体を休めていた。
「ったく八王子君も無茶するね、おかけでこちらもガラになくガチっちまったよ」
「だけどおかけで彼の実力は測れた、まだ僕にイニシアチブはあるさ」
「さて、もう一人先程送り込んだ異世界人の方はどうかな? 八王子君とのシナジーが気になるところだ」
そう言うと彼はモニターを覗き込んだ。




