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デウス・エクス・マギカ  作者: 囘囘靑
第3章:猫と毒薬(Las Chats e La Toxica)
45/52

第45話:慈悲に慈悲(Mercy uver Mercy)

「まずい……」


 砂山の裏に隠れ、オリヴィエたちの戦いを見守っていたジェゼカは、サイラスの業火に三人が巻き込まれていくのを見て、息を呑むしかなかった。


 炎では致命傷にはならないだろう。それでも、ひとりでも無力化されてしまえば、サイラスを倒すのは難しくなる。そうなると、自分たちが逃げられる可能性も、かぎりなくゼロへと近づいてしまう。


「隠れていてください」


 手近で死んでいるカリハの工兵から、ジェゼカは服と、鎚鉾(メイス)とを奪い取る。


「三人に加勢します――」

「その必要はないわ」

「え……?」


 シーラの発言の意図が分からず、ジェゼカはまじろいだ。


「もっといい方法がある。“笑い声(リュヴ・スメクス)”を起動するの」


 鎚鉾(メイス)を握りしめたまま、遠くに転がっている“笑い声”の機体に、ジェゼカは目を向ける。


 自分の喉が鳴ったことに、ジェゼカは気付いた。“笑い声”を扱うためには、機体と融合しなければならない。融合できるのは魔獣(デウス)だけというのが通説だったが、プロトマギヌスの技術が開発された今、その通説も過去のものであった。


 そして、ジェゼカはプロトマギヌスを投与されている――。


「そうですね。おっしゃるとおりです」


 ジェゼカは鎚鉾(メイス)を投げ捨てる。


「私が“笑い声”に融合して、三人も、シーラ様もお救いしてみます――」

「ウウン」


 ジェゼカの言葉を遮ると、シーラはほがらかに笑ってみせた。


「その必要もないわ。私ひとりで充分よ」


 真意を尋ねようとした矢先、雷に打たれたかのような強い衝撃を味わい、ジェゼカはその場に倒れ伏した。


「シーラ様……?」


 自分を見下ろすシーラを見て、この痛みは、シーラからもたらされたものであると、ジェゼカは察知する。


「いったい何を……?」

「私には慈悲がある。私はそれを、かつて人間(テポス)から教えてもらった。ゆえに私は、何者かの生を選び、何者かの死を選ぶ」


 ジェゼカはシーラを見上げるが、逆光のせいで、表情は分からない。


 もう一度ジェゼカは、シーラの足元に視線を落とす。足元には影がない。


 ――祖廟を訪れてすぐのことを思い出し、ジェゼカははっとなった。あのときのシーラは、それまで衰弱していたのが嘘のように、激しく身をよじって抵抗し、兵士たちの手を焼かせていた。


 もしあの抵抗が、カリハ傭兵団の魔手から逃れるためのものではなかったとしたら? たとえば、自分の身体から影が消え去ったことを勘付かれまいとするための所作にすぎなかったとしたら――?


「ゆえに私は、あなたの生を選ぶ」


 シーラが続ける。その言葉は、どこか歌うような響きを帯びていた。


「この娘は、かつてあなたを救った。あなたはそれに応え、この娘を現に救おうとしている。そこには慈悲がある。私は慈悲に慈悲で応える者。――ここで見ていて。すぐに分かる」


 そう告げると、ジェゼカを置き去りにしたまま、シーラは“笑い声”の方まで去っていく。

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